ブライトリング/プレミエの名を復活させた “本格”への決意表明

2019.02.01

BREITLING / Premier B01 Chronograph 42

ブライトリング/プレミエ B01 クロノグラフ 42

プレミエの名を復活させた“本格”への決意表明

ウィリー・ブライトリングがブランドを率いた1940~50年代は、“プロフェッショナルユースのパイロットウォッチ”という決定的な名声を定着させた時代だった。そうした意味で、1942年に登場した回転計算尺付きの初代クロノマットは、ブライトリングにとって中興の祖とも呼ぶべき存在だった。しかし同時代には、まったく異なる方向性を示したモデルも存在した。回転計算尺を持たないことで、ラグジュアリーの扉を押し開いた「プレミエ」である。満を持して復活を遂げたプレミエには、リブランディングの核となる重要なミッションが課せられていた。

奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木裕之:取材・文 Text by Hiroyuki Suzuki

 歴史や伝統に則しながら、まったく新しいスタイリングを生み出すことは、極めて難しい作業だと言えるだろう。一昨年に妻夫木くんの主演で映画化された『愚行録』の著者でもある貫井徳郎は、〝本格ミステリ〞という推理小説の一ジャンルを指して、かつて次のように語ったことがある。「〝本格〞は先人の築いたパターンを遵守して初めて成立するジャンルである。それを踏み越えてしまったら、アンフェアの謗りを免れない。つまり制約がことのほか多いわけで、にもかかわらず、そこにオリジナリティを盛り込まなければ評価はされない。こんな偏狭なジャンルに傑作が生まれる方が奇跡だろう」(新潮社刊『大密室』所収の書き下ろしエッセイ「密室は遠きにありて思うもの」より抜粋)。時計の世界にもこれと似た部分がある。歴史や伝統に重きを置くことは、すなわち先人のコードに従うことと同義であり、大局的に見ればデザインの縮小再生産にも陥りかねない。たとえ現代的な工作技術を如何に駆使したとしても、要するにそれはセルフパロディなのだ。一方、小説家の西澤保彦は貫井のエッセイを引用して、これを〝本格作家としての決意表明〞と読んだ。筆者は、ジョージ・カーン率いる新生ブライトリングが満を持して発表した「プレミエ」を初めて見たとき、西澤と同じことを思った。このモデルは新生ブライトリングが意欲的に取り組むリブランディングの試金石であると同時に、〝本格への決意表明〞なのだ。

 1942年のクロノマットや、続く52年のナビタイマーの成功で、ブライトリングは一躍、航空時計のトップメゾンと認識されるようになった。機械式時計の復興期となった80年代には、パイロットにとって実用的な性能を保ちながら、かつファッショナブルな新世代のクロノマットが生み出されているが、あくまで開発の軸足はプロフェッショナルユースに置かれており、そのイメージは現在もまだ生き続けている。しかしジョージ・カーン自身が語るように、新生ブライトリングが目指すリブランディングの骨子を要約すれば、それはスタイルを持った計器ということになる。旧来からのコアなブライトリングマニアにも〝アンフェア〞だと感じさせないように、デザインチームが巧妙に選び出したモチーフが、1940年代の「プレミエ」だった。ナビタイマーよりも出自が旧く、かつ伝説の出発点となったクロノマットと同時期に存在していた〝ラグジュアリー・クロノグラフ〞に再び光を当てることこそ、〝先人の築いたパターンを踏み越えない範囲〞で、新たなオリジナリティを構築してゆく最適解だったのだ。その証拠に、新生プレミエのディテール自体はオリジナルをまったくなぞっていないにも係わらず、存在理由そのものがプレミエと同質なのである。この点は「単なるヴィンテージリバイバルを作るつもりはなかった」というジョージ・カーンの確信的な言葉にも集約されている。


 新生プレミエのデザインを象徴するのは、ケースサイドに設けられた3本のグルービングだ。ブライトリングが改めて設けた〝ランドカテゴリー〞のフラッグシップであることを物語るように、ある種のスピード感を演出しながら、ケースサイドの面構成にも適度な抑揚を与えている。ベゼルとバックケースのバランス取りも秀逸だ。ケースサイド(の断面)を直線的に仕上げたプレミエのような造形では、ベゼルとバックケースのフチを、きっちりとミドルケースに合わせるのがセオリーだが、新生プレミエでは両者ともに、ミドルケースからわずかにはみ出させている。ベゼルやバックケースのエッジには適度な丸みが設けられており、それがグルービングとの相乗効果によって、ゴドロン装飾にも似たエレガントさを醸し出しているのだ。現代的なスポーツウォッチ然としたプロポーションを維持したまま、時計全体としてはラグジュアリー感を漂わせている。これもジョージ・カーンがたびたび口にする〝インフォーマルラグジュアリー(=日常を共にする贅沢)〞という新たな価値観の、明確な具現に他ならない。



ブライトリング/プレミエ B01 クロノグラフ 42
1940年代に登場したプレミエの名を継ぐ新生コレクション。クロノグラフ自体が軍用ツールの印象を強めていた時代に登場したオ
リジナルは、パーパスにスタイルを加える重要な転換点となった名作。フラッグシップの2カウンタークロノグラフは、往年のイメージに沿わせるため、Cal.01から12時間積算計をオミットしている。自動巻き(Cal.01)。47石。2万8800 振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径42.0mm、厚さ13.65mm)。100m防水。92万円。


Contact info: ブライトリング・ジャパン ☎03-3436-0011