腕時計の寿命はどのくらい? 長く使い続けるために知っておくべきこと

2023.02.17

自分が何気なく使っている腕時計。好きで買ったものなら尚更だが、家族や知人から譲ってもらったものでも使っているうちに愛着が湧いて、長く使い続けたいと思う人が多いのではないだろうか。今回はタイプ別で時計の寿命と、寿命を延ばす方法について解説する。

広田雅将

2019年4月15日公開記事
2023年2月17日更新


タイプ別に解説。腕時計の寿命

 我々人間に限られたことではないが、この世に物体として存在している以上、寿命というものが必ず訪れるものだ。それは、どんなに高価で高性能な腕時計であっても同じ。形ある構造物はいつか動かなくなってしまうだろう。

 さて、今回のテーマである「腕時計の寿命」だが、一概に何年、と断言できないのが実際のところである。時計を動かすムーブメントの種類や搭載する機能の数、時計のブランド、着用する状況・環境などで大きく変わってくるからだ。

 ここでは、腕時計のタイプを3種類に分け、それぞれで異なる寿命の目安について解説する。

電池で動くクォーツ時計

 現在世に出回っている時計の中で、最も多いのがクォーツ式の時計。ムーブメント内部の水晶振動子に電気を与えて高速で振動させることで、ゼンマイで動く機械式では実現できなかった高い精度を維持し続けることができるという仕組みだ。

 クォーツの原理が発見され、クォーツ時計が実用化され始めた時代は教室のロッカーほどのサイズだったが、技術革新により腕時計のサイズまで小型化され一般的なものになった。数百円の安価なモデルから、数百万円の高級機まで多種多様である。

クォーツムーブメントも千差万別。写真はシチズンが開発した年差±1秒のキャリバー0100。機械式時計のように穴石が用いられた高級使用で、10年間の無償補償が付帯する。

 一般的なクォーツ式ムーブメントを載せた時計の場合は、どんなにメンテナンスしても30年ほどが限界と言われており、その一番の要因は電子回路を用いているから。この電子回路は非常にデリケートで、壊れてしまうと時計としての機能を失ってしまうのだ。メーカーによっては基盤を交換することもできるがそれにも期限があり、特に古いものだとパーツのストックをメーカーが持っていない場合が多々ある。

 しかし、パテック フィリップやジャガー・ルクルトをはじめ、グランドセイコーの9F系クォーツや、シチズンの年差クォーツ時計のように、長期間の使用を前提とした高級クォーツ時計は例外の場合もある。細部まで分解できて壊れても直せる構造を持ち、メーカーは長期間パーツを保管して修理対応する場合が多いので、理論上はより寿命が長いと言えるだろう。


光で発電するソーラー時計

技術のさらなる発展により、近年特に増えているのが光発電のソーラー時計だ。クォーツ式では当たり前である定期的な電池交換が必要ない点が特徴で、日々着用するうえでストレスフリーなのが魅力だ。

 ソーラー時計は、基本的にはクォーツ時計に発電機能を追加したもので、一般的なボタン電池の代わりに充電できる二次電池を内蔵している。充電と放電を繰り返すことになるため、当然ながら二次電池は劣化してしまう。スマートフォンを長年使っているとバッテリーの持ちが悪くなるのと同様だ。

セイコーやシチズン、カシオなど、日本のメーカーはこの分野の技術に長けている。写真のオシアナスは国内で多く普及しているカシオのブランド。青を基調とし、薄型でエレガントなシェイプが魅力だ。

 ソーラー時計に使用されている二次電池の寿命は7年〜10年とされており、メーカーで交換が必要だ。「電池交換不要」が売りのソーラー時計だが、ロングスパンではあるがメンテナンスが必要なことも覚えておく必要があるだろう。


最も古典的で長寿命の機械式時計

 機械式時計の基本的な構造は200年以上前に完成していたと言われており、主ゼンマイを巻き上げることで動く古典的な構造を持つ。そのため機械式時計の寿命は、クォーツ式時計よりもはるかに長く、しばしば世代を超えて使える“一生モノ”だと言われることもある。

 その大きな理由は、電子回路を持たず、細部まで分解できるものが多いから。その代わり完全にアナログであるため、定期的なメンテナンスを行わないと正常に動作しなくなる。分解掃除(オーバーホール)を行わずに使い続けた場合、内部の油が固まり、パーツが摩耗するため、およそ10年ほど経てば動かなくなる事例も多い。

機械式時計の寿命は、壊れてしまった場合交換できるパーツの有無で変わってくることもある。ETAなどの汎用ムーブメントを搭載する時計の場合は、パーツが多く出回っているためメンテナンスで困ることは少ないだろう。

 逆に言えば、メンテナンスをきちんと行うと大幅に寿命を延ばすことも可能だ。壊れてしまった場合でも部品を交換すれば済む場合が多く、適切なタイミングでオーバーホールを行えば何十年も使い続けることができるだろう。

 但しそれはパーツがあった場合に言えること。もっとも、直すのに必要な部品のストックは国産時計メーカーの場合、生産中止から10年、スイスの一般的な時計メーカーでも10〜30年ほどしか持っていない。ただしスイスやドイツの“高級時計メーカー”は、この限りではない。パテック フィリップやオーデマ ピゲは、基本的に修理費さえ払えばパーツをゼロから製作するため、何十年前の時計であっても修理に対応する。

リスト

電子回路を持たず、また完全に分解できる設計を採っている多くの機械式時計に関しては、理論的にはパーツさえ手に入れば直すことができる。とはいえ、生産終了後のパーツ保有義務期間が過ぎたものに関しては、必要な部品が手に入らずに直せないケースも出てくるだろう。なお、一部の高級時計メーカーの中には、創業時から販売したすべての時計を修理可能とうたっているところもある。
画像は『クロノス日本版』No.74(2018年1月号)第3特集「メンテナンスの最前線」内「正規メンテナンス/オーバーホール白書[2017-2018]」より抜粋。なお、価格をはじめとする情報は掲載当時(2017年11月3日)のものである。


寿命を延ばすためには日々のケアが重要

クォーツ時計、ソーラー時計、そして機械式時計、タイプを問わず正しいケアを行うことが、寿命を延ばすうえで大切なことだ。丁寧に使いさえすれば長く日々の生活を共にできるが、間違った方法で使い続けるとたちまち不具合が起きて寿命を短くし、最悪の場合使えなくなってしまうケースもある。

 使うたびに行うべきなのは、ついた汚れを除去することだ。特に夏場は汗をかくため、ケースとブレスレットのつなぎ目やリュウズとケースの間などに、汗や皮脂、ホコリなどの汚れがたまってくる。マイクロファイバークロスやセーム革などで、時計全体を優しく拭き取る。汗などの水分を含む汚れは、金属製のパーツを錆びさせてしまう恐れがあるため、放置は避けるようにしたい。

メンテナンス

 また外装だけではなく、ケース内部のムーブメント気遣いも忘れてはいけない。電池で動くクォーツ式、ゼンマイを巻いて動く機械式、どちらも細かなパーツの集合体であることは変わりないため、常に衝撃が加わるような雑な使い方は避けたほうがよい。

 加えて、直射日光も文字盤やストラップに限らずムーブメントにも悪影響を及ぼす。密閉されたムーブメント内部が日光によって高温になり、ムーブメントに使われる油が変質する恐れがある。精度が極端に悪くなった等の異常を感じたら、修理を依頼することが重要だ。


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