時計雑誌などで目にする単語、「実用時計」と「高級時計」。実のところ明確な違いを定義するのは難しいが、この2種類には外装やムーブメントを比較するとそれぞれ特徴が見えてくる。今回は、具体的なモデルを紹介しながら比較してゆこう。
2023年2月24日、2024年8月17日更新
実用時計と高級時計の区別はできるのか
今回のテーマは「実用時計」と「高級時計」。単語だけ見ても、なんとなくのイメージはつく人は多いのではないだろうか。前者は日常だけでなく運動する時でもガシガシ使えるような時計、後者は衝撃に弱く繊細な時計、また数百万円もするような高価格帯の時計、というイメージだろう。
電池で動くクォーツウォッチこそ曖昧だが、主ゼンマイで動くアナログな機械式時計の場合、明確とは言い難いが、実用時計と高級時計を分けて考えることは可能である。
実用時計の特徴
まず実用時計とされるものは、一般的に搭載するムーブメント内部の主ゼンマイの力(=トルク)が強く、 視認性を高めるために針が太いことが特徴に挙げられる。そして超速機の振動数が高い傾向にあるため、激しい動きをした際でも精度が出しやすいという特徴を持っている。こういった時計として代表的なのは、ロレックスやオメガ、汎用ムーブメントを搭載したエントリークラスの時計だろう。
ただし、このようなハイビート機は、1秒間に8振動(2万8800振動/時)や10振動(3万6000振動/時)で動作するため、そのぶんパーツの摩耗や劣化が早くなり、オーバーホールの頻度が高くなる。加えて、摩耗しやすい特定の部品を交換しなければならないケースも多いのだ。
また、一般的な時計は生産中止後、国産時計メーカーはおよそ10年、スイスの一般的な時計メーカーでも10〜30年ほどしかパーツを保有しないため、持ち主が手にしてから一生、直せるとは限らない。
実用時計の例
では実用時計とはどういったモデルを指すのか。ここでは具体的なモデルを2本紹介し、それぞれ特徴を捉えてゆく。
ロレックス「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」
まず紹介するのは、ロレックスの代表作のひとつ「オイスター パーペチュアル エクスプローラー」。エクスプローラーは「探検家」の意味を持ち、人類初のエベレスト登頂を果たした登山家が着用していたという話が知られており、まさしく実用時計としてふさわしいモデルだ。
自動巻き(Cal.3230)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径36mm)。100m防水。
1953年に初代エクスプローラーが発表されて以来、シンプルなダイアル、太いアワーマーカーと特徴的な3・6・9のアラビア数字インデックスを配することによって、優れた視認性を実現している。針とインデックスに蓄光塗料を塗布することで、暗所での視認性も確保している。
現行のエクスプローラーは、2020年にモデルチェンジされ、ケースサイズは直径36mmに改められた。搭載するのは自社製ムーブメントのCal.3230。独自の技術で安定した精度と耐衝撃性を備え、約70時間のパワーリザーブを備える。
グランドセイコー「ヘリテージコレクション」
日本が誇る時計ブランドであるグランドセイコーは、1960年からスタートした。当時はスイスメイドが多数を占める機械式時計の世界で頂点に立つ時計を目指して登場し、国産時計では初めてスイス・クロノメーター検定規格に合格したという歴史を持つ。
自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径39.5mm、厚さ14.1mm)。日常生活用防水。95万7000円(税込み)。
ムーブメントの開発力を持つグランドセイコーは、3万6000振動/時で動作する高精度機を実現。ここで紹介する「ヘリテージコレクション」Ref.SBGJ251に搭載するCal.9S86もそのひとつだ。外乱に強く、姿勢差による精度差や日差のばらつきを抑え、安定した精度を有している。
また本作はデザイン面でも実用性に配慮する。グランドセイコーのデザイン理念である「セイコースタイル」が定義する“燦然と輝く腕時計”を採用し、光と陰が織り成す無数の表情を生み出している。また、グランドセイコーの魅力のひとつである多面カットの針とインデックスにより、高い視認性を実現している。こういった実用性に加えて、「春の緑豊かな美しさ」を表現した文字盤によって、個性も備えている点にも注目したい。
高級時計の特徴
一方の高級時計は、単にその時計の価格が高価であること以外、次のような特徴がある。寿命を延ばすために、ムーブメントの主ゼンマイの力(=トルク)を弱くしたり、そのぶん精度に影響が出ない程度に針を細くしていることが特徴だ。
また振動数を低めに設定しているムーブメントが多く、1秒間に5振動(1万8000振動/時)や6振動(2万1600振動/時)程度がふさわしいとされている。
ロービートはハイビートと比べると精度を出すことが難しいが、ロービートを搭載する高級機では、歯車やホゾ(歯車の軸)などを磨いてパーツ同士の抵抗を減らすといったコストと手間を掛けることで、ハイビート機に遜色ない精度を得ているのが特徴である。組み立てから仕上げ、細かな精度調整まで、ひとりの職人が行うケースも多い。
高級時計の例としては、パテック フィリップやA.ランゲ&ゾーネ、F.P.ジュルヌなどが挙げられる。また、これら高級時計メーカーの多くは“生涯修理”をうたっている。すでに生産が終わったヴィンテージモデルの修理に対応するブランドも少なくない。
高級時計の例
時計愛好家なら知っているであろう、パテック フィリップやオーデマ ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンなどは紛れもない高級時計ブランドだ。ここでは2本のモデルを例に、特徴を見てゆく。
パテック フィリップ「カラトラバ」
高級時計ブランドの代表格とも言えるパテック フィリップは2021年、往年の名作「カラトラバ」をモデルチェンジした。ファセット仕上げの植字インデックスとドフィーヌ型の時分針が、文字盤にエレガントで時を超越した美しさを与えている。
手巻き(Cal.30-255 PS)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWG(直径39.0mm、厚さ8.1mm)。3気圧防水。508万円(税込み)。
目を引くのはベゼル部分に施された、ギヨシェ装飾によるクル・ド・パリのパターン。これまで幅がわずかに広くなり、傾斜がつけられた。カーブしたラグは、ケース厚8.1mmの装着感向上に貢献している。
また搭載するムーブメント、キャリバー30-255 PSも新規設計されたものだ。これまで薄型ムーブメントでは弱いトルクで精度を出すというのが常識だったが、近年では創意工夫によりトルクをしっかり持たせることも可能になっている。並列に配置された2個の香箱を備え、厚さ2.55mmでありながら約65時間のパワーリザーブを保持している。
F.P.ジュルヌ「クロノメーター・スヴラン」
時計愛好家や時計オークションの世界で近年注目を集めている独立系のスモールメゾン。その中でも高い知名度と実力を持つF.P.ジュルヌからその例を1本挙げよう。
手巻き(Cal.1304)。22石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約56時間。Ptケース(直径40mm、厚さ8.6mm)。3気圧防水。価格要問い合わせ。
デザインからムーブメントの設計・開発までを行ったフランソワ-ポール・ジュルヌ自身も「最も気に入っているモデルのひとつ」と話す「クロノメーター・スヴラン」は、パワーリザーブインジケーターを持つシンプルなドレスウォッチだ。
搭載するのは、Cal.1304。精度を出すためテンプのサイズこそ大きいが、主ゼンマイのトルクを弱くすることでムーブメントの寿命を延ばしている。プレート類が18Kローズゴールド製であることも特徴だ。
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