HUBLOT×マジックゴールド
(右)ポリッシュ後のベゼル。その製法は従来のゴールド合金とは大きく異なる。しかし、素材の比率は18Kゴールドと同等。正確には3%の合金元素を加えた金とセラミックスが主成分である。ただし、ゴールド合金の成分や配分量は社外秘。銅を含まないため、金錆が生じない。
ウブロの開発した硬くて退色しない新素材がマジックゴールドである。こういった特徴を備えた「新しい金素材」は、すでに各社がリリースしている。しかし、マジックゴールドの性能は、他社の新しい合金をはるかに上回る。従来の18Kゴールドに比べて数倍の硬さを持ち、しかも決して金錆が出ないというゴールドは、かつて存在しなかったものだ。ウブロは、いかにしてこの新素材を開発したのだろうか。
フェラーリとのコラボレーションモデル。通常のビッグ・バンより大きい直径45mmのケースを持つ。搭載するのは自社開発クロノグラフムーブメント「ウニコ」。自動巻き(Cal.HUB1241)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kマジックゴールド×グラスファイバー×Ti。10気圧防水。限定500本。310万8000円。
類を見ない性能をもたらした独自の焼結手法
近年、各社は新しい「金」の開発に取り組んでいる。そういった例を挙げると、ロレックスのエバーローズゴールドであり、A.ランゲ&ゾーネのハニーカラーゴールドあるいはオメガのオレンジゴールドだろう。共通するのは、普通の18Kゴールドに比べて数倍の硬さを持つことと、金錆が発生しにくいことである。
ウブロのマジックゴールドは、そういった「新しい金素材」の中でも、最も優れたもののひとつに違いない。その理由は硬さにある。外装に使われる素材の硬さを以下に列記したい。普通のステンレススティールはヴィッカース硬さが約200〜240Hv(鍛造すると300Hv以上)、プラチナは約50Hv、そして通常の18Kゴールドは140Hv(鍛造すると硬くなる)である。対して、A.ランゲ&ゾーネのハニーカラーゴールドは320Hv。しかし、マジックゴールドは約1000Hvもの硬さを持つ。
新しい金素材の多くは、銅以外に何らかの異素材を混ぜて硬度を高めている。ハニーカラーゴールドを例に挙げると、混ぜ物のひとつはシリコンである。一方、マジックゴールドは混ぜ物がほとんどなく、銅も一切使っていない。そもそもゴールドケースに赤錆が発生する原因は、金を割るために添加される銀と銅にある。つまり、銅を使わないマジックゴールドは、理論上、金錆がまったく発生しない。
その製法も、従来の18Kゴールドや他社の新しい金素材とは大きく異なる。これらの多くは、金とそのほかの素材を混ぜて溶解したものだ。対して、マジックゴールドはセラミックスで鋳型を作り、そこに合金化した金を流し込んで成形する。セラミックスを混ぜるのではなく、金をセラミックスの〝窯〟で溶解させた点にマジックゴールドの新しさがある、と言えそうだ。
その製法を具体的に見ていこう。まずは鋳型の製作である。炭化ホウ素の粉末をシリコンの型に入れて焼結し、多孔質の剛構造を持つセラミックスの〝窯〟を作る。そこに3%の合金元素を混ぜ、真空溶解炉で溶解した金を流し込む。セラミックスの〝窯〟に流し込んだ状態で1000℃、200気圧を加えると、金は再溶解し、マジックゴールドとなる。
炉から取り出したマジックゴールドはロールケーキのような筒状の形をしている。グラファイトの軸を抜き、ワイヤ放電加工機でスライスした後、特殊な超音波マシンで細部を加工。最後にポリッシュするとマジックゴールドのパーツが完成する。
素材にセラミックスを混合するのではなく、セラミックスの〝窯〟で焼き上げて生まれたマジックゴールド。退色せず、極めて硬いこの新素材は、ビッグ・バンの可能性をいっそう広げるに違いない。少なくとも、タフに使えるという意味で、これに勝る金素材は今のところ存在しない。