美を求めて進化するケース革命

2021.02.19

HUBLOT×マジックゴールド

(左)ポリッシュ前のマジックゴールドのベゼル。黒く見えるのはセラミックの“窯”で焼結したため。
(右)ポリッシュ後のベゼル。その製法は従来のゴールド合金とは大きく異なる。しかし、素材の比率は18Kゴールドと同等。正確には3%の合金元素を加えた金とセラミックスが主成分である。ただし、ゴールド合金の成分や配分量は社外秘。銅を含まないため、金錆が生じない。

ウブロの開発した硬くて退色しない新素材がマジックゴールドである。こういった特徴を備えた「新しい金素材」は、すでに各社がリリースしている。しかし、マジックゴールドの性能は、他社の新しい合金をはるかに上回る。従来の18Kゴールドに比べて数倍の硬さを持ち、しかも決して金錆が出ないというゴールドは、かつて存在しなかったものだ。ウブロは、いかにしてこの新素材を開発したのだろうか。

ビッグ・バン フェラーリ マジックゴールド

ビッグ・バン フェラーリ マジックゴールド
フェラーリとのコラボレーションモデル。通常のビッグ・バンより大きい直径45mmのケースを持つ。搭載するのは自社開発クロノグラフムーブメント「ウニコ」。自動巻き(Cal.HUB1241)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18Kマジックゴールド×グラスファイバー×Ti。10気圧防水。限定500本。310万8000円。

類を見ない性能をもたらした独自の焼結手法

 近年、各社は新しい「金」の開発に取り組んでいる。そういった例を挙げると、ロレックスのエバーローズゴールドであり、A.ランゲ&ゾーネのハニーカラーゴールドあるいはオメガのオレンジゴールドだろう。共通するのは、普通の18Kゴールドに比べて数倍の硬さを持つことと、金錆が発生しにくいことである。

 ウブロのマジックゴールドは、そういった「新しい金素材」の中でも、最も優れたもののひとつに違いない。その理由は硬さにある。外装に使われる素材の硬さを以下に列記したい。普通のステンレススティールはヴィッカース硬さが約200〜240Hv(鍛造すると300Hv以上)、プラチナは約50Hv、そして通常の18Kゴールドは140Hv(鍛造すると硬くなる)である。対して、A.ランゲ&ゾーネのハニーカラーゴールドは320Hv。しかし、マジックゴールドは約1000Hvもの硬さを持つ。

 新しい金素材の多くは、銅以外に何らかの異素材を混ぜて硬度を高めている。ハニーカラーゴールドを例に挙げると、混ぜ物のひとつはシリコンである。一方、マジックゴールドは混ぜ物がほとんどなく、銅も一切使っていない。そもそもゴールドケースに赤錆が発生する原因は、金を割るために添加される銀と銅にある。つまり、銅を使わないマジックゴールドは、理論上、金錆がまったく発生しない。

 その製法も、従来の18Kゴールドや他社の新しい金素材とは大きく異なる。これらの多くは、金とそのほかの素材を混ぜて溶解したものだ。対して、マジックゴールドはセラミックスで鋳型を作り、そこに合金化した金を流し込んで成形する。セラミックスを混ぜるのではなく、金をセラミックスの〝窯〟で溶解させた点にマジックゴールドの新しさがある、と言えそうだ。

 その製法を具体的に見ていこう。まずは鋳型の製作である。炭化ホウ素の粉末をシリコンの型に入れて焼結し、多孔質の剛構造を持つセラミックスの〝窯〟を作る。そこに3%の合金元素を混ぜ、真空溶解炉で溶解した金を流し込む。セラミックスの〝窯〟に流し込んだ状態で1000℃、200気圧を加えると、金は再溶解し、マジックゴールドとなる。

 炉から取り出したマジックゴールドはロールケーキのような筒状の形をしている。グラファイトの軸を抜き、ワイヤ放電加工機でスライスした後、特殊な超音波マシンで細部を加工。最後にポリッシュするとマジックゴールドのパーツが完成する。

 素材にセラミックスを混合するのではなく、セラミックスの〝窯〟で焼き上げて生まれたマジックゴールド。退色せず、極めて硬いこの新素材は、ビッグ・バンの可能性をいっそう広げるに違いない。少なくとも、タフに使えるという意味で、これに勝る金素材は今のところ存在しない。

マジックゴールドの製法

セラミックスの鋳型を作るプロセス。周囲にあるのはシリコン製のハウジング(型)。中心の軸はグラファイト。炭化ホウ素の粉末を埋め込み、高温高圧で焼結して、金を再溶解するための窯とする。

これはマジックゴールドの原料となるゴールド合金を作るプロセス。ウブロ会長のジャン-クロード・ビバー氏が示すのは金を溶かすための真空溶解炉。正確には、金を溶解するのではなく、素材の組成自体を変えていく。

真空溶解炉に投入された金。素材自体は一般的な24Kゴールドである。ここに3%の合金元素を加えて溶解させたゴールド合金がマジックゴールドの主原料となる。マジックゴールド製造のすべてのプロセスはウブロ社内で行われる。

真空溶解炉で溶解中のゴールド合金。完成すると左のインゴットになる。この製法の共同開発者がスイス連邦工科大学ローザンヌ校のアンドレアス・モーテンセン氏。ビバー氏は彼の部下にあたるセナド・ハサノヴィック氏をウブロに招聘し、マジックゴールドの内製化に成功した。

真空で溶解された金。このインゴットがマジックゴールドの主原料である。3%の混ぜ物を加えたため、素材は金色ではなく銀色に見える。

合金化したインゴット(金97%、ほかの素材3%)を、すでに製作したセラミックスの“窯”で再溶解するプロセス。約1000℃、200バール(≒200気圧)を加えて、合金の組成をさらに変えていく。

セラミックスにゴールド合金を流し込む炉から取り出されたマジックゴールド。芯はグラファイト。その外周がマジックゴールド。芯を抜くと左のような筒状になる。素材が黒く見えるのはグラファイトとセラミックスの色が金に移ったため。

炭化ホウ素は電気伝導性があるセラミックスのため、ワイヤ放電加工機を用いてマジックゴールドをスライスした後、特殊な超音波工作機械で細部を加工する。最後に表面をポリッシュすると、マジックゴールド製のパーツが完成する。

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