高級時計が製造されるまで〜パルミジャーニ・フルリエを支える工房〜(外装編)

FEATUREWatchTime
2020.11.08

ケースはラ・ショー・ド・フォンのLABで製作

 ケースは他のパルミジャーニ・フルリエの全ての時計や、その事実を公表しないことを好む有名ラグジュアリーブランド同様、レ・アルティザン・ボワティエ(略してLAB)で作られている。LABはラ・ショー・ド・フォンを拠点とし、パルミジャーニ・フルリエのケースメーカーとして2000年にサンド財団が取得している。

 このエキスパート集団はCAD(Computer Aided Design)を使用しながらひとつひとつのケースデザインをコンピューターのスクリーン上において3Dで行う。その後、CNC(Computer Numerical Control)旋盤を使って、ケースパーツをミクロン単位の精度で仕上げていく。

 LABで行われる工程は全て型抜きではなく切削機械を用いて行われる。今回着用させてもらった時計を含め、パルミジャーニ・フルリエが販売するほとんどのケースは3ピース構造となっており、ラグはミドルケースにロウ付けされる。

 取材の間にLABのガイドに聞いた話によると、新しいケースのプロトタイプは最初に3Dプリンターで作られ、生産前の真鍮やスティール製プロトタイプの雛形となっているようだ。

レ・アルティザン・ボワティエ

加熱中のケース。この後、高圧水流で冷却されることで「焼き入れ」は完了する。

手作業による仕上げ

 機械を多用したケース作りの最後には、人間の手作業による繊細な工程が待っている。経験を積み重ねたマスタークラフトマンの手によって、ロウ付けや羽布掛け、その他の細かい作業が行われた後、複雑で細かいところまでポリッシュされたトリックのケースは最終段階へ進むことになる。

 LABではサンド財団の意向によって、ケース製造機械には全てスイス製のものが用いられる。さらにケーシングに必要なパーツのうち、サファイアクリスタルやブレスレット、ストラップ、防水性を担保するラバーガスケットなど、いくつかの例外を除いて、ほぼ自社で製造をしている。

LABではポリッシュとバフ掛けは手作業で行われる。

 防水性能の検査は異なる深度に対応した水圧環境を生み出す小さな機械によってLAB社内で行われている。今回は取材中、筆者が着用していたテスト用の時計を、ケース作りが行われているところと同じ場所で稼働している防水検査機器を通すという貴重な機会を得た。このテストウォッチはケースバックに表示されているように、30m防水が標準であるが、検査は50m防水相当の水圧まで行われ、それをクリアした証明書が発行された。


文字盤製作のカドランス・エ・アビヤージュ

 複雑ではあるが、ユーザーフレンドリーな機能性を持つトリック エミスフェール レトログラードの外観的特徴は、グレイン仕上げのホワイト文字盤に見て取れる。

 センターのローズゴールドPVDが施された投槍型の時分針がメインのタイムゾーンを表示し、12時位置に配された第2時間帯表示のサブダイアルに採用された小さな針は、対照的に控えめなロジウム仕上げとなっている。

 1時位置と6時位置のサブダイアルの両方に設けられた昼夜表示は、それぞれ前者が第2時間帯、後者がメイン時間帯に対応している。

 時計の名前にある「レトログラード」は、2時位置から10時位置にかけて配されるカレンダー表示に用いられる。同作のカレンダーは三日月形の先端を持った月針が日付を指し示すポインターデイト方式で、スケール上を31日かけて移動した後に、スプリングによって、目にもとまらぬ速さで1日の表示へと帰針するのである。

手間暇を掛けた磨き

トリック エミスフェール レトログラード

トリック エミスフェールのグレイン仕上げのホワイト文字盤は、シルバーパウダーを馬の毛のブラシで施して仕上げられる。

 トリック エミスフェール レトログラードの文字盤を担当する職人たちは、ラ・ショー・ド・フォンにある別の拠点で自らの仕事に精を出す。2005年にパルミジャーニ・フルリエのウォッチメイキングセンターに加えられたカドランス・エ・アビヤージュである。

 同社はパルミジャーニ・フルリエの集合体としては最も後に加わった会社で、文字盤の開発、製作、仕上げを担当している。またLABと同様に、パルミジャーニ・フルリエだけでなく、ひと握りのハイエンドな顧客を有する。

 そこで働く職人たちはCNC旋盤を用いて伝統的な文字盤素材である真鍮から18Kゴールド、そして希少価値が高く繊細な隕石までさまざまな素材をカットすることから始める。

 これらの加工された素材に、専門の職人がカラーリングや艶出し、無彩色や淡い色などの表面仕上げを施す。最終段階は、スケールの他、インデックスや針などの立体パーツを配する工程となっている。そしてこれらの多くは手作業によるものである。

カドランス・エ・アビヤージュ

文字盤表面の最終工程、ニス掛けとスケール及びアプライドインデックスの取り付け。

 筆者にカドランス訪問のきっかけを与えてくれたトリック エミスフェール レトログラードが採用するグレイン仕上げのホワイト文字盤は、パルミジャーニ・フルリエの為だけに手仕上げによって作られたものであり、同社が行う作業の中でも特別に手間が掛かっている。表面の質感を出すために、真鍮製のダイアルに職人がシルバーパウダーで磨きを施していくものである。

 専門家が馬の毛のブラシで行うこの工程に使われる労力と時間によって、文字盤に光沢とツヤが与えられる。この工程によって作られる文字盤は、同じものは2枚とない特別なものだ。

 次回、ムーブメント製作部門の3社に続く。
https://www.webchronos.net/features/37951/

Contact info: パルミジャーニ・フルリエ Tel.03-5413-5745