年次カレンダー概論。歯車型とレバー型を徹底比較

2019.11.19

歯車+レバー型 年次カレンダー

量産機に向く〝折衷型〟のカレンダー

パテック フィリップの発明以降、歯車型かレバー型しか存在しなかった年次カレンダーのメカニズム。しかし最近は、両者の折衷型が普及しつつある。ベースとなったのは歯車型の年次カレンダー。これは複雑な遊星歯車をコンパクトなレバーに置き換えることで、部品点数とコストを抑えることに成功した設計である。その代表作ともいえる、オメガの年次カレンダー機構を見ることにしよう。

デ・ヴィル アワービジョン

オメガ デ・ヴィル アワービジョン
2008年初出のCal.8601をベースに、1万5000ガウスの耐磁性能を追加したマスタークロノメーター取得のCal.8902を搭載。レバー型と歯車型の“良い所取り”設計が、コスト的にも優れている点は価格を見れば明らかだ。自動巻き(Cal.8902)。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径41mm)。10気圧防水。102万円。

 年次カレンダーには、組み立て時の調整が基本的に不要で、表示レイアウトが比較的自由な歯車型と、強いトルクを有するために大型表示の切り替えも瞬時に行うレバー型がある。それぞれにメリットとデメリットがあり、当然、両方の〝良い所取り〞を狙うブランドも現れる。例えば、オメガのキャリバー8902だ。

 下記の図版は、2008年発表の「デ・ヴィル アワービジョン アニュアルカレンダー」に初搭載されたキャリバー8601のマスター クロノメーター版である。年次カレンダーの設計が現在もほぼ変わっていないことからも、その優秀さは証明済みだ。筒車から年次カレンダー機構への動力は基本的に歯車の輪列で伝えられ、大の月と小の月をプログラムした12カ月カム①がレバーを使って各表示を制御・駆動する。これなら歯車だけで構成するより、輪列にかかる抵抗と製造コストを抑えることができるし、簡潔な機構は工業的生産にも適する。世界中のオメガファンに年次カレンダーの利便性を行きわたらせるために、歯車とレバーの折衷型は最適な選択と言えるだろう。

 オメガの年次カレンダー機構で特にユニークなのは、日付表示ディスクが単なる表示の役割に収まっていない点にある。ディスクの内側に31個の突起があり、1日に1回、日回し車②の爪がその突起を送ることで日付が変わる基本構造は、シンプルな日付カレンダーと同じだが、このディスクにはそれとは別に、ふたつの突起が追加されている。それが機構図で赤く示した部分だ。では、6月30日から7月1日に切り替わる際、年次カレンダーの各部がどのように動いているか、赤い突起に注意しながら追ってみよう。

Cal.8902
Cal.8902
Cal.8902
ふたつの突起(機構図の赤い部分)を追加することで、日付表示ディスクを駆動システムに組み込んだオメガ設計陣のセンスが秀逸。これにより年次カレンダー機構をコンパクトにまとめると同時に、制御レバーの併用によって、瞬時に表示が切り替わるジャンプ機能も獲得できた。もちろん、歯車と突起、レバーを正確に連携させるには厳密な噛み合わせが必要だが、歯車だけに頼るより輪列でのエネルギー消耗と製造コストを抑えられる。後発ゆえのアドバンテージを最大限に生かした、歯車とレバーの折衷型と言える。基本スペックも必要十分で、シリコン“Si14”製のフリースプラングテンプや、トルクを安定させる二重香箱を採用し、オメガの誇るマスター クロノメーターを取得。ローターとブリッジは、美しいアラベスク調ジュネーブウェーブが施される。

 上記のキャリバー8902の機構図は、1日かけてバネに蓄積された力が解放され、日回し車②に固定された日付表示ディスク回し爪③が、日付表示ディスクの内側の歯を送った後の状態である。日回し車の動力は中間車を介して第2日回し車④に伝達され、これに取り付けられた第2日付表示ディスク回し爪⑤は常時24時間で1回転するが、大の月では空回りしている。だが、小の月の場合は、12カ月カム①の凸部が月表示レバー⑥を押し上げているため、第2日付表示ディスク回し爪⑤が、日付表示ディスクの突起⑦に届き、1日分ディスクを右回転させて表示を「30」から「31」へ切り替える。続いて、日付表示ディスク回し爪③が、通常の日送りを行って表示を「1」に切り替えるのだ。

 また、日付が「31」のとき、日付表示ディスクの突起⑧がコントロールレバー⑨の下に入り込んでいるため、コントロールレバーや月星車回し爪制御レバー⑩が中心側に押し上げられ、月星車回し爪⑪が月星車⑫に届いて1歯進める。つまり、日付が1日に替わるのと同時に、月表示も「JUN」から「JUL」へと切り替わるのだ。 このとき、月星車⑫と一体化している12カ月カム①も1カ月分進められるため、月表示レバー⑥は12カ月カムの凹部(大の月)に落ちる。この状態では7月30日になっても、第2日付表示ディスク回し爪⑤は赤い突起に届かないため、空回りを続けることになるわけだ。

 前述した日付表示ディスクのもうひとつの役割は、もうご理解いただけただろう。年次カレンダーを駆動する役目である。ディスク内の右上の突起⑧が月表示の切り替えを始動し、下の突起⑦は小の月の追加の日送りに使用される。正確なレバーの作動には確かな加工と調整が必要だが、12カ月カムと月星車を一体化し、筒車と同軸に配した設計の妙と併せ、そのオメガの合理的な設計には強い感銘を受ける。

ブルーの段付きダイアルを繊細なブラッシュ仕上げとし、ブルーストラップと相まって品格あるスタイルにまとめた。細部に目を向けると、転写して盛り上がった「ANNUAL CALENDAR」のプリントには歪みがなく、クォリティの高さをうかがわせる。「DEVILLE」のロゴ書体は1960年頃に使用されていたタイプで、2006年以降、現行モデルにも採用されるようになった。小ぶりなローマ数字インデックスと細身の3針は18KWG製。
左(内周)に月表示、右(外周)に日付表示をシンプルにレイアウト。ダイアルカラーに合わせて、カレンダーディスクの地色もブルーでコーディネートした。月表示ディスクが日付表示ディスクと同じくセンターに軸を置いた大型タイプのため、窓の横幅を広く確保でき、小ディスクタイプに比べて高い視認性を実現。小の月の30日夜には、まず日付表示が31日に切り替わり、続いて1日への日付送りと、月表示の翌月送りがほぼ同時に実行される。

Contact info: オメガお客様センター ☎03-5952-4400