気ままにインプレッション/ペキニエ「リュー ロワイヤル キャトル・フォンクション ファントム D2011 クールブラック」

2020.01.27

独自性を持った商品には魅力が宿る。そしてそこには明確なコンセプトと合理性が欠かせない。今回紹介するペキニエ「リュー ロワイヤル キャトル・フォンクション ファントム D2011 クールブラック」は、香箱と1番車を別体化した「センターシャフト・ドライブ」といった機構を有するムーブメントを搭載するモデルである。その独自性は着用者になにをもたらすのか? 短い期間であるがインプレッションをする機会を得られたため、ハンズオンレビューを通じてその魅力に迫りたいと思う。

佐藤心一:文・写真 Text by Shinichi Sato

Photograph by Masanori Yoshie


ペキニエ「リュー ロワイヤル キャトル・フォンクション ファントム D2011 クールブラック」

 ペキニエの自社開発ムーブメントであるカリブル ロワイヤルは、従来の自動巻きムーブメントの構造をベースとしながらも、新たな試みが多く採用されている。テスト機の「リュー ロワイヤル キャトル・フォンクション ファントム D2011 クールブラック」は、スモールセコンドとパワーリザーブインジケーター、高精度ムーンフェイズ、そして「フラット3ディスク・ジャンピングデイデイトカレンダー」と名付けられたカレンダーという計4つ(=キャトル)の機能を備え、それぞれの表示が美しく文字盤に収められている。

 つまりペキニエのリュー ロワイヤルコレクションではモデル名が機能数を示しているのだ。搭載されるカリブル ロワイヤルがスモールセコンドのみ備えるシンプルな構成だった場合、そのモデル名は「リュー ロワイヤル アン(=1)フォンクション」となる。いずれのモデルも外観は伝統的なデザインを踏襲しており、手に取らない限りはムーブメントの持つ独自性に気付くことは困難である。

平置きでの精度調査

 テスト機を受け取った私は、着用して連れ出したい欲求を抑えて、簡易的な精度の調査を行った。なお、同機は日本で20本が限定で販売されたモデルであり、パワーリザーブインジケーターの表記が通常モデルとは異なる。というのも、通常モデルでは約88時間のパワーリザーブは88時間を頂点に0時間まで残量が下がっていく表示方法をとるが、テスト機では等時性を保証した約72時間の駆動時間を72〜0時間のカウントダウン式で表示。さらにメーカーが基準とした精度は出せないが、時計自体は動き続ける残り16時間を0〜16時間のカウントアップ式として同じスケール上で表示しているのだ。

 テストにあたってはワインダーで完全な巻き上り状態とした後、平置きで動作を見守った。その間は着用もしていないため、ゼンマイの巻き足しは行なっていない。結果は以下である。

動作時間 パワーリザーブ0までの残り時間 累積誤差(日差)
12h 60h -3sec
24h 48h -5sec (-2sec)
36h 36h -8sec (-3sec)
48h 24h -11sec (-3sec)
60h 12h -15sec (-4sec)
72h 0h -19sec (-4sec)
80h -8h -24sec (-5sec)
測定終了

 目視計測であること、かつ秒針を0秒ピッタリのタイミング時間でチェックできていない(カリブル ロワイヤルにはストップセコンド機能がついていない)ので、±1秒以上は測定誤差があると思われる。ご参考まで。さて、動作時間が48時間程度までは平均日差が-2.75秒、等時性が保証された72時間までの平均は日差約-3.16秒とマイナス傾向ながら安定している。もちろんテスト機は新品ではなく、ある程度使用された個体であるから、このことも踏まえておく必要がある。なお、パワーリザーブ表示も精度良く示されていて信頼できる。

この限定モデルでは等時性を保証する72時間と残る16時間の表記が分かれている。通常モデルでは88時間表記となる。「ISOCHRONISME」の表記が目盛りの役割を果たし、一文字の間隔が約6時間だ。

自社開発ムーブメント Cal.カリブル ロワイヤルの特徴

 最初に長時間のイジワルな精度検証を行ったのには理由がある。このムーブメントは、各輪列をはじめとする機械が動作する際に発生する各部のフリクションロスを極限まで抑えることをコンセプトに開発されているからだ。そのため、ペキニエは巻き上げ量の少ない状態になったとしても精度の悪化を防ぐことができるとうたっている。

 フリクションロスの削減を叶えた最も大きな構造的な特徴は、“センターシャフト・ドライブ”の採用である。これは香箱と1番車を別体化して独自のシャフトでつないだもので、ゼンマイの伸びる力により得たトルクを1番車の回転軸にそのまま伝達する。そのため、1番車にブレやズレの原因となる周方向以外の力が伝わらず、機械的ロスの原因となる輪列全体のブレ・ズレの発生を防いでいるのだ。フリクションロス自体を減らすため、トルクの強い主ゼンマイを用いながら、高効率で動力を伝達できる。さらに効率が高いため、巻き上げ量が少なくなってトルクが減少していたとしても、高い等時性を保てるのだ。

装飾が施されたムーブメントを楽しめるトランスパレント仕様。ローターはスケルトンで、回転軸がややオフセットされている。また、ブランドロゴマークがテンプの位置に重なるデザイン。存在感のあるカリブル ロワイヤル特有の大きな香箱も見える。

 また、カリブル ロワイヤルではベースとなるムーブメントにモデル名の数だけ機能を追加していくが、この機能追加の際にモジュールを使用しないのが特徴だ。モジュールの組み合わせによって多機能化を実現するのはコストを考えると合理的と言えるが、モジュール同士を接続すると、その連結部分でどうしてもロスが発生する。よって、カリブル ロワイアルではモジュールを用いらずに機能が追加できるよう、地板に5.88mmの厚みをもたせ、そこに140の階層を与えた。このため、ベースムーブメントに機能を後から気軽に追加できるほか、モジュールによる動力の伝達ロスが発生しないため、長時間の安定した動作に寄与している。

 そしてフリクションロスの低減は、各歯車の磨耗や油脂類の劣化を防ぐことにつながるため、必要なメンテナンスの周期を延ばすこともできる。これはペキニエが分解清掃周期を6~10年で推奨していることからも明らかだ。