どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。
では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか?
このコラムでは、時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
今回は、A.ランゲ&ゾーネ初のスポーティーウォッチとして華々しく登場した「オデュッセウス」の名前の由来をひもとく。
2020年2月掲載記事
A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス」
A.ランゲ&ゾーネ初のスポーティーウォッチ。同ブランドのレギュラーモデルとしては初めて外装にステンレススティールを採用する。自動巻き(Cal.L155.1 DATOMATIC)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径40.5mm、厚さ11.1mm)。12気圧防水。310万円(税別、2020年4月までブティックのみの先行展開)。
A.ランゲ&ゾーネが東西ドイツの再統合により復興し、最初のコレクションを発表したのは1994年10月24日。その記念すべき25周年である2019年10月24日に発表された新作が「オデュッセウス」である。
すなわち「オデュッセウス」は、A.ランゲ&ゾーネにとって、ことさら特別なモデルだということ。事実、開発プロジェクトは異例なほどに慎重に進められ、完成までに10年以上かかったという。
「オデュッセウス」の最大の特徴はA.ランゲ&ゾーネのスタンダードモデルで初のステンレススティールモデルであること。これはかねてより要望の多かったことだという。
高級時計ブランドではゴールドやプラチナの貴金属ケースが通常。そこで普段は貴金属モデルを着けているオーナーから、週末のレジャー用などに軽く硬く傷のつきにくい「スティールケースのモデルを」というリクエストがあるというのは、よく聞く話だ。いわゆる“ラグジュアリースポーツウォッチ”が生まれたのも、そうしたことからである。
A.ランゲ&ゾーネでも以前よりそのリクエストは多かったという。ギュンター・ブリュームラインの時代からあったというから、つまりは復興した最初期からあったということになる。
A.ランゲ&ゾーネ創業家4代目のウォルター・ランゲ(1924-2017)と共に、1990年の東西ドイツ再統一を機に同ブランドを復興させた最大の功労者であるギュンター・ブリュームライン(1943-2001)。
その後、紆余曲折があり、開発を開始したのが約10年前。完成に10年以上もかかったのは、もちろん新ムーブメントの開発のためでもある。
リュウズ上下のプッシュボタンで日付(アウトサイズデイト)と曜日を1日刻みで進めることができる機構を搭載。しかもリュウズで日付と曜日を戻すことができるのが特筆点。これは時計好きなら分かる画期的な機構である。
しかし、最も時間がかかったのは、一目でA.ランゲ&ゾーネだと分かるフェイスを創案することだったという。かくして誕生した「オデュッセウス」は、なるほど一目でA.ランゲ&ゾーネだと分かる、素晴らしいデザインに仕上げられている。ちなみに、このフェイスのデザインが決定してからムーブメントの開発に着手したのだそうだ。だからデザインが違えば、この画期的なデイデイト機構は、あるいは考案されなかったのかもしれない。