『クロノス日本版』編集部の3人が、話題のモデルのインプレッションを語り合う鼎談連載をスタート。第1回目では、ザ・シチズンの超高精度キャリバー0100搭載モデルを好き勝手に論評する。
光発電エコ・ドライブ(Cal.0100)。17石。838万8608Hz。フル充電時約6カ月駆動(パワーセーブ作動時は約8カ月駆動)。スーパーチタニウム(直径37.5mm、厚さ9.1mm)。5気圧防水。世界限定500本。80万円(税別)。
Photographs by Masanori Yoshie
阿形美子:文
Text by Yoshiko Agata
細田「第一印象は、手のなじみが良くて、実用時計としてすごく便利。ただ、実用性を追求するならデイト付きの方が消費者に優しいのでは、と思うのですが、あえて付けなかったのは、エコ・ドライブの受光能力の都合でしょうか。どう思います?」
広田「受光能力の都合もあるかもしれないけど、デイトを付けなかったのは、精度の表現に振り切るためだと思う。それに、時針の単独運針にデイトを連動させるとメカニズムが大きくなって消費電力が増し、受光能力が追いつかなくなるんじゃないかな」
鈴木「受光不足にはならないと思うけど、デイトを付けると取り回しが複雑になって、厚みも増してしまうので、この仕上がりにはならなかったと思う」
細田「となるとこのモデルは、Cal.0100を搭載する記念すべき一発目だし、マニア向けってことですかね」
鈴木「そうだね。精度を徹底的に追求して、年差±1秒を主張しているわけだし。あと、その精度を時刻表示の面でも100%生かしてるよね。秒針が細いインデックスにピシリと重なるように設計されているのがスゴい。LIGA(微細構造物形成技術)を活用して、3番戻し車の戻しバネや4番停止レバーを作っているからこそ。年に1秒も狂わない細い秒針が正確にインデックスを指し示す様子は見ていて気持ちが良くて、これは満足度高いよ」
広田「そうそう、デザインでも高精度機のコードを押さえているんです。ポイントは、針が長いこと、針の先がインデックスに重なること、ベゼルを絞って文字盤を大きく見せること。つまり、時間を明瞭かつ正確に表示する点にフォーカスしたデザインなわけです」
トランスパレントバックに関して編集部員の意見は?
細田「賛否両論のトランスパレント化されたケースバックについては、どう思います?」
広田「これこそ見せないと! 日本の時計メーカーでようやく、ムーブメントにデザイナーが関与するようになったという意味で記念碑的なムーブメントだと思う。これまで日本メーカーは、ムーブメントの性能と仕上げは向上させてきたけど、見た目そのものへの配慮が今ひとつだったから」
鈴木「最初から見せる意図でデザインされているわけだから、僕も賛成だな。フタをしちゃうと、遊び心も色気もなくなっちゃうし、所有者の満足感を高めるには必要かな。語りのワントピックとしてもうれしいと思う」
例えるなら“超高級なかけそば”
細田「ただ1点、気になるのは、価格ですよね。クォーツ時計にしては、80万円は高いっ! 他の高級クォーツと比べると、グランドセイコーの9Fがもっと安く買えちゃうわけで……。かつ、外装の高級感もグランドセイコーに軍配が上がるかな、と。そこはどう思います?」
広田「グランドセイコーは、外装をビカビカに磨いているからね(笑)。でも、このザ・シチズンはむやみに値付けを高くしているわけではなくて、相応に手が掛かっていると思う。
まず、文字盤と針にお金をかけている。そもそも、エコ・ドライブの文字盤の質感はソーラー時計の中で最良と思っていたけど、これはぶっちぎりじゃないかな」
細田「ソーラー時計は、光を透過させるために文字盤表面にポリカーボネートを使うので、チープな印象になりやすい。でも、このモデルはポリカーボネート文字盤の下に細かい穴を開けたステンレス製の板を敷くことで、メタルっぽい質感にしてますよね」
鈴木「あとは、インデックスにも針にもダイヤモンドカットを施したし、実は夜光塗料まで塗っている。そうやって細かな部分をコツコツ真面目に仕上げているのが、価格に乗っているんだよね」
広田「あと、全体的なパッケージングが優れている。コマ数の多いブレスレットは遊びを持たせるのが難しいのに、7連でも剛性と遊びをうまく両立させて装着感を担保してるし」
細田「このバランスの良さには、ヘッドの軽さも貢献してますよね」
鈴木「着けたままPCの打ち込み作業をしてみたけど、軽くて薄くてほとんど気にならなかった。PCを触る時でも邪魔にならないのは、時流に沿っているよね」
広田「言うなれば、めっちゃ高級なかけそばですよ(笑)。僕の好物の「かんだやぶそば」のかけは具がないのに750円するんですけど、食えば納得する。
時計で例えるなら、オーデマ ピゲの1940年代の時計に近いと感じたな。イメージとしては直径35mmほどのSSで、中身はバルジューからクロノグラフを除いた超高精度機Cal.VZSS。時計として必要なもの以外は載せない潔さとか、高精度なのに見た目は普通なところが近いな、と」
鈴木「うん。一見地味だけど、精度に全振りしたムーブメントや、高精度機のデザインは、むしろ先鋭的に感じる。でも今後、デイト付きやGMTモデルが登場する可能性は十分にあるので、見た目がコモディティ化する前のピュアな感じがある今が買い時かな」
広田「もう1点、買っておくべき理由があるのですよ……」
広田「圧倒的な精度を実現できたのは、ATカット型水晶振動子を採用したから。振動子に関しては、詳しく『クロノス日本版』2019年9月号で書いたけど、私見では今後、振動子はシリコンに移行すると思っている。好例はApple Watch。これだけお金をかけたクォーツ時計を、今後も作り続けられるかはちょっと分からないな」
鈴木「そう考えると、水晶振動子を使った本当の意味での“クォーツ時計”としては、最後の最高峰モデルかもね。これは、シチズンの意地をかけて採算度外視で作ってるし。成熟の頂点として実現させた年差±1秒という意味でも買っておくべきかも」
広田「これまで、クォーツムーブメントの頂点にあったのは、おそらくセイコーの9F。あれは確かに値段も含めて量産型として最高峰だけど、こちらはより精度を出したという意味で最高峰だね」
細田「時計好きでも普段使いの時計に悩んでいるなら、買っておいて間違いないですよね。一見地味だけど、実は尖っているから時計オタクでも納得できる1本」
広田「ただし、このモデルにもひとつ問題があって……。これを着けて銭湯に行ったんだけど、風呂に入る時に外したら、軽すぎて普段から着けてる感覚がなかったんで帰りに忘れそうになって(笑)。だから、外出先で外しちゃダメね」
鈴木「ハカセ、某ブランドの新作発表会の時も他の時計を試着した際にこの時計を外したまま忘れて帰りそうになってましたよね。それは時計の問題というより、使い手の問題なのでは(笑)」
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