1930年代のクロノグラフにインスパイアされた「ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ」は、かつての航空時計と現代の時計製造技術を融合し、ロンジン専用に作られたコラムホイール採用ムーブメントを搭載している。今回は、このモデルの詳細について確認していこう。
自動巻き(Cal.L688.2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ54時間。SS(直径41mm)。3気圧防水。31万6000円(税別)。
Text by Martina Richter
Edit by Yuzo Takeishi
ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ
なぜ、このクロノグラフは「ビッグアイ」と名付けられているのか?その理由はダイアルを見れば分かるだろう。「ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ」のダイアル3時位置には大きな分積算計を配しているからだ。もちろんこれは、朝食に卵を調理する際、5分の茹で時間を計測することはできる。だが、注意してほしい。分積算計の長いインデックスは一般的な5分毎ではなく、3分毎にあしらわれている。つまり、分積算計の針が最初の長いインデックスに到達したとき、卵には十分に火が通っておらず、次のストロークに達したときには卵は固茹でになっているというわけだ。また、分積算計に用いられているアロー形の針がゆっくりと進む様も一般的とは言い難い。ゆえに、正確に経過時間を読み取るためには注意深く確認するする必要があるのだが、インデックスはくっきりとプリントされており、判読しやすくなっている。ダイアル6時位置のインダイアルは12時間積算計で、1時間毎にアラビア数字のインデックス、30分毎にバーインデックスをそれぞれ配している。
デイト表示はなく、時刻表示、9時位置のスモールセコンド、そしてストップウォッチの各機能は、ETAのバルグランジュ・キャリバーA08.L01をベースにしたロンジン専用のキャリバーL688.2が司っている。改良によってコーアクシャル脱進機を搭載した、このコラムホイール採用クロノグラフ・ムーブメントは、オメガのキャリバー3330のベースにもなっているものだ。
さかのぼること数年前、ロンジンは自社の低価格帯モデルに搭載するコラムホイール採用クロノグラフ・ムーブメントを探していた。結果的に導入されたのは当初はA08.231、後にA08.L01と呼ばれたムーブメントで、2010年にL688として採用され、その後L788となった。ムーブメントはカップリングホイールと2つのアームを用いたゼロリセット・ハンマーを採用。そしてプッシュボタンはまるで昔のシルクハットをかぶせたような形状なのだが、操作してみるとこれが実にバランスの良さを感じさせる。このユーザーフレンドリーなプッシュボタンは、ロンジンの数々のヘリテージ・コレクションと同様、ブランドの歴史にインスパイアされた形状なのだ。
「ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ」はヘリテージ・コレクションのひとつで、1930年代のパイロットウォッチを新解釈したモデル。マット仕上げのクラシカルなケースにはステップベゼルを備え、サファイアクリスタルとエングレービングを施したスクリューバックを合わせている。ブラウンのレザーストラップはヴィンテージの風合いを携え、歴史的なパイロットウォッチを想起させるが、ラグのエッジはややシャープに仕上げているのが特徴だ。
マットブラックのダイアルは初期のアビエーションウォッチを想起させるディテールで、コントラストを強調することで判読性を高めている。また、このモデルは3カウンター・クロノグラフのため、いくつかのインデックスはインダイアルによって浸食されているが、蓄光塗料を塗布したアラビア数字のインデックスは暗闇でも高い視認性を実現し、昼夜を問わず現在時刻をしっかりと読み取れる。
今回テストした「ロンジン アヴィゲーション ビッグアイ」は、日差4〜5秒のプラスを記録。これはクロノグラフの動作には関係なく、また完全巻き上げの状態でも、数時間稼働させたあとでも同様の結果となった。もっとも、ムーブメントは安定した動きを見せ、装着した状態でも正確な時間計測を行っている。ステンレススティール製のケースは直径41mmで、人間工学に基づいて設計されたラグや、美しくしなやかなレザーストラップが快適な装着感を実現している。そして何より魅力的なのは、この時計が醸し出す雰囲気が、過ぎ去りし時代を思い起こさせてくれることだろう。