編集長ヒロタ驚喜! 2020年の新作「ポルトギーゼ・オートマティック40」にIWCの底力を見る

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2020.04.28

紆余曲折を経て、ようやく2020年の新作が見られるようになった。そこで4月に開催されたウォッチズ&ワンダーズ(W&W)発表の新モデルから、注目したい1本をピックアップして紹介したい。今回はIWCの「ポルトギーゼ・オートマティック40」だ。

広田雅将(クロノス日本版):取材・文 Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)


小ぶりなケースを手に入れた、新型「ポルトギーゼ」

 4月25日に始まったウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ。個人的に刺さったのは、IWCの新しいポルトギーゼ「オートマティック40」だった。搭載するのは昨年、IWCのリリースしたCal.82000系。「ダ・ヴィンチ オートマティック “150 イヤーズ”」がひっそりと搭載したこのムーブメントに筆者は感激し、この時計、というよりもこのムーブメントについて話を書いた。結論から言うと、このムーブメントは、2005年に発表されたCal.80000系より薄くて機構的にも洗練されている。さらにCal.89000系から転用したテンプはCal.80110ほど大きくないが、IWCの定める精度基準は十分クリアしている。

 ポルトギーゼ オートマティック 40の大きな魅力は、ムーブメントが小さく薄くなった結果(とはいえ直径30mm、厚さ6.6mmもある)、直径40.4mm、厚さ12.3mmという相対的にはスリムなケースを手に入れたことにある。筆者はIWC、とりわけポルトギーゼには甘いが、既存の「ポルトギーゼ・オートマティック」は細腕の人には大きすぎた。

頑強な自社製ムーブメントを搭載した「小ぶり」なポルトギーゼ。デザインは旧作の「ハンドワインド」に酷似しているが、スモールセコンド針が青塗りになり、細く長くなったほか、60の数字も黒に改められた。風防がボックス型サファイアクリスタルではないのは、過剰なレトロ調を廃したためか。自動巻き(Cal.82220)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径40.4mm、厚さ12.3mm)。3気圧防水。72万5000円(税抜)。


ポルトギーゼ・オートマティック40のデザイン

 ポルトギーゼ・オートマティック40の基本的なデザインは、既存のポルトギーゼを忠実に踏襲している。アプライドのアラビアインデックスと、表面のクリアラッカーを若干荒らしたシルバーメッキ文字盤は、いかにもポルトギーゼらしい要素だ。インデックスが小さいため視認性は低いように思えるが、下地が半ツヤ消し、インデックスがツヤありのため、コントラストは強く、時間は常に見やすい。立体的な針も、高い視認性をもたらす理由だ。

いかにもポルトギーゼな文字盤。かつてのポルトギーゼはインデックスがエンボスだったが、今はアプライドに変更された。その結果、小ぶりなインデックスを立体的に成型できるようになり、視認性は改善された。針の袴に台座を噛ませて、文字盤とのクリアランスを詰めるのがIWC流だ。

 多くのIWCファンは同意してくれると思いたいが、スモールセコンドの60が赤から黒に変更された結果、デザインはいっそうのまとまりを得た。一昔前のIWCは赤い差し色を過剰に好んだが、正直、やり過ぎの感は否めなかった。個人的には、色味の変更は歓迎である。ラグの形状も既存のポルトギーゼに同じだが、時計全体を比較した場合、わずかに太くされている。ラグを細くするとよりクラシカルに見えただろうが、おそらくIWCは、この新作をありきたりの「レトロ」にしたくなかったのだろう。個人的には、わずかにスリムなほうがいっそう相応しいと思うが、時計としての「線」は細くなりすぎたかもしれない。なお、自社製のケースは相変わらず出来が良く、これもポルトギーゼの大きな魅力になっている。

風防はほぼフラットだが、造形は意外に立体的である。その理由は、ポルトギーゼではおなじみのコンケーブベゼルを採用したため。リュウズの下には爪を差し込む切り欠きがないが、意外とリュウズは引き出しやすい。

 この時計の大きな魅力は、6時位置に置かれた「適切な」サイズのスモールセコンドにある。もっとも搭載する82系は4番車をセンターに置くダイレクトセンターセコンド輪列であり、6時位置に4番車を持っていない。そのためIWCは、付加機構を加えて6時位置に秒針を移動させた。R&D部の責任者を務めるステファン・イーネン曰く「ネジで固定するモジュールではなく、必要な追加輪列と受けを必要とする、ムーブメントに統合されたインダイレクト・スモールセコンド」とのこと。詳細は改めて聞くことにするが、おそらく、IWCの旧「ポルトギーゼ・クロノグラフ」が、9時位置の秒針を6時位置に改めたのと同じ機構だろう。スモールセコンド化に伴い、厚さが0.7mm増したことを考えると、スモールセコンドのメカニズムはかなり強固であるはずだ。


新しい基幹キャリバー「Cal.82220」

Cal.82220

2019年のダ・ヴィンチ オートマティック “150 イヤーズ”から転用されたのが、新しい基幹キャリバーのCal.82220である。82110をスモールセコンドに変更したほか、小改良が加えられている。直径30mm、厚さ6.6mm。写真は150周年モデルが採用した限定版。今年の新作が搭載する量産版の82220は脱進機がニッケルリンによるLIGA成形ではなく、標準的なものに変更されている。

 昨年発表された82系に比べると、2020年の「量産版」は、明らかに針合わせの感触が良くなっていた。正方向はもちろん、逆方向でもトルクの抜けはなく、感触はスムースだった。ついに量産なった69系の驚くべき手触りに比べると若干落ちるが、量産機としては申し分ないレベルにある。ただサンプルの一部ムーブメントは、針を逆方向に回すと、秒針の動きが不安定になる点は気になった。スモールセコンドを動かすカナに、秒針の動きを安定させる規制バネを加えているのは間違いなさそうだが、このバネは、ひょっとしてカナの頭を抑える、かつてのジャガー・ルクルト式(ジャガー・ルクルトの889やパテック フィリップの315、ロレックスの1570系などが採用した)タイプかも知れない。このタイプは逆戻しすると針の動きが不安定になりがちだ。もっとも設計が開示されてないため、これはあくまで推測だ。

基本設計を1950年のCal.85までさかのぼるペラトン自動巻き。パラメータはほぼ同じとのことだが、爪とローターを支えるベアリング(おむすび型の白い部品)が硬いセラミックス製となり、2019年以降のCal.82220では、爪が噛み合う中間車もセラミックス製に変更された。理論上はほぼ摩耗せず、注油の必要もないため、長期の使用でも巻き上げ効率は下がらないだろう。

 82系の自動巻きは、手巻きの輪列の上に重ねるという、極めて古典的なレイアウトを持っている。近代的な自動巻きは、手巻き輪列と自動巻き輪列を別ルートにしているが、IWCのペラトン搭載機は、基本的に手巻きの上に自動巻きを重ねる手法を好んできた。この方が理論上のスペースは小さくなるだろう。自動巻き機構と手巻き機構の連結をカットするクラッチ(デクラッチ)がどのようなものかは不明だが、何らかのスリップ機構は入っているだろう。なお、このムーブメント(と兄貴分の52000系)は、自動巻き機構の歯車と爪をセラミックスで成形している。理論上の摩耗はゼロであり、ムーブメントを手巻きしても、自動巻きがダメージを受けることはなさそうだ。ただし、コハゼは小さく作ってあるため、「巻き味」は今の自動巻き風である。自動巻きムーブメントに巻き味を求める人はいないだろうが、念のため。

こちらは18KRGモデル。基本スペックはSSモデルに同じ。予価172万円(税抜)。

 時計の装着感は、サイズの似通ったIWCの旧「ポルトギーゼ・クロノグラフ」に似ており(新作は厚さが0.5mm増した)時計の全長もほぼ同じである。ただ、ベゼルが広くないため、シャツの袖には引っかかりにくい。これよりも薄くできただろうが、あまり薄くしてもポルトギーゼらしさがなくなると思えば、この厚みは妥当な選択ではないか。

 さて結論である。無類に屈強なムーブメントを、それなりのサイズのケースに収めたポルトギーゼ・オートマティック40は、いかにもポルトギーゼらしい構成を持つ時計である。これはIWCマニアにも好まれるだろうし、アクティブに動く今のビジネスパーソンにも強くお勧めできる。加えて、IWCらしい上質な外装は、高級時計を持っている、という満足感を与えてくれるに違いない。正直、筆者はポルトギーゼ・オートマティック 40が欲しいし、IWCファンならみんな同じだろw 買いましょう。


2020年 IWCの新作時計

https://www.webchronos.net/2020-new-watches/44735/
IWC 「JUBILEE」レビュー

https://www.webchronos.net/features/20289/