2020年5月末に発売された「セイコー5スポーツ SBSA073」は、クイーンのギタリスト、ブライアン・メイとセイコーのコラボレーションモデルである。セイコー5スポーツをベースに、ブライアンの代名詞である自作ギター「レッド・スペシャル」のデザインをあしらった同作は限定9000本が瞬く間に完売。今回は幸運にもこの限定モデルを入手できた編集部の細田がゆるく、そしてテンション高めにその魅力を語る。
セイコー「セイコー5スポーツ SBSA073」
自動巻き(Cal.4R36)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約41時間。SS(直径42.5mm、厚さ13.4mm)。10気圧防水。限定9000本。5万8000円(税別)。
Text & Photographs by Yuto Hosoda(Chronos-Japan)
ブライアン・メイ×セイコーのコラボレーションモデル
説明不要の英国バンド、「クイーン」のギタリストにして天体物理学博士のブライアン・ハロルド・メイ。彼がセイコー製ダイバーズウォッチの愛用者であることは一部の時計愛好家の中でよく知られた話である。
そんなセイコーと縁の深い同氏がクイーンの来日公演を控えた2020年1月末に銀座和光を表敬訪問し、時計塔の上でセイコーウオッチ代表取締役会長兼CEOである服部真二氏とツーショット撮影をしたことは記憶に新しい。
その際に両者が腕に装着していたモデルこそ、セイコーとブライアン・メイによるコラボレーションモデル「セイコー5スポーツ SBSA073」である。同作はセイコー5スポーツをベースに、ブライアンがキャリアを通して使用し続けてきた自作ギター「レッド・スペシャル」のテイストをデザインに取り入れたものだ。
価格は5万8000円と、正直セイコー5スポーツとしてはかなり強気のプライスタグが付けられていた。しかし迷うことなく購入を決意し、予約。その後、限定9000本が用意されていた同モデルは、近年のクイーン人気を象徴するかのように瞬く間に完売していた。
レッド・スペシャルの質感を見事に再現した文字盤
手元に届いた時計を見て、まず反省。全然5万8000円は高くないっす。搭載されるムーブメントは安定感のあるCal.4R36だし、ケースはよく磨かれている。しかし何より驚いたのはレッド・スペシャル風ダイアルの質の高さだ。
筆者は現物を見るまで、ダイアルは単純にRef.SBSA001のパーツをレッドとブラックの2色に塗り分けただけだと思っていた。しかし実際にはギターのボディ部分に当たるレッドの箇所には木目のような質感が与えられていたのだ。おそらくはダイアルにあらかじめプレス加工を施し、その上からレッドのラッカーを塗っているのだろう。
恐ろしいのはピックガード部分の処理だ。ギターのピックガードは多くの場合、ポリ塩化ビニルやアクリルが使用されている。レッド・スペシャルのピックガードが何でできているのか知らないが、当然木は使われておらず、木目は存在しない。
そして当然のように同作でも、ピックガードにあたる範囲にはブラックのラッカー塗装がされているが木目加工はされていない。厳密には木目加工がされていないのではなく、ブラックの部分はラッカーを厚めに塗ることで、木目を見えなくしているのだ。
正直、ここまで5万円台の時計が文字盤にコストをかけているとは考えてもみなかった。
ふたつの仕上げを使い分けたケース
ケースもなかなかに美しい。とはいえ、ケースサイドに顔を写せば歪まずに……なんてクオリティは当然期待してはいけない。しかしラグの上面をサテン、ケースサイドとベゼルサイドをポリッシュ、とふたつの仕上げを使い分ける手の入れようだ。
なお逆回転防止ベゼルや大きめのリュウズガードから一見ダイバーズウォッチに思えるが、同作は防水性能を100mに抑えたスポーティーウォッチである。そのため、リュウズはねじ込み式ではない。これをプラスと見るか、マイナスと見るかは所有者に委ねられるが、個人的には巻き上げや時刻調整が容易な点はありがたい。
ケースのサイズは直径が42.5mm、厚さが13.4mmと、小径化の進むトレンドの中では若干大きめか。しかし、ダイバーズ風のルックスならばこれくらいのサイズ感は逆にしっくりくる。ヘッドの重さが94gしかないため、腕なじみも良い。
視認性は必要十分
ドットインデックスは程よく立体感があり、日中の視認性は文句なし。デイデイト表示も大きく、読み取りやすい。ちなみに曜日表示は漢字と英語2種類の表記がディスクに描かれているため、リュウズでどちらを使用するか選択できる。
では夜間ではどうなるのか。潜る際に着用する訳ではないのでベゼルのマーカーにこそ蓄光塗料は塗られていないが、秒針のカウンターウェイトと時分針、各インデックスにはルミブライトがしっかりと塗布されている。結果、こちらも期待通り素早く時刻を読み取れる。
随所に見られるコラボレーションモデルらしさ
最後にコラボレーションモデルらしく、“おまけ”が充実していることを追記しておこう。
まずはケースバック。トランスパレントバックにはブライアン・メイのサインと「Limited Edition」の文字が金色でプリントされる。また、冒頭にも述べたように同作は9000本の限定販売のため、シリアルナンバーも刻印されているのだ。
ただ、ブライアンのサインに関しては引き通しのナイロンストラップが通されているために、普段は見づらい。ここをちょっと残念に思うファンも多いだろう。
話が少し脱線するが、ではなぜ、せっかくプリントしたサインが隠れてしまう引き通しストラップを採用したのか。それには、大前提としてブライアンがビーガンであることが関係している。ビーガンである彼が自身の名を冠したモデルのストラップにレザーを採用することを良しとしなかったのは想像に難くない。
ならば選択肢は必然的に他のセイコー5スポーツでも採用されているブレスレットか引き通しのナイロンストラップとなる。そしてこの時計はレッド・スペシャルがデザイン元だ。ならばギターストラップに雰囲気が似ている後者が選ばれたのも納得できよう。
“おまけ”の充実は時計の意匠だけではない。時計を収納するボックスはブライアンが使用しているギターケースをかたどったものだし、その中には彼が演奏する際にピックとして使う6ペンスコインを模した銅貨が入っている。
どちらも遊び心が感じられ、思わずファンならばニヤリとしてしまうだろう。ブライアンに憧れてギターを手に取り、10円玉をピック代わりにしようと使ってみたはいいものの、弾きづらくてしょうがない。そんな経験をしたことのあるかつてのティーンエイジャーたちにとって、後者は特に感涙ものの逸品である。現に筆者がそうだったからよく分かる。
それもこの6ペンスコイン、描かれている横顔はエリザベス女王ではなく、ブライアン・メイ本人である。また、本来ならばイングランドとアイルランド、スコットランド、そしてウェールズの国花が刻まれた裏側にはレッド・スペシャルが彫られているのだ。
真面目な日本企業とロック界随一のインテリによるコレボレーションとは思えないくらいにシャレが効いている。
同モデルに関わったデザイナーも大のクイーンファンとのことだから、やはり製作中はこの企画に携わった担当者の多くが青春時代に戻って、この素晴らしいコラボレーションを形にしたのだろう。
同作は時計の質良し、おまけ良し、シャレ良しの、まさにクイーンファンにとって “買い”な1本だ。ブライアン・メイ愛にあふれた良質なコラボレーションモデルを手にすることができて、いちファンとして実に幸せである。
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