一流のセレブたちは一体どんな腕時計を選ぶのか? 世界のセレブたちのワンシーンを切り取り紹介する連載コラム「セレブウォッチ・ハンティング」。今回は「20世紀最高の物理学者」と評されるアルベルト・アインシュタインの腕時計を紹介しよう!
アルベルト・アインシュタイン
1879年3月14日にドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州ウルム市で、ユダヤ人の両親のもとに生まれたアルベルト・アインシュタイン。時間は相対的であるとする画期的な「特殊相対性理論」や、重力と時間の関係性を説く「一般相対性理論」を提唱したことなどで知られる物理学者だ。時間に関する理論を多数展開し、時間と空間が一体となった「時空」という概念を創出して大きく発展させたアインシュタインだが、生前にはどんな腕時計を着けていたのだろうか。
今回はアインシュタインが釣りを楽しむ瞬間をとらえた写真にフォーカスしてみた。その左手首に写っていたのは、14Kイエローゴールドのトノー型ケースに、スモールセコンドの3針を備えたロンジンの腕時計だ。
ロンジンの1929年製トノー型ウォッチ
この時計は、アインシュタインがかつてアメリカ訪問中に、カリフォルニア州ロサンゼルスでユダヤ教指導者として活動していた人物、エドガー・マグニンから贈られた1929年製のものだ。時計の裏蓋には「PROF. ALBERT EINSTEIN LOS ANGELES FEB.15.1931」と刻印されている。
なぜマグニンがこの腕時計を選んだかは不明だが、当時すでに相対性理論の発表などで世界的に知られるようになったアインシュタインをたたえるに相応しいものとして選ばれたことは確かだろう。ロンジンは1900年のパリ万博でのグランプリをはじめ、歴代万博で最多の受賞数を誇るブランドとして名を馳せていた。名実ともに信頼できる腕時計メーカーとして認知されていたに違いない。アインシュタインに贈られた腕時計は、バイメタル切りテンプとブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを備えたラウンド型キャリバー10.86 Nを搭載したモデルであった。
この時計が贈られた頃、アインシュタインはスイスのベルン市内で暮らしていた。余談だがアインシュタインはバスの乗車中にベルンの時計台(ツィットグロッゲ)の針が不動に見えたことから「特殊相対性理論」の着想に至ったという。第2次世界大戦の影が忍び寄る時代を背景に、ヒトラーが政権を握ったタイミングで、ユダヤ人であるアインシュタインは愛着のあるベルンを去り、マグニンのいたアメリカ・カリフォルニアへ移住した。時計を手にしてからわずか2年後のことである。
実はアインシュタインはその約10年後、別のラウンド型腕時計を着用していたことが確認された。トノー型のロンジンが故障したわけでもないようだが、どんな思いで時計を着け替えたのだろうかというところに思いが至る。
なお、このトノー型のロンジンは2004年にオークションハウス「アンティコルム」のニューヨークオークションに出品された。時計の写真はその出品時に撮られたものだ。落札想定価格2万5000USドル~3万5000USドルに対し、実際の落札価格は59万6000USドルであった。
最後にもう一点蛇足を許されたい。アインシュタインの生誕地ドイツのウルムは、我々クロノスの総本山であるドイツ版の編集部が拠点を置く場所でもある。若干強引かもしれないが、時間を見つめるという共通項においてアインシュタインとの縁を感じる場所である。
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