ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信
2019年を最後に世界最大の時計宝飾フェア「BASELWORLD(バーゼルワールド)」から撤退しているグランドセイコーが再び始動し、画期的な一歩を踏み出した。その意味と背景や影響、さらに時計フェアの未来について考える。
(2021年10月09日掲載記事)
「日本のGS」から「世界のGS」へ
日本の「グランドセイコー(Grand Seiko/略称GS)」が、2022年3月30日から4月5日にスイス・ジュネーブで開催されるエクスクルーシブな時計フェア「WATCHES & WONDERS GENEVA(ウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブ、以下WWGと略)2022」に初参加・初出展する。2021年10月5日、正式に発表された。
この発表に先駆けて、同フェアの事務局も「約40の時計メゾンがフィジカル(※物理的=バーチャルでなくリアル)な時計サロンに出展する」というプレスリリースをオフィシャルサイトと時計関係者へのメールで発信している。
これでグランドセイコーは日本の時計ブランドの中で、ついにスイスの名門ブランドも認める高級ウォッチブランドの座を揺るぎのないものにしたと言えるだろう。アメリカではすでに“スイス名門と肩を並べる存在”として確固たる人気を得ている。そして、このジュネーブのWWGへの参加・出展で、最大の課題だったヨーロッパ市場でも、高級ブランドとして揺るぎない地位を確立する準備が整った。
グランドセイコーの参加・出展はWWGからのオファー
https://www.grand-seiko.com/jp-ja/news/pressrelease/20211005
プレスリリースには、セイコーウオッチ代表取締役社長・内藤昭男氏のこのコメントが掲載されている。
「Watches and Wonders Geneva 2022は、グランドセイコーにとって理想的な発表の場であり、この機会を得られた事に大変感謝しています。この展示会を訪れる多くの方々が、新たなステージへ進化するグランドセイコーを評価してくださると確信しています。そして、2022年の新作を通して、グランドセイコーが高級時計の世界にもたらす、独自の感性と創造性を体感していただけることでしょう」
最終日を除き、招待されたメディア・小売店の関係者しか入場できないというエクスクルーシブな時計フェアにあって、出展側も手を上げればどのようなブランドでも参加が許されるかというと、決してそんなことはない。上記の内藤氏のコメントやプレスリリースには書かれていないが、今回のグランドセイコーの参加・出展の裏には、WWG事務局からのオファー(提案)があったのであろう。これはつまり、WWGに参加する錚々たるブランドが、グランドセイコーを新たに出展するに値する高級ブランドとして認めたということだ。
また、同社の広報担当によれば、このコロナ禍の2年間、多くのオンラインイベントを開催する中、「時計の魅力や価値を伝える上で、実際に商品に触れるフィジカル(リアル)なフェアの重要性はさらに高まっていく。そしてWWGはまさにそれを体現する場である」と確信したことが、参加・出展を決めた大きな理由だという。
欧米の時計ジャーナリストたちは、グランドセイコーのワールドワイドな展開が始まった2010年以降、すでにグランドセイコーの価値を高く評価してきた。だが、今回のWWG2022への参加・出展が決まったことで、グランドセイコーは時計ブランドとしてまたひとつステージを上げた。スイスの時計業界からも、これまでの「セイコー」とは違う別格の評価を受けたと言える。これは日本の時計愛好家にとっても、このうえなくうれしいことだ。