Q:スプリットセコンドクロノグラフって、なぜ珍しいの??
2本の針でふたつの計測時間を表示するスプリットセコンドクロノグラフは、針の軸などをきちんと成形しないと簡単に止まってしまうなど、実はすごく技術的ハードルが高い機構です。
2024年11月9日更新
A:不具合が起こりやすく、非常にハードルの高い機構だから
2本の針で、ふたつの計測時間を表示するのがスプリットセコンドクロノグラフ。フランス語ではラトラパンテといいます。機械式クロノグラフを製造するメーカーは多いのに、スプリットセコンドクロノグラフを作れる会社は決して多くありません。クロノグラフ針をひとつ足すだけなのに、なぜ少ないのか、そしてなぜ値段が高くなるのか。
ほとんどすべてのスプリットセコンドクロノグラフは、クロノグラフ針を動かす力をさらに分けて、スプリットセコンドクロノグラフ針を動かしています。針を動かす力が非常に小さいため、針の軸などをきちんと成形しないと、簡単に止まってしまうのです。また。針の軸が非常に長くなるため、仮に軸をきちんと作っても、抵抗が増えて、止まる可能性が増えます。クロノグラフを作れるメーカーであっても、不具合の起こりやすいスプリットセコンドクロノグラフは、厄介な代物なのです。
センターの秒積算計(クロノグラフ秒針)だけでなく、30分積算計と12時間積算計もスプリット針を持つ超大作。12時間スプリット針以外にはスプリット時の振り落ちを防ぐアイソレーターを備える。手巻き(Cal.L132.1)。46石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWGケース(直径43.2mm、厚さ15.6mm)。3気圧防水。要価格要問い合わせ。(問)A.ランゲ&ゾーネ Tel.0120-23-1845
そんな常識に挑んだのが、A.ランゲ&ゾーネの「トリプルスプリット」です。クロノグラフだけでなく、30分積算計と12時間積算計針もふたつずつあるため、3つの積算時間を時間単位で正確に表示できます。ベースとなったのは、名作「ダトグラフ」。ただでさえ分厚いムーブメントに、3つのスプリット機構を重ねた結果、このムーブメントは極めて分厚くなりました。軸が長くなるため、このムーブメントをきちんと動かすのは至難の業。しかし、A.ランゲ&ゾーネは、軸をきちんと固定し、絶対にぶれないようにすることで、この怪物を動かすことに成功しました。
文字盤側にスプリット機構を移動したブライトリング
ブライトリングが搭載するCal.B03はクロノグラフ機構が収まる裏蓋側ではなく、文字盤側にスプリット機構を追加することで無理なくスプリットクロノグラフ化を果たしたモデルだ。写真は生産終了モデル。自動巻き(Cal.B03)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KRGケース(直径45mm)。30m防水。(問)ブライトリング・ジャパン Tel.0120-105-707
もうひとつの挑戦が、ブライトリングのクロノグラフムーブメントCal.B03です。これは自動巻き機構を持つため、裏蓋側にスプリットセコンド機構を加えるのは大変難しくなります。対してブライトリングは、文字盤側にスプリットセコンド機構を置くことで、容易にスプリットセコンド化を果たしただけでなく、軸を短くすることにも成功しました。量産型のスプリットセコンドクロノグラフムーブメントとしては、最も完成されたもののひとつでしょう。