「グランドセイコーはアメリカでは売れません。こう米国現地法人のマーケティング、営業、仕入れ部門の責任者に言われました。各部門のトップがそんな考えではグランドセイコーは成功できないと考え、高級腕時計市場に精通した新しい責任者を招き、体制を刷新しました」
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]
なぜグランドセイコーはアメリカで成功したのか?
セイコーウオッチ代表取締役社長。1960年、茨城県生まれ。1984年、服部セイコー(現セイコーホールディングス)に入社。セイコー・オーストラリア社長、セイコーホールディングス法務部長、常務取締役、GrandSeiko Corporation of America会長(現在)、セイコーウオッチ取締役・副社長執行役員等を経て、2021年4月より現職。海外営業とマーケティングを知悉する彼は、2016年以降、まったく新しいアプローチによりアメリカ市場にグランドセイコーを定着させた。
こう語るのはセイコーウオッチ代表取締役社長の内藤昭男だ。長らく海外畑だった彼は、Grand Seiko Corporation ofAmericaの社長に就任するや、たちまちアメリカにグランドセイコーを普及させた立役者である。
「海外でグランドセイコーが成功した理由は、2010年にグローバル化を決めて、2017年に独立ブランドにしたことが大きかったですね。それ以前は、5000ドルのセイコーに対して、積極的に取り扱う店舗は極めて少なかった。独立ブランドにして、セイコーブランドと流通を分けることで広がるようになりました」
加えて、彼のチームは大手メディアへの出稿をやめ、代わりに時計メディアやコレクターたちと接触するようになった。
「技術だけでは顧客は付いてこないのです。感性的な価値も打ち出していかないと。日本でグランドセイコーが伸びたのは、2011年以降ですね。その理由は3つあります。ひとつは東日本大震災後の〝絆需要〞。次に海外の高級ブランドが販売店を減らしたこと。そして最後のひとつが、広告に有名プロ野球選手を採用したことでしょう。これで若い層にグランドセイコーが広がりました。当初、人選には社内でも反対が大きかったですけどね」
日本に続いて、アメリカでも成功を収めたグランドセイコー。彼の次の一手は、グランドセイコーに次ぐ、新たな柱の確立だ。
「セイコーでは、グランドセイコーとプロスペックスを2大グローバルブランドと考えています。プロスペックスはダイバーズウォッチが強いけれど、セイコーが計時の世界で培ってきた歴史も打ち出していきたいですね。そのひとつが、2021年に発表したクロノグラフの『スピードタイマー』です。こうしたセイコーの歴史を感じさせる新製品を出してまいります」
周知の通り、2021年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリで、グランドセイコーの通称「白樺」が「メンズウォッチ」部門賞を受賞した。その直前にセイコーは、2022年にジュネーブで開催される高級時計の見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」への参加を公式発表。そして、このインタビューは、わざわざその受賞直後に行われた。あのセイコーが、これほどまでに機敏な動きができるようになるとは、いったい誰が想像しただろうか?
2021年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリで「メンズウォッチ」部門賞を受賞したモデル。曰く「限定品ではなく、レギュラーモデルでの受賞が何よりうれしい」とのこと。傑出した自動巻きムーブメントに、極めて良質な外装を持つ。自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。104万5000円(税込み)。
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