平均価格数千万円の時計を、年に100本製造するグルーベル フォルセイ。関係者に聞くと、コロナ下にもかかわらず、むしろビジネスは絶好調だという。現在、同社を牽引するのは、元ジラール・ペルゴCEOのアントニオ・カルチェだ。高級品とはいえ、量産品を作っていた会社から、極端なオートオルロジュリーの世界への転進。なぜグルーベル フォルセイは、彼を必要としたのだろうか?
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]
いよいよ拡大に舵を切るニッチメーカーの雄
グルーベル フォルセイCEO。1967年、イタリア生まれ。工学と経営学を学んだ後、94年にピアジェへ入社。技術部門の責任者を務めた後、パネライに移籍。2000年から05年にかけてマニュファクチュール パネライの責任者を務める。その後、コルムの副社長として招聘され、07年からCEOに就任。マニュファクチュール化に携わった手腕を買われ、15年にはジラール・ペルゴCEOに就任。20年から現職。
「創業者であるロベール・グルーベルは15年前から知っていた。2020年の秋、彼からこれからの戦略、今後10年の戦略を考えてくれと言われた。クリエイティブだけでなく、組織や流通を含めてね。グルーベル フォルセイというのはニッチな会社だが、従業員が120人もいる。もはやマネジメントチームと戦略は必要だと思うね」
カルチェが進めるのは、新しい分野への進出だ。「当社には現在、ヒストリカルピースというひとつの柱がある。今後はそこに新しいセグメントの時計を加えたい。若い世代に訴求するデザインとモダニティを持つコレクションだ。今後、3〜4年かけて増やしていきたい」。その計画は、ニッチメーカーとしてはかなり野心的だ。
「今後、年産本数を500本に増やしていきたい。しかし、クォリティはひとつ。つまり今までのものとは変えないということだ。来年は1月、3月、7月、9月に新製品を発表していく。ターゲットとしているのは、時計に対して教育された人たちだ」
正直、グルーベル フォルセイの驚くべき仕上げを維持したまま、本数を増やせるかには疑問が残る。しかし、タイムスケジュールまで明言したということは、勝算があるのだろう。では、そんな中にあって製造部門であるコンプリタイムはどうなるのか。同社は、リシュモン グループなどを顧客に持つ、極めて優良な工房だ。
「確かに他社との取引はあるが、現在、同社の製造するものの85〜88%はグルーベルフォルセイ向け。ほぼ、自分たちのためにある会社と言ってよい」
2021年は史上最も良いセールスを記録するはず、と語るカルチェに意地悪な質問をしてみた。コロナ下にあって、F.P.ジュルヌやMB&F、グルーベル フォルセイといったマイクロメーカーは業績を伸ばしている。いわゆる「時計バブル」が終わったら、会社としてどう対処するのか?
「これらの会社に共通するのは、同じセグメントに競争相手がいないこと。そしてコンテンツと創造性が飛び抜けていることだ。また、独立しているため、政治ゲームに巻き込まれることもない。顧客たちはスペシャルなもの、よりエモーショナルなものを求めており、その傾向はコロナ禍が収束しても変わらないだろう」
グルーベル フォルセイが向かう今後の方向性を示唆するのが本作だ。直径12.6mmのテンワを30°傾けて搭載する。ベーシックなスポーツモデルだが、内外装の仕上げは相変わらず圧倒的だ。外装にチタンを使うことで、総重量は抑えられた。手巻き。42石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti(直径46.5mm、厚さ15.7mm)。10気圧防水。世界限定88本。価格未定。
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