セイコーは2021年に創業140周年を迎えた。そしてこれを祝うべく、グランドセイコーが記念すべき年にふさわしい限定モデルを多く発表した。どのモデルも、現在のグランドセイコーの世界観を表現しつつ、高い技術に裏打ちされたものだ。そこで既に完売したモデルも含め、2021年に発表されたグランドセイコーの限定モデルをまとめて紹介する。
Text by Shinichi Sato
2021年12月26日掲載記事
グランドセイコーにとって重要なマイルストーン「44GS」55周年を記念したモデル
現在のグランドセイコーのデザイン文法である“セイコースタイル”とは、「燦然と輝く時計」のあるべき姿に必要な要素を定義したものであり、1967年発表の「44GS」が確立したものだ。特徴は、円形ダイアルの4つの接線からなる直線的なケースサイドのラインと、鏡面研磨されたケース平面、多面カットの太い時分針などが挙げられる。これは、「屏風」や「障子」のように、直線と平面を主体にしてシンプルに構成しながら、そこに生まれる光と陰が織り成す無数の表情に美を感じる日本の美意識に根差している。
セイコースタイルは、和の様式に見られる直線と平面で構成されたシンプルなデザインに、光と陰と、その間に生じるグラデーションを表現するものだ。その構成要素として、以下が定義されている。
・他のインデックスの2倍の幅を持つ12時インデックス
・多面カットのインデックス
・鏡面研磨されたガラス縁上面
・鏡面研磨されたケース平面
・半ば胴に埋めたリュウズ
・フラットダイアル
・多面カットの太い時分針
・接線サイドライン
・逆斜面形状のベゼル側面とケース側面
ヘリテージコレクション メカニカルハイビート GMT 44GS 55周年記念限定モデル SBGJ255
自動巻き(Cal.9S86)。37石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約55時間。ブライトチタン(直径40mm、厚さ14mm)。10気圧防水。世界限定1200本(うち国内500本)。94万6000円(税込み)。
2022年の「44GS」誕生55周年を前に発表された「ヘリテージコレクション メカニカルハイビート GMT 44GS 55周年記念限定モデルSBGJ255」は、14年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(GPHG)で「Prix de la Petite Aiguille(小さな針賞)」を受賞し、セイコースタイルの認知度を高めるきっかけとなった記念すべきモデル「SBGJ005」をベースにしている。今作のケースとブレスレットはブライトチタン製で、“燦然と輝く時計”にとって欠かすことができない直線と平面の美しさを生み出すザラツ研磨が施される。従来のブライトチタン製モデルでも採用されている技術であるが、一般的に研磨が難しいとされるチタンに磨きをかけている点は、グランドセイコーの技術力の高さを再認識させられる。
ダイアルはグランドセイコーの王道であるホワイトカラーで、ブランドのイメージカラーであるブルーの「GS」ロゴを配し、ブルースティール製のGMT針を備える。ムーブメントは、グランドセイコーを象徴する技術のひとつである10振動のハイビート機にGMT表示機能を備えるCal.9S86で、パワーリザーブは約55時間である。また、55周年記念モデルの証として、陽極酸化処理を施した金色のチタン製回転錘を採用している点が特徴である。
創業者の信条とブランドの進化を表現したセイコー創業140周年記念限定モデル
セイコーの創業者である服部金太郎の「常に時代の一歩先を行く」信条のもと、グランドセイコーはブランド誕生以来、最高峰の腕時計を目指して正確さ、見やすさ、美しさといった腕時計の本質を高い次元で追及・実現するため、革新と進化を続けてきた。この信条と進化を、1年ごとに1層ずつ年輪を刻む大樹にイメージを重ね、それをダイアルに投影したセイコー創業140周年記念モデルが発表された。
デザインは、「シリーズ9」としてセイコースタイルを再解釈したものに準じており、歪みのない直線と平面で構成されたケースと、深く溝を入れたインデックス、力強い対比関係によって識別性を高めた立体的な時分針が特徴である。
有機的な年輪が表現されたダイアルは、従来の型打ち模様よりも高低差を広げ、流線的な木目の溝にも細かな筋目加工を施している。実際の木材を使うことなく金属素材で表現する点は、日本の伝統的な木目金に通じる精神性が感じられ、グランドセイコーらしいアプローチと言える。
ヘリテージコレクション シリーズ9 9SA5搭載 セイコー創業140 周年記念限定モデル SLGH007
自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。Pt(直径40mm、厚さ11.7mm)。10気圧防水。世界限定140本。600万円(税込み)。
創業者の信条とブランドの進化を表現した年輪模様のダイアルを黒く染めた「SLGH007」は、近年のグランドセイコーの飛躍のひとつと言える新世代のメカニカルハイビートムーブメント、Cal.9SA5を搭載する。Cal.9SA5は、地板を拡大し自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに置いて薄型化を実現したのに加え、デザイン性に優れたプレートには「雫石川仕上げ」をはじめとした高い仕上げ技術が注がれている。今作では、この見応えのあるムーブメントをトランスパレントバックから鑑賞可能である。また、高効率なデュアルインパルス脱進機やツインバレルによって3万6000振動/時のハイビートでありながらパワーリザーブ約80時間を実現しており、実用性も高い。
ケースはプラチナ製で、特別な今作にふさわしいものとなっており、薄型設計のCal.9SA5によってケースの仕上がり厚さは11.7mmに抑えられている。また、ゴールドインデックスを採用したダイアルを示すSDマークが6時位置に配される。往年のGSではおなじみのSDマークが与えられた点は、ファンにとっての注目点のひとつである。
ヘリテージコレクション シリーズ9 9RA2搭載 セイコー創業140 周年記念限定モデル SLGA008
自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RA2)。38石。パワーリザーブ約120時間。18KPG(直径40mm、厚さ11.8mm)。10気圧防水。世界限定140本。550万円(税込み)。
年輪模様を施したもうひとつの限定モデルである「SLGA008」は、ダイアルをダークブラウンとし、ケースに18KPGを採用する。インデックスにも18KPGが用いられており、深みのあるダークブラウンの色調と、華やかで暖かみのある18KPGのコンビネーションが美しいモデルに仕上がっている。また、SLGH007と同様にSDマークが6時位置に配される。
今作は、2020年発表の次世代スプリングドライブムーブメントのCal.9RA2を始めて搭載したモデルである。Cal.9RA2は、パワーリザーブインジケーターを裏面に配した他、9SA5と同様に地板を拡大し自動巻き機構と輪列を同じレイヤーに置く、新世代の設計思想による薄型設計を採用している。これにより、ケースの仕上がり厚さは11.8mmに抑えられている。さらにパワーリザーブは約120時間であり、実用性が高い点が特徴だ。また、トランスパレントバックから覗くプレートの仕上げは、厳寒期の信州地方で見られる霧氷を表現した「信州霧氷仕上げ」が施される。