パイロットの要望から生まれたGMT表示機能と回転ベゼルの関係
民間パイロットの要望に応えて作られた歴史を持つロレックス「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」も回転ベゼルを持つ。搭載するCal.3285は時分秒に加えて24時間で1周する4本目の針となるGMT針を備え、これに合わせてベゼルには24時間表示のインデックスが刻まれている。
GMT針と24時間表示の回転ベゼルは、工夫次第でさまざまな使い方ができるが、本来の使用方法をおさらいしておこう。GMT針をUTC(協定世界時)に合わせ、時分針をホームとなる、例えば日本の標準時(UTC+9時間)に合わせる。パイロットがニューヨーク(UTC-5時間)へ飛行する場合、ニューヨークの現地時間が知りたくなる。そこでベゼルを5時間分右回転、すなわち三角マークがダイアルのインデックスの2時半の位置となるようにベゼルを回転させる。すると、仮にUTCが0時の場合、ベゼル上のインデックスとGMT針によってニューヨークは19時であることが分かる。なお、この時の時分針はダイアルのインデックスで5時を示しているはずだ。
パイロットが東西に行き来する時、時間帯をプラス方向とマイナス方向に行き来することになる。そのためベゼルは両方向に操作可能であるのが一般的だ。ベゼルの意図せぬ移動によって生じる時間の読み間違いは事故につながるかもしれないが、実際の飛行においてはUTCでやり取りをするため、GMT針を動かさなければ問題が少なく、ベゼルの両回転による利便性を優先したものと考えられる。
パイロット以外でUTCを意識するのはIT業界である。システム上の時間管理はUTCと、そこからの時差によって表されることが多い。また、世界各国の拠点との連絡時やリモート会議を行う際には、相手先の現地時間が気になるところだ。そこで、相手先の時間帯に合わせてベゼルを回転させてGMT針で時間を読み取ることで、ひと目で相手先の現地時間を把握することができる。
このような使い方以外にトラベルウォッチとしての用途も有用である。GMTマスターⅡの取扱説明書を参照すると、トラベルウォッチとしての用途を想定した使用方法が説明されている。最初に、時分針とGMT針の両方をホームとなる日本の時間帯に合わせておく。この状態であれば、現在が午前なのか午後なのかをひと目で判断できる。ここでイギリスに旅行することを考える。イギリスはGMT+0時間で日本との時差は-9時間であるので、時針の単独修正機能を用いて時針を9時間戻す。これにより12時間表示のダイアルはイギリスの現地時間を表示し、GMT針は日本の時間帯を示している。イギリスからニューヨークに連絡を取りたいと考え、ニューヨークの現地時間を知りたい場合は、日本に対してニューヨークは14時間遅いため、ベゼルを右回転に14時間分、三角マークが7時の位置にくるように回転させる。これにより、GMT針の指す時間がニューヨークの現地時間になる。
東から昇り西へ沈む太陽の位置と時刻の関係から方位を知る
この他の回転するベゼルの活用方法として簡易方位計がある。セイコー「プロスペックス アルピニスト SBDC091」は、ダイアル外周に備えたインナーベゼルに方位が記されている。北半球でこの機能を使用する場合、まず、時計を水平に保って時針が太陽の方角を向くように時計全体を回転させる。次に、ベゼルの「S」を時針と12時位置の中間に合わせる。これでベゼルの表示が方位とおおよそ一致する。
簡易方位計となるインナーベゼルの目盛りが、測時のためのインデックスを兼ねるため、ダイアル上はあくまでシンプルで、正確な時間測定にも使用できる点が秀逸なデザインだ。自動巻き(Cal.6R35)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径39.5mm、厚さ13.2mm)。8万2500円(税込み)。
季節による太陽位置の違いで方位の誤差がでることや、曇天時は太陽の方角が不明で使用できないこと、北半球と南半球で使用方法が変わることなど制約は多いが、現在のようなGPS端末や携帯電話が一般的ではなかった時代にはフィールドワークにて活躍したものと思われる。
SBDC091では、ベゼルの操作用のリュウズが4時位置に配置されている。時計の着用状態では操作しやすいとは言えないが、時計を水平状態に保って操作し、太陽の方向に合わせて時計をぐるぐる回転させることから、時計を外して操作することを想定しているのであろう。非着用状態であれば操作しやすい配置となっており、操作するシチュエーションにマッチしたものとなっている。