2021年に追加されたセイコー「プロスペックス 1970 メカニカルダイバーズ 現代デザイン SBDC143」は、1970年に発表された“ウエムラダイバー”を現代的に再解釈したモデルだ。そんなレトロモダンな同作を、登録者数5万人を超えるYoutubeチャンネル「腕時計のある人生Channel」のRYが1週間インプレッション。外国船籍の船長でもある氏が“みどり豊かな場所”にこそ似合うというSBDC143の魅力とは?
自動巻き(Cal.6R35)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SS(直径42.7mm、厚さ13.2mm)。200m防水。14万8500円(税込み)。
Text & Photograph by RY
セイコー「プロスペックス SBDC143」を1週間着けてみて
私が初めて手にしたセイコーのダイバーズウォッチは、愛好家から“ブラックボーイ”の愛称で親しまれている「SKX007」であった。
過酷な海上勤務の相棒として、安価で信頼性の高いダイバーズウォッチを探していた折に見つけて購入に至ったのである。結果は大正解。大のお気に入り時計となった。
以降も“オレンジボーイ”こと「SKX011」、“タートル”こと「SBDY015」と“乗り継ぎ”、セイコーダイバーズは私の時計人生において重要な意味を持っている(セイコーのダイバーズウォッチは、自然発生的に愛好家からつけられるニックネームが豊富で、しかもどれも思わず頷いてしまうような出来で面白い。世界で愛されている証拠だろう)。
そんな「戦友」とも呼べるセイコーダイバーズのプロスペックスシリーズから「1970 メカニカルダイバーズ 現代デザイン SBDC143」を手にする機会を得たので、着用インプレッションをありのままに記述していく。
この時計を手にとってまずパッと目を引くのは、左右非対称の独特な形状である。ダイバーズウォッチの王道路線からは、一本脇道に逸れるデザインだろう。それ故に、見た目の面で好き嫌いが分かれそうだというのが率直な第一印象だ。
しかし「そんなことはどうでも良い。俺は俺の道を征く」。そんな声が聞こえてきそうなほど真っ直ぐ無骨で硬派、威風堂々としたオーラを感じる。
SBDC143のオリジンは1970年発売、世界的に有名な冒険家・植村直己が1974年〜76年にかけて行った北極圏1万2000km犬ぞりの旅に携行された伝説的な時計(通称“ウエムラ・ダイバー”)であることも関係しているかもしれない。
植村氏に準えて雪山でSBDC143の“テストドライブ”をしたいところだったが、季節は春。桜と風情を楽しむため古都・鎌倉を散策することにした。
優れた装着感の秘密
ケース径42.7mm、厚さ13.2mmと比較的大きい部類の時計だが、ラグからラグの長さ、つまり全長は46.6mmと比較的短いため、私の腕周り15.5cm弱の細腕にも収まりが良く、着用してみると意外なほど軽く感じる。取り回しが非常に優れ、むしろ軽快感さえ覚えるほどだ。これには驚いた。
特筆すべきは製紐(せいちゅう)と呼ばれる日本の伝統技法で編み込んで作られたファブリックストラップだ。
公式HPには「一般的な織紐と異なる袋状に編み上げる構成により、端面に切れ目がなく、肌あたりが良い仕立てになっています。しなやかで通気性が良く、常に心地よい肌触りを保ちます。」とある。
確かに、NATOストラップの端面にたまにあるようなチクチクとした感触がなく、着脱時から一貫してサラサラとして心地良い。鎌倉散策の日はとても暖かく、ほんのりと汗をかくほどだったが、不快なベタつきや蒸れ感はなかった。
一般的なNATOストラップと比べると厚みがあるので、時計のケース厚以上に時計が腕から盛り上がってしまう。しかし、伸縮性があるおかげで時計と腕をキチッとホールドしてくれるので、腕を振っても時計がブレることはなく、安定性に非常に優れている。
外国製の時計はベルトやストラップのサイズが私の腕に合わないことが多々あるのだが、日本製の時計らしくぴったりと収まって気持ちがいい。
一見その見た目から着用感に不安を覚えてしまいそうだが、この製紐ファブリックストラップのおかげもあり、時計の着用中はそんな不安を一切忘れてしまうほど素晴らしいと感じた。
私は時計を車に例えることがたまにあるが、時計におけるストラップやベルトは、車でいうところのタイヤに相当するのではないかと考えている。どうしても時計の本体や車のボディに目がいきがちだが、実はその着け心地や乗り心地に大きく影響を及ぼしているのはストラップやタイヤであり、全体の満足感やパフォーマンスを左右する縁の下の力持ち的なパーツなのではないだろうか。