「ロンジンは非常に強いブランドです。男性用と女性用、スポーツとエレガンスコレクションのバランスが取れているのです。時計業界で、こういったブランドは少ないと思いますし、今後もこのバランスは維持していきたいと思います。スポーツとエレガンスの割合は40対60ぐらいです」。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年9月号掲載記事]
ロンジンの未来は価格を超えた価値に宿る
ロンジンCEO。オーストリア生まれ。通信業界などを経て、1996年、スウォッチ グループ入社。スウォッチ テレコム後、ハミルトン、ラドーのCEOを歴任。10年弱でラドーのリブランディングに成功した。2020年7月より現職。コレクションの見直しとインバウンドに依存しないスタイルに舵を切り直した。
こう語るのはロンジンCEOのマティアス・ブレシャン。もっとも彼は、スポーツコレクションの拡充を図ろうとしている。好例は、アビエーションを強く打ち出した「パイオニア」である。
「スポーツというのは競争を意味するのではなく、その世界との親和性を示すものだと思っています。そしてロンジンは航空やダイビングの世界で伝統とストーリーを持っている。スイスでも並ぶメーカーはないでしょう」。変化の一因は、彼の率直な物言いに明らかだ。
「ロンジンは、日本を旅行する中国人観光客の間でとてもよく売れていました。大成功を収めていたわけです。その結果、どの小売店も、日本人よりも中国人の客層に合わせたコレクションを店頭で展開するようになりました。しかし、今はパンデミックによって観光客はいなくなりました。重要なのは、国内の顧客を決して忘れてはならない、ということです」
彼は販売店の在り方だけでなく、コレクションそのものの見直しも図るようになった。そのひとつが、日本のような成熟市場でも人気のあるスポーツコレクションの展開というわけだ。
「ロンジンは何でもできるのですが、その分、選択と集中をするのが大変でした。私が就任した2年前は、コレクションの数が1500ありました。今は約半分に減らしました。その結果、消費者の目に留まりやすくなり、他のコレクションや、他ブランドと区別しやすくなりました」。そんなブレシャンは、静かにムーブメントの刷新も進めている。
「現在、ロンジンの機械式ムーブメントは、シリコン製ヒゲゼンマイを採用しており、70時間以上のパワーリザーブを持つものもあります。信頼性は高まりましたね。ですが、ロンジンは挑戦的な価格帯に留まっています。具体的には、1000から5000スイスフランの間ですね」。各社がハイエンドを志向する中、なぜロンジンはこの価格帯に留まり続けようとするのか?
「我々の価格帯を見ると、ロンジン以外のブランドは相対的に弱くなっています。しかし、中国をはじめとするアジアを見ると、成長しているのは、これらの価格帯を買おうとする層なのです。その人たちが今後も、何千万人と増えるでしょう。また、若年層が求める歴史や本質的な価値を提供することができるのもロンジンの強みであると考えています」
「ズールータイム」とは、グリニッジ標準時に対するパイロットの俗称。世界で初めてGMT機能を採用したロンジンならではのモデルだ。シリコン製ヒゲゼンマイと良質な外装、セラミックインサートをあしらったベゼルを持つが、価格は戦略的だ。自動巻き(Cal.L844.4)。21石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。SS(直径42mm、厚さ13.9mm)。10気圧防水。41万5800円(税込み)。
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