2022年11月10日、スイス・ジュネーブ市において“時計界のアカデミー賞”とも称される「ジュネーブ ウォッチ グランプリ 2022」の授賞式が開催され、グランドセイコー初のコンプリケーションモデル「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン SLGT003」が特別賞の「クロノメトリー賞」を受賞した。
今回はこれを記念し、グランドセイコー機械式モデルの復活・発展の目撃者として、この受賞の持つ意義と価値について考えたい。
(2022年11月19日掲載記事)
エントリーは「トゥールビヨン部門」だったが……
時計ブランドが自慢の新作をエントリー。その中から時計ブランドのCEO、時計師や時計デザイナー、サプライヤーの代表、さらに時計学校関係者や時計ジャーナリストなど、全世界から時計のプロフェッショナルが審査に参加してエントリーモデルの中から候補作を絞り込み、さらに選考委員による最終審査で「最高の時計」を選ぶ。時計業界では最高に権威のある“時計界のアカデミー賞”が、2001年に創設された「ジュネーブ ウォッチ グランプリ(GRAND PRIX D'HORLOGERIE DE GENÈVE=略称GPHG)」である。
11月10日、スイス・ジュネーブ市のテアトル・デュ・レマンで2022年の受賞作発表&授賞式が行われ、今春「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2022(W&WG2022)」で発表され、「トゥールビヨン部門」にエントリーしていたグランドセイコー初のコンプリケーションモデル「Kodo コンスタントフォース・トゥールビヨン SLGT003」(以下Kodo)が、卓越した精度を実現した時計に贈られる「クロノメトリー(等時性)賞」に輝いた。
Kodoが最終ノミネートされていたのはトゥールビヨン部門。エントリーされたモデルはKodoを含め世界の時計のプロたちの投票で20本に。そして最終選考に残ったのがKodo、オーデマ ピゲ、グルーベル・フォルセイ、H.モーザー、パルミジャーニ・フルリエ、テオ・オフレ(フランスの独立時計師)の6モデル。そして今回の、トゥールビヨン部門の受賞モデルは、円筒型のヒゲゼンマイを採用したH.モーザーの「パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトン」だった。
トゥールビヨン賞よりクロノメトリー賞がふさわしい
こう書くと「なんだ、特別賞か。メジャーな『トゥールビヨン賞』が取れなかったのか」。と思う方もいるかもしれない。だが、筆者はトゥールビヨン賞よりクロノメトリー賞の方がふさわしい。それで良かったのだと思う。
なぜなら過去のクロノメトリー賞受賞作も、素晴らしいモデルばかりだからだ。このクロノメトリー賞が誕生したのは2001年に創設されたGPHGが、2011年にジュネーブ州とジュネーブ市による現在の運営体制になってから。
最初にクロノメトリー賞が授与されたのは2018年。独自のチタン製テンプと自社特許のフラット・ターミナル・カーブヒゲゼンマイを採用したドゥ・ベトゥーンの「DB25 スターリー・バリアス クロノメトル トゥールビヨン」であった。さらに2019年、2020年は、クロノメトリー・フェルディナント・ベルトゥーの「FB 1R.6-1」と「FB 2RE.2」が連続受賞している。どちらも「コンスタントフォース機構」と「ルモントワール機構」をダブルで搭載。そして昨年2021年は受賞なし。3つのモデルとも、「等時性」という賞名の意味にふさわしい、時間の精度を徹底的に追求したモデルである。
Kodoもトゥールビヨンを搭載したモデルだが、コンスタントフォース機構をトゥールビヨンと同軸に組み合わせた理由は「機械式時計としての究極の精度の追求」のため。初代グランドセイコーのコンセプトも「世界最高峰の精度を持つ実用時計」だったことを考えると、この賞がむしろふさわしいと筆者は考える。