今回、インプレッションするセイコー「プロスペックス スピードタイマー SBDL089」は、ソーラー発電クォーツムーブメントを搭載し、アンダー10万円に抑えたクロノグラフモデルだ。現代的でスポーティーなデザインを、着用感が非常に優れたパッケージングにまとめている。どのカラーバリエーションも綿密に配色が検討されており、ダイアルやインデックスなどの質感も高い。筆者が感じた、本作の完成度の高さについて、詳しく解説してゆこう。
ジャケットスタイルに合わせた。収まりの良いサイズとシックな色調も相まってマッチしている。光発電クォーツ(Cal.V192)。フル充電時約6カ月稼働。SSケース(直径39.0mm、厚さ13.3mm)。10気圧防水。7万4800円(税込み)。
Text & Photographs by Shinichi Sato
2022年12月12日掲載記事
クロノグラフの技術革新に大きく貢献したセイコー
今回インプレッションするセイコー「プロスペックス スピードタイマー SBDL089」は、プロフェッショナル向けツールウォッチをそろえるプロスペックスの中で、クロノグラフモデルを受け持つスピードタイマーに属する。本作はその中で、ソーラー発電クォーツクロノグラフムーブメントを搭載するモデルである。
セイコーはクロノグラフの技術革新に大きく貢献してきた歴史を持つ。1964年の東京五輪のために正確な秒計測が可能なストップウォッチを開発したのにはじまり、69年に世界に先駆けて量産された機械式自動巻きクロノグラフ「1969 スピードタイマー」は、垂直クラッチを搭載したエポックメイキングなモデルであった。
その後も技術向上が続けられ、現在では機械式に加えてクォーツ、スプリングドライブと3種類の駆動方式によるクロノグラフムーブメントを抱えている。このような技術的・歴史的資産をもとにリリースされているのがプロスペックス スピードタイマーである。
クォーツクロノグラフを採用することの優位性
本作に搭載されるのは、ソーラー発電クォーツクロノグラフムーブメントのキャリバーV192である。ソーラー発電およびクォーツクロノグラフは、共に長年の熟成によって信頼性が高められてきた技術だ。ダイバーズウォッチの「プロスペックス ダイバー スキューバ SBDL067」にキャリバーV192が搭載されていることからも、セイコーはその信頼性の高さに自信を持っているのが分かる。
機械式クロノグラフが備えるような、複雑な形状の部品が組み合わさって複数の機能を実現する様をケースバックから鑑賞するような楽しみは、本作のようなクォーツモデルには無い。一方、クォーツモデルの優位な点もある。本作にはクロノグラフ作動時の禁止操作が無く、スプリットセコンド機能を一本のクロノグラフ秒針で実現している。
ソーラー発電式クォーツムーブメントは、ノーメンテと考えるのは不適切であるが、機械式クロノグラフよりも気楽に付き合えるのも事実である。また帯磁についても同様だ。精度も平均月差±15秒と申し分ない。よって、利便性の面でクォーツモデルの本作には明らかな優位点がある。いわば、ロマンに欠けるが道具として優秀である。
操作感も優秀である。ボタンの押し心地はスムースであり、リュウズの引き出しもスムースでクリック感も明確である。時刻合わせもしっとりとしていて針の暴れもない。気になった点は、クロノグラフの計測が60分で強制終了してゼロ位置で停止してしまう点だ。120分ぐらいまでは作動を続けても良かったのではないか?
高い完成度のデザインとディテールの質感の高さ
センターにクロノグラフ秒針、3時位置に24時間表示、6時位置に60分積算計とパワーリザーブ表示、9時位置にスモールセコンドを配し、ベゼル上にはタキメーターを備える。2時位置にクロノグラフスタート/ストップ、3時位置にリュウズ、4時位置にリセット/スプリットセコンドボタンを配する。
このように、機能のおおまかな配置やケースシェイプを含めた全体のデザインは、現代的なクロノグラフの王道を踏襲している。ただ、デザインについてプレスリリースには「1969 スピードタイマー」を踏襲したものと記載されているのだが、どの部分を指してそう述べているのか筆者には分からない。
本作のデザインは均整が取れて良い。インダイアルはダイアル上で適切なバランスで配置されており、情報の密度は高いが窮屈な感じがない。少し荒らしてマットなダイアルは質感が高く、光の反射を穏やかにして表情を生み出している。また、ダイアルとソーラー受光部となるインダイアルは質感の違いがあり、ソーラーセルの色味もデザインの中にうまく取り込まれている。
ケースサイズは、クロノグラフの中ではコンパクトなサイズとなる直径39.0mmであり、凝縮感があって好ましい。時計の仕上がり厚さは13.3mmに抑えられている。この点もクォーツムーブメントを採用したメリットだ。機械式でこの厚さ実現しようとすると、かなり高級な仕立てとなる。
立体的でシャープなインデックスと1/5秒まで計測可能な緻密な秒スケールが全体の印象を引き締めている。さらに、クロノグラフ秒針がそのスケールの線上にビタッと静止する様は、そのデザインが伊達ではないことを証明している。
減点要素を挙げるならば、デイト表示が奥まっている点だ。斜めから見たときにダイアルの窓に隠れて見えにくい。実際の使用シーンを考えれば問題は無いが、見栄えの面で少々違和感がある。
本作のゴールドカラーのほかに、パンダダイアル、ネイビー、ブラック、オールブラックに加え、アルミニウムベゼルを採用した3モデルも用意される。タキメーター表示や時分針および蓄光部の色はモデルによって細かく変えられ、どのモデルでも配色に統一感がある。ここまでやるなら日付ディスクもダイアルカラーに合わせて欲しかった。
今回のゴールドカラーモデルは、シックさと華やかさを両立していて魅力的であった。ただ、写真で再現することが難しく、印象通りの写真が撮れなかった。公式サイトの写真も実物ほどは魅力的ではない。ぜひ、店頭に足を運んで手に取って見てほしいモデルである。
優れたパッケージングによる優れた着用感
本作は着用感が非常に良い。時計が特別に薄型でも軽量でもないにも関わらず、である。コンパクトな直径39.0mmのケースは、ラグも短く切って縦幅45.5mmに抑えている。ケースバックの飛び出しが小さいこともフィット感の向上に寄与している。
さらに、ブレスレットのコマの動きが良くて肌のなじみが良いし、バックルもコンパクトなものを合わせている。このような着用感を高めるアプローチを着実に実施し、全体として優れた着用感を実現しているのだろう。非常に自然な着け心地で、これ以上は書くことが無い。
「こんなにも良かったのか」と感心した1本
本作は、現代的でスポーティーなデザイン、アンダー10万円という価格、ソーラー発電による利便性を備える点から、腕時計に興味を持ち始めた若い人をターゲットにして企画されたと予想される。その観点から本作は十分にお勧めできるクォリティーを備えている。
ポイントは、デザイン、サイズ感、ブレスレット、着用感などのバランスを巧妙に整えている点と、要所を押さえて質感を高められたディテールである。これらは、筆者が”長期間使ってみると気になりやすい点”でもある。よって、初めての1本として本作を選んだとしても、満足感が持続するのではないか? と予想する。
では愛好家にとってはどうか? 筆者はインプレッションを通じて、そのモデルを好きになることが多い。本作もそのひとつだ。本作が他と異なる点は、着用初日から数年愛用しているかのように馴染んだことだ。このようなことは購入した時計も含めてそれほど多くない。
ここまでなじんだ理由は、デザインの好みに加えて、ちょうどよいサイズ感と着用感の良さ、信頼性の高さからくる安心感だろう。ディテールの良さも相まって、愛好家にも響く魅力を備えていると感じた。少なくとも筆者にとっては、着用初日に「こんなにも良かったのか」と感心したほどであったのだ。
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