これは誇れる国産時計だ。復刻したばかりの「キングセイコー」をレビュー

2022.12.22

1961年に誕生した歴史的モデル「キングセイコー」を2022年に復刻させ、レギュラーモデルとして展開を始めたセイコー。当時の国産高級時計市場を牽引したかつてのキングセイコーは、現代で通用する実用時計へと生まれ変わり、国産時計として誇れる1本に仕上がっていた。

キングセイコー

柴田充:文
Text by Mitsuru Shibata
2022年12月22日公開記事

キングセイコーを旅の相棒に

 キングセイコーの試用レポートの話が舞い込んだ。これは願ったり叶ったりだ。というのも2022年の新作で特に気になった1本だったからだ。しかもちょうどその期間はスイスジュネーブに出張予定もあり、さっそく旅の相棒にすることにした。

 キングセイコーは、これまでも展示会や取材撮影などで実機に触れていた。まず気に入ったのはサイズ感だ。国産時計も大径化傾向の中、程よい37mmに止めている。サンレイ仕上げのカラー文字盤も大仰ではなく、針やインデックスの仕上げも申し分ない。だがそうしたハードばかりでなく、何よりもその佇まいに引かれたのだった。

キングセイコー

セイコー「キングセイコー」SDKS005
自動巻き(Cal.6R31)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径37mm、厚さ12.1mm)。10気圧防水。19万8000円(税込み)。

 初代オリジナルは1961年、当時の第二精工舎亀戸工場で誕生した。時代は東京オリンピック開催を控え、大規模な都市改造が突貫工事で進んでいた。東京タワーや新幹線、首都高など街の風景は日々変わっていったのだろう。

 そんな東京で生まれ、都市生活者に向けられたキングセイコーは、まさに『風街ろまん』じゃないか。けっしてノスタルジーではなく、懐かしさと近未来が重なったような普遍性があり、まるで『風をあつめて』が聴こえてきそうだ。手元に届いたキングセイコーに、そんな思いを新たにしたのだった。


あえてのブレスレットの遊びがもたらすリラックス

 新生キングセイコーは、ボックス風防に存在感あるシャープな多面構成のラグを備える。都会的な洗練を感じさせるデザインは、1965年に登場した通称“KSK”をモチーフにしている。

 まずブレスレットを自分の手首に合わせて駒詰めした。こればかりはサンプルを腕に載せただけでは判断できない、リアルな装着感だ。

 果たして小振りなケースと絶妙なラグの角度によってフィット感は絶妙。観音開きのバックルも十分な開口を持ちつつ、留め具部分が中央にすっきり収まる。手首が細いこともあって、片開き式の場合、折畳み部分が手首に干渉することもあるが、これなら良好だ。

ブレスレット

 ブレスレットは表面にヘアライン仕上げ、ファセットにポリッシュを施し、キラキラとした上質感が漂う。多連リンクは重厚感だけでなく、滑らかな動きやゆったりした着け心地を両立する。より精度を上げることもできただろう。しかしあえて動きに遊びを残すことで、長時間着けてもストレスのない一体感が味わえるのだ。


新たに注がれたオリジナルデザインはまさに新生

 海外出張で意外に時間を意識するのが機上だ。確認にわざわざモニターを見るのも煩わしく、やはり腕元の時計が手っ取り早い。残念ながらキングセイコーは夜光仕様でないため、暗所では読書灯などの助けを借りなくてはならない。とはいえ、もし夜光にしてしまったらスポーティな印象が増し、シックな調和を崩してしまう。

 それに夜光まではいかないにしても、視認性は十分高い。時分針は、先代KSKが平面に面取りしたのに対し、山折れ型に左右の仕上げを変えたシャープなスタイルだ。

ダイアル

 インデックスは、12時位置はオリジナルのライターカットを再現し、他は台形のトップに新たにストライプを刻む。こうした新生ならではのオリジナルデザインによって、明確な個性を主張している。シンプルな3針も時差に合わせて日付を調整する手間がないのがいい。

 渡航中の時差調整もあり、通常よりもリュウズ操作は頻繁になる。ねじ込み式ではないが、10気圧防水を備え、オリジナルの“KSK”の由来となった秒針規制装置ももちろん備える。巻き上げも軽快かつ指先に伝わる感触も確実だ。

 搭載するキャリバー6R31は、着け続けたこともあり、約70時間のロングパワーリザーブを実感することもなかった。セイコー プレサージュなども採用する汎用キャリバーとして実績や信頼性も高く、精度についても実用域で過不足ないだろう。


不易流行のスタイルは国産時計を誇りたくなる

 普段は外出時にしか時計は着けないし、それも取っ換え引っ換え、その時の気分によって違うものを手に取るが、出張となるとそうはいかない。ホテルの部屋ではクロック代わりになり、リラックスしたブレックファストからビジネスシーン、ちょっとかしこまったディナーの席まで、起きている間はずっと1本の時計とつきあう。それは日常ではあまり味わえない、旅先ならではの体験だ。

リストショット

 結論から言ってしまうと、キングセイコーと過ごした約1週間はとても楽しかった。取材中はジャケットの袖下に収まり、実用ツールとして充分機能したし、ディナーではテーブルのキャンドルの光を受けて、ブラック文字盤に針やインデックスがきらめいて美しく浮かび上がった。

 オフタイムに市街を散策した時は、あいにく小雨に降られたが、ブレスレット仕様は厭わず着けていられた。ジュネーブには名門時計ブランドがひしめき、コンプリケーションを腕にした時計愛好家を目にすることも少なくない。そんな中でも気後れすることなく、むしろ国産をちょっと自慢したくなったのも事実だ。

 ぜひ次回チャレンジしてみたいのがストラップ仕様だ。5種類のバリエーションをそろえ、インターチェンジャブルとまではいかないが、簡易ツールを使えば交換も難しくない。スペアとして用意していけば、用途やシーンに合わせてさらに楽しめるだろう。

 けっして派手さはないが、使う時々で異なる魅力が発見できる。そんなキングセイコーから感じたのは、変化を重ねる不易流行ということだ。だからこそ復刻というよりも新生と称えたい。


Contact info: セイコーウオッチお客様相談室 Tel.0120-061-012


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