パルミジャーニ・フルリエが2021年秋に発表した新しいコレクション「トンダ PF」は、ポストラグジュアリースポーツの有力候補のひとつだ。エレガントでスタイリッシュな最新作「トンダ PF スケルトン」を通じてその魅力を探ることにした今回のインプレッション。それは、高度な技術、独特の美観、絶妙な仕上げ、良好な装着感がそろう極上の高級時計なのだった。
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
菅原茂:取材・文
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
「トンダ PF スケルトン」インプレッション項目
2022年発表の新作モデル。新開発のスケルトンムーブメントによって、「トンダ PF」のエレガントなミニマムデザインを絶妙に表現している。自動巻き(Cal.PF777)。29 石。2 万8800 振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×Pt(直径40mm、厚さ8.5mm)。100m防水。874万5000円。
1、ケース
リュウズは引きやすく、回しやすいか? : △
リュウズを引き出した際、左右のガタはないか? : ◎
2、ブレスレット&ストラップ
バックルは外しやすいか? : ◎
ブレスレットの遊びやストラップの曲がり・穴のピッチは適切か? : ◎
3、文字盤、針、風防
強い光源にさらされた際、インデックスと針が文字盤に埋没しないか? : 〇
文字盤と針のクリアランスは過大ではないか? : ◎
4、ムーブメント
針合わせは滑らかか? : 〇
ローターの回転音は耳障りではないか? : ◎
歩度測定器による精度テスト(静態精度)
T0時 | T0時 | T0時 | T24時 | T24時 | T24時 | T48時 | T48時 | T48時 | |
歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | |
文字盤上 | +6秒/日 | 301° | 0.1ms | +5秒/日 | 286° | 0.1ms | +3秒/日< | 281° | 0.1ms |
12時上 | +6秒/日 | 269° | 0.2ms | +5秒/日 | 247° | 0.2ms | +4秒/日< | 249° | 0.2ms |
3時上 | +8秒/日 | 271° | 0.1ms | +9秒/日 | 255° | 0.1ms | +11秒/日< | 250° | 0.1ms |
6時上 | +4秒/日 | 269° | 0.0ms | +3秒/日 | 251° | 0.0ms | +6秒/日 | 248° | 0.0ms |
9時上 | +2秒/日 | 270° | 0.1ms | -2秒/日 | 254° | 0.1ms | -4秒/日 | 244° | 0.1ms |
文字盤下 | +6秒/日 | 298° | 0.0ms | +3秒/日 | 289° | 0.1ms | +6秒/日 | 277° | 0.1ms |
平均 | +5.3秒/日 | 279.6° | 0.08ms | +3.8秒/日 | 263.6° | 0.1ms | +4.3秒/日 | 258.1° | 0.1ms |
見栄え良く装着感も抜群スケルトンの理想的な姿を体現
パルミジャーニ・フルリエの新時代を開拓する「トンダ PF」は、2021年の発表イベントで大いに感動したのを覚えている。日付表示付きのシンプルなモデルから、ダブルムーンフェイズ付きのアニュアルカレンダー、クロノグラフ、そしてスプリットセコンドなど、初リリースにしては種類も多く、見ごたえ十分なのだった。元ブルガリで「オクト フィニッシモ」を大成功に導いたグイド・テレーニをCEOに迎えての新コレクションデビューとあって、結構頑張ったに違いない。非常に印象的だったのは、「トンダ」のアイコニックなデザインを生かしながら薄くスタイリッシュに、そして複雑機能を盛り込みながらもメカメカしい感じではなく、むしろ洗練された表情を演出したところ。さすがにテレーニ氏の手腕だなと感心した。そんな期待の第2弾は、早くも半年後の22年春に出そろった。ユニークなGMT、ミニマムデザインのフライングトゥールビヨン、そして今回、着用機会に恵まれた「トンダ PF スケルトン」だ。
時計を預かってから、まず取り掛かったのは主ゼンマイの完全巻き上げと針合わせ。いつものように卓上電波時計を頼りに時刻を合わせたが、このモデルは2針のみで秒針がないため、毎日の精度観察はパスすることに。ちなみに4泊5日の借用期間中に、目視で確認できるような誤差はなかった。後日、歩度測定器による静態精度の結果を参照すると、平均的に進む傾向にあることが分かった。6姿勢で歩度にやや偏差があるが、振り角はほぼ安定しており、腕に着けて自動巻きが機能している場合の動態精度も良好な結果が得られたはずだと思う。
気になったのはリュウズだ。溝を刻む直線型リュウズは、100m防水仕様のためねじ込み式なのだが、径は小さめ。ケースは「トンダ PF マイクロローター」と同様の直径40㎜、厚さもそれを若干上回る程度の8.5㎜と薄く、リュウズもたぶん同じなのではないか? 小ぶりなリュウズはトンダPFのエレガントな美観になじんでいるのは良しとしても、搭載キャリバーPF777のツインバレルを巻き上げるには、しっかりつまみ、力を入れて回す必要があった。ただし、この時計を常時着用したなら、22Kゴールド製の大型ローターが主ゼンマイを力強く巻き上げてくれるはずだから、手巻きはさほど重要ではないのかもしれない。
実際に「トンダ PF スケルトン」を着用したのは2日目と4日目。2日目はデスクワークで4〜5時間、4日目は室内との見え方を比較するために戸外の散歩などで3時間ほど着用した。どちらもダークなスケルトンムーブメントにゴールドの針が映え、光の条件にかかわらず視認性は良好だった。
装着感は快適そのものだ。ローレット加工を施したベゼルはプラチナ製だが、他はすべてステンレススティールで、薄型ケースからクラスプへと続く一体型ブレスレットは、徐々に幅が狭くなり、厚さも薄くなっていて、スケルトンということもあり、想像していたよりも軽い!
編集部の実測値を見ると124gとある。我が家のキッチン秤で確かめるとやはり120gちょっと。ついでに日常使いのロレックス「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」も量ってみたら、約150gだった。手首への負担では、30gの差はけっこう大きい。トンダ PF スケルトンは、適度な重量感はあるものの、ケースが薄く、裏面がフラットなので腕にぴたりと乗って座りが良く、パソコンのキーボードを打ったり、外を歩いていても重さを感じなかった。
トンダ PF スケルトンの最大の特徴は、サンドブラストやポリッシュ仕上げを用い、さらにNACコーティングでグレーに彩ったムーブメントである。彫金技法によるクラシカルなスケルトンよりも、今は新時代のスケルトンとして設計されたモダンなアーキテクチャーのほうに興味がある自分にとっては、キャリバーPF777のこの眺めは実に興味深い。ひと言で「かっこいい」。スケルトンそのものは機能ではないから、見栄えこそが最大のポイントだと思うが、完成度の高い造形美が目を楽しませた。また、オープンワークに関してもうひとつ好ましい点は、程よく抑制の利いた「抜け感」だ。過度に肉抜きしたオープンワークだと時計の下に自分の肌がもろに見えて、興覚めになるから、そのサジ加減も重要だ。幸いエレガントな高級時計として計算が行き届いたこのモデルにはそうした心配がない。
返却前に再びルーペで細部を鑑賞した。見れば見るほど所有欲が湧き上がるが、価格を思うとたちまち現実に連れ戻される。見納めかと思うと名残惜しい。でも、楽しい時間を過ごせたことに感謝!
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