「スピードマスター」と並び、オメガを代表するコレクション「シーマスター」。その数あるラインナップの中でも、1957年に誕生したブランド初のプロフェッショナル向けダイバーズモデルを範としつつ、意匠と性能をアップデートしたのが現代版の「シーマスター 300」だ。ヴィンテージの雰囲気を漂わせるルックスが高い人気を誇っていることは疑う余地もないが、この時計を1週間着用してみると、その使いやすさから、改めて“隙のない”モデルであると実感させられた。
Text & Photograph by Yuzo Takeishi
2022年12月23日掲載記事
1957年の誕生以来、高い人気を誇るオメガの名作
編集部は知っていたのだろうか? 筆者のウィッシュリストに「シーマスター 300」が並んでいることを──。
いや、間違いなく知らないはず。だとすれば、今回の依頼は運命的と言うほかない。数年越しで購入を考えて続けている時計を、実生活で試用できるなんて滅多にないチャンス。せっかくなので、ごく個人的な視点を盛り込みながらのインプレッションを存分に楽しませてもらうことにした。
自動巻き(Cal.8912)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.85mm)。30気圧防水。84万7000円(税込み)。
シーマスターが誕生したのは1948年。初代モデルはラウンド型のケースにスクリューバックを採用した自動巻きの防水時計だったが、1957年には防水性能を20気圧に向上させたオメガ初のプロフェッショナル向けダイバーズモデル「シーマスター 300(Ref.CK2913)」がリリースされる。
1970年にシーマスター 300は一度生産を終了してしまうが、それから約40年後の2014年には「シーマスター 300 マスター コーアクシャル」を発表。CK2913のデザインが、再び陽の目を見ることになったわけだ。
筆者がシーマスター 300に興味を持ったのは、この2014年発表モデルが最初だった。当時は多くのブランドが復刻モデルを続々とリリースしていたが、そのなかでもヴィンテージの雰囲気をしっかりと残した端正な顔立ちと、1万5000ガウス以上の耐磁性能を持つマスター コーアクシャルムーブメントとの組み合わせが、魅力的に映ったからだ。
余談だが、復刻モデルが大好物な筆者としては、実のところ、初代モデルのデザインをより忠実に再現した2017年発表の「1957トリロジー」に心を動かされたのだが、こちらは限定モデルゆえ、早々に入手をあきらめた。
その後、オメガは「コンステレーション」や「スピードマスター」などの主要コレクションに次々とマスター クロノメータームーブメントを搭載していくのだが、シーマスター 300がようやく進化を遂げたのは2021年。それが今回のインプレッションモデルである「シーマスター 300 コーアクシャル マスター クロノメーター」だ。
モダナイズしつつも視認性の高いサンドイッチダイアル
ずいぶんと前置きが長くなってしまったが、1週間試用した印象を綴っていこう。
まず、外観上における前作との大きな違いはダイアルで、現行のシーマスター300では新たにサンドイッチダイアルが取り入れられている。このモデルが発表された2021年4月に一度だけ実機に触れており、そのときは、往時の雰囲気を踏襲しながらも、モダンなエレメントを取り入れたデザインに好感を持っていた。
その印象は今も変わらないが、改めて時計を手にすると、角度によってはオープンワークのアラビア数字が欠けて見える立体的な構造に面白さを感じる。もちろん、ダイアルには三角形のインデックスもレイアウトされているため、時刻の判読性にまったく影響をおよぼしていないことは付け加えておこう。
そして同じくダイアルのデザインなのだが、初代モデルで採用されていたロリポップ秒針が堂々の復活。そればかりか、前作ではダイアル6時位置に記されていた「MASTER CO-AXIAL CHRONOMETER」の表記がなくなり、こちらも初代モデルと同様の「Seamaster 300」ロゴが配置されている。
もっとも、筆者は1分1秒に追われるような生活とは無縁なので、正直、秒の経過を強調するようなデザインは不要なのだが、前作以上にすっきりとしたダイアルをロリポップ針が動いていく様子はキュートで、時計に目を遣ることが楽しくなる。
加えて、ダイアルの要素が少ないことはもちろん、表示幅を前作より0.9mm拡大している点も、近視+乱視+老視を抱え、クロノグラフモデルはお手上げ状態の筆者にとっては嬉しいアップデート。存在感のあるブロードアロー針との組み合わせで視認性は高く、晴天の昼間に屋外で時計を見てもしっかりと時刻を読み取れる。
マスター クロノメーター キャリバー8912の安心感
もうひとつのハイライトは、やはりマスター クロノメータームーブメントの搭載だろう。前述のとおり、スピードマスターやコンステレーションの多くにはすでに搭載されているため、新鮮味が感じられない要素ではあるが、それでも日差0〜+5秒の高い精度や、優れた防水性と耐衝撃性、そして何より1万5000ガウス以上を誇る耐磁性能は安心感しかない。
自宅での作業が中心となった現在、ノートPCを使わなくなったことで、その磁力に怯えることはなくなったものの、それでも我が家のデスクに鎮座するスピーカーの磁力は恐ろしく、机上に時計を放置することなんて当然できない。マスター クロノメータームーブメントを搭載したシーマスター 300は、そうした日常的な不安を払拭してくれる実用的な時計であると、改めて実感した。
また、これも前作を踏襲している機能だが、リュウズを1段引くと、分と秒の表示に影響を及ぼさず、時針だけを1時間刻みで設定できるのも便利。時差のある海外に渡航する際はもちろん、日常的な時刻合わせもスムーズに行えるため、かなり有用な機能と言えるだろう。
これぞ、進化した名作
今回のインプレッションで使用したのはレザーストラップを組み合わせたモデル。手首にピタッと吸い付く感覚が心地よく、装着感については問題なし。個人的にはスモールサイズの時計を着ける機会が増えているが、かと言って41mmのケースサイズはそれほど大きく感じることはなく、視認性も含めて使いやすいサイズであると感じられた。
もっとも、個人的に気になっているのはブレスレットタイプなので、そちらの装着感については、機会があれば試してみたいところだ。
1週間という短い期間ではあったが、今回の機会を得て感じたのは、実にバランスの取れた時計であるということ。驚くような機能やデザインこそないものの、だからこそ長く着用できる、実に隙のないモデルだと実感する。
そのデザインも、さすがにフォーマルなスタイルで着用するのは厳しいが、極端にスポーティーなダイバーズウォッチと比べれば、スーツやジャケットスタイルにも合わせやすい、シンプルかつスマートなルックスだ。2014年に初代のデザインで復活して以来、長らくウィッシュリストに名を連ねていたが、「いよいよ購入に踏み切る時か!?」と、何やら胸がざわざわし始めている。
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