自動巻きの最高傑作であるショパールのCal.L.U.C 96.01-L。そこに永久カレンダーを加えたのが「L.U.C ルナ ワン」だ。以前から存在していたが、アクの強かったデザインがまとまり、普通に使える時計に脱皮した。使えるパッケージと優れたムーブメントを載せた本作は、多少の弱点はあるものの、愛好家ならば手にすべき永久カレンダーのひとつだ。
Photographs by Msanori Yoshie
広田雅将:取材・文
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]
「L.U.C ルナ ワン」インプレッション項目
2005年に発表されたL.U.C ルナ ワンのデザインを改めたモデルである。また瞬時切り替えの永久カレンダーはいつでも操作可能で、逆戻ししても壊れない安全機能を搭載する。
自動巻き(Cal.L.U.C 96.13-L。32石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRG(直径43mm、厚さ11.47mm)。50m防水。871万2000円。
1、ケース
リュウズは引きやすく、回しやすいか? : 〇
リュウズを引き出した際、左右のガタはないか? : ◎
2、ブレスレット&ストラップ
バックルは外しやすいか? : △
ブレスレットの遊びやストラップの曲がり・穴のピッチは適切か? : ◎
3、文字盤、針、風防
強い光源にさらされた際、インデックスと針が文字盤に埋没しないか? : 〇
文字盤と針のクリアランスは過大ではないか? : ◎
4、ムーブメント
針合わせは滑らかか? : 〇
ローターの回転音は耳障りではないか? : △
日常使用における着用テスト結果(動態精度)
T0 | T24 | T48 | T72 | 平均 | |
時報確認時の表示時刻 | 13時30分00秒 | 13時29分59秒 | 13時30分02秒 | ||
累積誤差 | ― | -1秒 | +2秒 | ― | |
日差 | ― | -1秒/日 | +2秒/日 | ― | +1秒/日 |
日較差(絶対値) | ― | 1秒/日 | 4秒/日 | ― | 2.5秒/日 |
着用時間 | ― | 12時間 | 11時間 | ― | 11.5時間 |
歩度測定器による精度テスト(静態精度)
T0時 | T0時 | T0時 | T24時 | T24時 | T24時 | T48時 | T48時 | T48時 | |
歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | 歩度 | 振り角 | 片振り角 | |
文字盤上 | +3秒/日 | 292° | 0.0ms | +4秒/日 | 246° | 0.1ms | +8秒/日< | 207° | 0.2ms |
12時上 | -3秒/日 | 258° | 0.1ms | -5秒/日 | 200° | 0.1ms | -11秒/日< | 176° | 0.1ms |
3時上 | +1秒/日 | 269° | 0.1ms | -7秒/日 | 205° | 0.0ms | -20秒/日< | 175° | 0.1ms |
6時上 | +4秒/日 | 256° | 0.3ms | +4秒/日 | 205° | 0.4ms | -6秒/日 | 177° | 0.5ms |
9時上 | +1秒/日 | 257° | 0.1ms | +9秒/日 | 205° | 0.2ms | +6秒/日 | 187° | 0.2ms |
文字盤下 | +1秒/日 | 289° | 0.2ms | +4秒/日 | 244° | 0.2ms | +3秒/日 | 217° | 0.3ms |
平均 | +1.1秒/日 | 271.6° | 0.1ms | +1.5秒/日 | 217.5° | 0.1ms | -3.3秒/日 | 189.8° | 0.2ms |
傑作L.U.C 96.01-Lがベースの好事家向け永久カレンダー
自動巻きの最高峰は何か。筆者はいつも3つを挙げている。パテック フィリップのキャリバー27-460、オーデマ ピゲの2120系(ヴァシュロン・コンスタンタンの1120系)、そしてショパールのLUC96・01-Lだ。現在もなお残っているのは後者ふたつ、そして機構としては、LUC96・01-Lにより惹かれる。LUC96・01-Lよりも、LUC1・96という名前で知られるこのムーブメントは、自動巻きでありながらも審美性を盛り込んだ稀有なものだ。しかも自動巻き機構には、キャリバー27-460に比肩する凝ったラチェットを採用する。
筆者が今回LUC ルナ ワンを選んだのは、LUC96・01-Lというベースムーブメントのためだ。今後これほど凝った自動巻きがリリースされるとは思えない。傑作としか言いようのないLUC96・01-Lだが、筆者が触った限りでいうと、過去のものは巻き上げが弱かった。ローターが小さく、しかも自動巻き機構が重ければ当然だろう。しかし、この個体は巻き上げに不満を感じることはなかった。むしろこれが、本来のパフォーマンスなのだろう。また、96系の弱点である針合わせ時の針飛びも、完全ではないが、よく抑えられていた。もっとも、針飛びを抑えるコツを知るのは、クラシックカーを触るときのお約束のようなもの。慣れれば許容範囲だ。
精度は96 系の名に恥じないものだ。動態精度はT24でマイナス1秒/日、T48でプラス3秒/日だった。小さなテンプと、瞬間切り替え式の永久カレンダーを載せていることを考えればかなりの上出来だ。
ムーブメントの仕上げは相変わらず非常に良い。ローターの下に施された細かなペルラージュや、太い面取りは量産自動巻きの中ではベストか。ただ基本設計が古いため、ローター音はあまり静かではない。
直径43㎜のケースは、ショパールらしいシリンダー状だ。もう少しミドルケースを絞ったほうが好みだが、個性を強調するためか。側面の筋目は横ではなく縦。個性を出しにくいシリンダーケースを目立たせる手法だろうが、縦ではなく横に付けたほうがケースは薄く見えるはずだ。ヘッドはやや重めだが、裏地に生成のアリゲーターをあしらったストラップはソフトで、きつく締めれば全く問題ない。3つ折れのバックルはヘッドに対して容量不足だが、デスクワークの邪魔にはならなかった。ただし頻繁な取り外しは難しい。「段」付きの針は趣味ではないが、、太さにメリハリを付けることで96系の弱いトルクでも回せるし、サブダイアルは格段に読みやすくなった。この針は明らかに本作向きだ。
ショパールでいつも感心させられるのは、リュウズ周りのガタのなさである。直径33㎜のムーブメントを43㎜径のケースに収めると、リュウズ周りに微妙なガタが残る。しかし、ケース製造に長けた同社らしく遊びはよく抑えられている。ケースの磨きも、切削を多用するようになったこの10年で格段に良くなった。
デザインで試行錯誤を続けてきたLUCだが、この10年は太いローマンインデックスが標準になった。併せてカレンダー表示を極大化することで、視認性は良好である。うるう年表示にあしらわれる赤色も気にならなかった。ちなみにふたつのインダイアルが3-9時位置からオフセットしているのは、クロノ ワンに載せることを前提としたため。ただし、そのあおりを受けて、12時位置のビッグデイトは大きくない。
本作で気になったのは、このビッグデイト表示だ。切り替えも瞬時で、視認性も悪くないが、窓枠の処理は、10年以上前にリリースされたモデルであることを示している。写真の通り、わずかに歪みが残っているのは、プレスで仕上げたためだろう。この処理を切削に替えて、かつ内側を額縁状に仕立てると、ビッグデイトはぐっと引き立つに違いない。切削で仕上げられた3つのインダイアルが、素晴らしい仕上がりを見せるだけに、ここは惜しまれる。加えて印字の精度をもう一段上げると、時計としてのまとまりはより強調されるはずだ。
些細な弱点はあるが、さすがにショパールのフラッグシップだけあって、本作は万事に抜かりがなかった。巻き上げは良好、携帯精度も優秀で、カレンダーの切り替えも正確、しかも操作の禁止時間帯がない。多くの永久カレンダーモジュールよりもずっと実用的だ。また薄いケースとよく出来たストラップのおかげで、装着感も良好だった。傑作LUC96・01-Lがベースと考えれば、価格も妥当である。少なくとも96系のファンならば、LUC ルナ ワンは検討に値するし、筆者は間違いなく全推しする。ファンだから仕方ない。
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