今回のインプレッションは、セイコーのインフォーマルウォッチの中核を為す「プレザージュ」シリーズの中で、独自性のある有田焼ダイアルを採用した「プレザージュ プレステージライン SARX095」である。そのダイアルは話題性だけではなく、本作の魅力を生み出す重要な要素となっている。その質感は光の色によっても表情が変わる、塗装では出せない唯一無二の特徴だ。
Text & Photographs by Shin-ichi Sato
2022年12月31日掲載記事
プレザージュ プレステージライン SARX095について
セイコーのプレザージュは、ビジネスにもカジュアルにもマッチするインフォーマルウォッチのコレクションだ。
伝統的なドレススタイルに近いものや、よりスポーティーなモデルまで多様なラインナップで、幅広い要望に応えている。コレクションは、4R系のムーブメントを搭載した「ベーシックライン」と、より上位となる6R系ムーブメントを搭載した「プレステージライン」に分かれている。
本作が属するプレステージラインには、漆ダイアルや凹凸感のあるダイアルが採用されるなど、ベーシックラインにはない表現方法が用いられたモデルが存在する。その中で他社を含めても独自性があるのが、SARX095等に採用されている有田焼ダイアルである。
有田焼ダイアルについては、webChronosで掲載中の小泉庸子氏によるSARW049のインプレッションに詳しく述べられている。
https://www.webchronos.net/features/79647/
見栄えも視認性も高い有田焼ダイアル
本作の特徴は、なんといっても有田焼を用いたダイアルだ。淡いアイボリーの中にわずかに青みも感じる。このダイアルの見え方は、素材の色や人の見え方の差異よりも、環境の光の色に大きな影響を受けるように感じた。
屋外でも時間帯によって、屋内でも照明の色によって表情が大きく変わって面白い。これは、塗装によるダイアルには真似できないことだろう。
また、中心部分がくぼんでいて周りがわずかに盛り上がった立体的な造形を持つ。これにより光の反射に変化が生まれている。じっくり観察すると、これが視認性の向上と見栄えの良さを両立させた上手い仕上げであることが分かる。本作のポイントはまさにここだ。
時針の先端にあたる部分から盛り上がっており、時間インデックスと時針が近い高さに配置されている。細かいことだが視認性も見栄えも良くなる。
さらに、分針にダイアル側が接近する構造となり、高級機で見られるように軸長を短くし、分針の先を曲げて針をダイアルに接近させるのと同様の効果が得られる。その結果、視認性が高まり、見栄えも良くなって時計好きの心をくすぐる。
有田焼を採用し始めた頃のモデルはダイアルが平坦で、本作のような光の反射の変化もなかった。また、日付窓が開けられたモデルが多かった。
本作は、ダイアルの盛り上がりがあるため日付窓を設けることが難しい背景もあるのだろうが、日付窓を廃したことで立体的なダイアルに統一感が生まれており好ましい。日付表示がないことをマイナスに感じる人もいるかもしれないが、この割り切りを筆者は評価したい。
搭載するムーブメントはロングパワーリザーブのCal.6R31
搭載するのはCal.6R31。パワーリザーブは約70時間であり、自動巻き部にはセイコー伝統のマジックレバーを搭載して巻き上げ効率が良い。そのためもあってか、2週間ほどのインプレッション期間では、パワーリザーブのことを気にせずに過ごすことができた。
インプレッションした個体は、着用と平置きが半々の環境で日差+14~18秒であった。物足りない気がするが、標準となる温度を下回る寒い季節であったことを考慮すべきだし、着用モデルはあくまでサンプルだ。加えてスペック上の公称精度の範囲に入っている。
筆者の肌感覚としては、最近の低価格帯のセイコーは精度がマイナス側であるとのクレームを避けるためか、プラス側に振りすぎているように思う。
着用感は悪くないが腰高感がある
ケース径は40.5mmで、周長約18cmの筆者の手首にタイトフィットさせるとラグの飛び出しはなく、ブレスレットは薄手で可動範囲が広く、手首へのなじみが良い。
わずかにラグの浮きを感じるが許容範囲だろう。重量バランスは取れているがギリギリであるように思う。ルーズフィットにするとヘッドの暴れが気になる重量と大きさだ。12.4mmと厚さも少し気になり、腰高感もある。
中ゴマは、仕上げが異なる部品による三分割構造である。バックルの組み合わせも含めると、先日にインプレッションしたグランドセイコー「エレガンスコレクション SBGJ251」と構成は近いが、あちらはもっと重厚である。
バックルは、バネ棒の位置をずらすような長さ調整機構も持たない。そのため、タイトフィットを得るのが難しく、日によっての微調整も困難だ。薄手のバックルとの共存は難しいことを理解しつつ、改善を希望したい点である。