カシオのオシアナス「OCW-T200S-7AJF」を実機レビュー。ポイントはシンプルフェイスに隠されたハイテクムーブメント

2023.01.24

オシアナス「OCW-T200S-7AJF」を着用し、インプレッション。電卓事業の成功に続き、1974年に時計事業へ進出したカシオは、エレクトロニクス技術を駆使した独自の時計作りによって、数々の名作を開発、時計業界に驚きを与えてきた。その血は、シンプルな3針モデルであるにも確実に受け継がれている。

野島翼:文・写真 Text & Photographs by Tsubasa Nojima
2023年1月24日掲載記事

OCW-T200S-7AJF

オシアナス「OCW-T200S-7AJF」は、爽やかなホワイトダイアルが特徴のシンプルな3針モデルだ。数値上のケース径は少し大きめだが、フラットベゼルが幅を取っているため、ダイアル径は実測32mm程度に収まっている。約16.5cmの腕周りでも大柄な印象は受けない。


オシアナス「OCW-T200S-7AJF」をレビュー

 今回はオシアナスの3針モデル、「OCW-T200S-7AJF」をレビューする。ギリシャ神話の海の神“オケアノス”に由来するオシアナスは、カシオの擁する時計ブランドのひとつである。

 時計メーカーとしてユニークな出自を持つカシオ。世の中に数々の発明をもたらしてきた同社らしく、G-SHOCKやプロトレックといったブランドでは、見るからに機能性を重視したと分かるコレクションを展開している。果たして、それらとは打って変わってシンプルな外観の今作に秘められた“カシオらしさ”とは何なのだろうか。


熾烈な電卓戦争を勝ち抜いたカシオが到達した明快な時計像

 まずは、オシアナスを手掛けるカシオが、どのようにして時計作りを開始したかをおさらいしたい。同社初の腕時計は、1974年に発売された「カシオトロン」である。当時は、エレクトロニクス技術を用いた小型家電が続々と登場し、人々の生活を豊かに変えていった時期だ。

カシオトロン

 時計業界としても、クォーツ革命によって機械式時計が下火となり、安価で正確なクォーツ時計が台頭し始めた時代と重なる。

 カシオトロンは、まさにエレクトロニクス技術の進化が生んだ画期的なモデルであり、時・分・秒・月・日・曜日、そして月の大小を自動処理する、世界初のオートカレンダー機能を搭載したデジタルウォッチであった。

 その機能性の裏には、「時間は1秒ずつの足し算である」という同社が到達した時間の捉え方がある。今でこそ時計や電子楽器、電子辞書などの製品を手掛けているものの、当時のカシオはまだ“電卓屋”であった。しかし、そのことが功を奏した。

 同社の名を大きく世に知らしめたのは、57年に発明された世界初の小型純電気式計算機「14-A」である。以降も計算機の開発を進め、65年には同社初の電卓「001」を発売。

カシオ 14-A

世界初の小型純電気式計算機「14-A」と写真を撮る樫尾4兄弟。この年、カシオ計算機が設立されている。

 やがて演算素子の飛躍的な進化を背景に、多くの企業が電卓事業に参入し、いわゆる“電卓戦争”が始まる。これに一旦の区切りを付けたのが、72年の個人用小型電卓「カシオミニ」であった。

 電卓事業は成功を収めたものの、同社の開発担当である樫尾敏夫は、電卓にもやがて限界が来ると予見していた。小型化・高機能化する電子部品を前に、氏が考案した次の一手こそが、時計事業への参入であった。

 時間は、秒を積み上げて分、分を積み上げて時となる。それならば、電卓で足し算をした結果、桁が繰り上がるのと同じように、時間も表すことができるのではないかと考えたのだ。

 前述の「時間は1秒ずつの足し算である」とは、一見当たり前のことのように思える。歯車の歯数は、その考え方を体現したものだ。しかし、そのことを改めて認識するのは簡単だろうか。時間というものに対して、ここまで愚直に立ち返って考えることができたのは、“電卓屋”ならではの視点を持っていたからに違いない。

 腕時計に対し、ストイックに技術を追求した同社は、カシオトロン以降も電卓や電話帳、MP3プレイヤーなど、腕時計にさまざまな機能を搭載した。人々の暮らしを便利にする道具。それこそが、カシオの腕時計に共通する基本的な考え方なのだろう。


シンプルなデザインをまとったハイテクウォッチ

 いよいよ、本題のオシアナス「OCW-T200S-7AJF」の話に入りたい。今作は、2023年1月に発売されたばかりの新作であり、「OCW-T200S」シリーズのカラーバリエーションにあたる。

オシアナス OCW-T200S-7AJF

オシアナス「OCW-T200S-7AJF」
光発電クォーツ。駆動時間約20カ月(パワーセービング状態)。SS(直径41.4mm、厚さ10.7mm)。10気圧防水。6万6000円(税込み)。

 直径約41mmのステンレススティール製ケースに電波ソーラー式クォーツムーブメントを搭載した、シンプルな3針モデルだ。あえて分類をするならば、国産各社が得意とするハイエンドなクォーツウォッチのひとつと捉えることができるだろう。

 外見上は、先に述べたカシオのハイテクなイメージとは真逆の印象を受ける。しかし、だからと言って侮るのは早計だ。今作には、Bluetooth通信によってスマートフォンと連携することができる“モバイルリンク機能”が搭載されている。専用アプリを介すことで、時刻の自動修正やソーラー発電量の確認等、様々な機能を使用することができるのだ。

 スマートウォッチが広く普及している中、スマートフォンと連携できること自体は珍しくもないだろう。しかし、今作がそれらと大きく異なるのは、スマートフォンに依存せずスタンドアローンで使える点にある。あくまでもスマートフォンに対しては、補助機能を委ねているに過ぎない。

 仮に通信技術の進歩によってBluetoothが廃れるか、何らかの理由によってカシオが専用アプリの提供を中止したとしても、時計としての基本機能は本体で完結しているため、一般的な電波ソーラー時計として使い続けることができるのだ。

 これは筆者の想像でしかないが、恐らくオシアナスのメインターゲットは、重度の時計愛好家というよりは、ちょっと良い時計を1本欲しいと考えるような人々ではないだろうか。誤解を恐れずに言えば、より“一般的”な層である。彼ら彼女らにとって、6万円を超えるお金を出して手にした時計が、数年で使い物にならなくなったら悲しいはずだ。


抜群の視認性を生むダイアルと、高級機顔負けの優れた外装

 今作を手にしてまず驚いたのは、その視認性の高さである。クリーンな印象のホワイトダイアルと、青く縁どられた針やインデックスが生むコントラストは、一瞥しただけで明瞭に時間を伝えてくれる。加えて、今作は正面からだけではなく、斜めから見た場合でも視認性を保っている。

 ダイアルをよく観察すると、うっすらとブルーのかかったベースがあり、その上にミニッツサークルをプリントしたリング状の部品が重ねられているのが分かる。インデックスはそのリングから伸びているため、ダイアル自体が立体的な造りとなり、あらゆる角度からの視認性を確保しているのである。

オシアナス OCW-T200S-7AJF

2層構造の立体的なダイアル。背の高いインデックスが、あらゆる角度からの視認性を高めている。ブランドとメーカーのみを簡潔に示す、クリーンなダイアルが上品さを生んでいる。フラットなベゼルには、力強いヘアライン仕上げが施されている。

 12時位置のブランドロゴは、波をモチーフに優雅さと先進性を表現したものだ。その下には“OCEANUS”と“CASIO”の文字が簡潔にプリントされている。デイトディスクが若干奥まっているためか、少しデイト表示が暗く感じるが、読み取りを困難にするほどではない。

 6時から8時位置にかけては、電波の受信状況などを確認するための文字が配されているが、薄いグレーまたは青、更に文字自体が小さいため、煩雑な印象はない。

 風防は、フラットなサファイアクリスタル製。内面に施された反射防止コーティングは、あらゆる光源下での視認性を高めている。風防の外周は青く、これによってダイアル全体を引き締めている。

 ヘアライン仕上げを基調としたケースには、同価格帯と比べても卓越した質感が与えられている。特に、フラットなベゼル上面に施された縦方向の筋目は、時計自体の力強さを強調することに寄与している。先端に向かって絞られたラグは多面的にカットされ、シャープで精悍な印象だ。ベゼル側面やラグの面取り部にはポリッシュが取り入れられ、エレガントさを添えている。

オシアナス OCW-T200S-7AJF ケース

ケースはヘアライン仕上げを基調としつつ、随所にポリッシュ仕上げを与えられている。ケースサイドには、ブランドロゴが刻まれた8角形のリュウズと、角を落としたスクエア型のプッシュボタンが配されている。プッシュボタンは出っ張りを抑えられており、着用時に誤作動が起きることもなかった。

 ブレスレットは各コマの可動域が十分に取られており、クネクネとよく動く。ケース同様にヘアライン仕上げを主体とするが、隣のコマと隣接する面にはポリッシュが施されているため、時折光を浴びてキラリと輝く。

 派手さはないが地味でもない。なんとも奥ゆかしさを感じるデザインだ。コマの連結は、Cリング方式を採用する。

 剛性感のあるバックルは、プッシュボタンによって解除することができる。ボタン自体は、バックル側面と面一になるよう組み込まれている。これによって、不意に引っ掛かるようなことや、手首を曲げた際に干渉するようなこともない。

オシアナス ブレスレット

ヘアライン仕上げを主体とするスポーティなブレスレットは、コマの可動域が大きく、腕にしっとりとなじむ。隣のコマと隣接する面にポリッシュを掛けており、光を受けるとコマの輪郭がはっきりと浮かび上がる。

 ひとつ欲を言うならば、微調整機構が搭載されていると良かった。爪楊枝さえあれば、3mm程度ずらすことができるものの、やはりそれだけでは物足りない。

 実際に腕に着けてみると、その装着感の良さに驚く。厚さ10.7mmと程よい存在感を示すケースは、薄い裏蓋によって重心が低く、腕を振っても暴れるようなことはなかった。ブレスレットは腕の形に合わせてしなやかに動き、しっかりとしたバックルは、ケースとの重量バランスを最適に保っている。

オシアナス バックル

バックルのプッシュボタンは、不意に引っ掛かりにくく、しかしながら必要なときには押しやすいように処理されている。微調整機構があればより快適に着用できるだろう。剛性感は確保され、着用時のケースとの重量バランスも気にならない。

 今作を手掛けているのは、カシオのマザーファクトリーである山形カシオの中でも、社内試験に合格した者のみが立ち入りを許されている「Premium Production Line」だ。時計としての高い機能性もさることながら、審美性にも気を配られているのは、ここで職人たちの魂が込められているからだろう。