2006年に発表されたベル&ロスの「BR 03」。BRシリーズ初作である「BR 01」の航空計器デザインはそのままにデイト表示を追加し、よりコンパクトなサイズにまとめあげた同作は、ミリタリーテイストのカジュアル時計として、今なお愛され続ける定番コレクションへと発展した。
今回はそんな「BR 03」よりセラミックケースモデル「BR 03-92 BLACK MATTE」をレビューする。
昨今、時計業界は未曾有の異素材ブームだが、ベル&ロスが何の知恵もなくセラミックスなど採用するハズはない。本作はその素材特性を見事に生かし、雲の上でも使える視認性と、日常使いに適した利便性を両立した、至高の実用時計に仕上がっていた。
自動巻き(BR-CAL.302)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ40時間。セラミックス(直径42mm)。100m防水。52万8000円(税込み)。
Text & Photographs & Illustration by Naoto Watanabe
BR 01の縮小デザインながら、メンテナンス性が改善されたケース構造
筆者はつい1カ月前にもベル&ロスの時計「BR 05 GMT AMBER」のレビューを担当しているが、前回のモデルが「BR 01」の構成要素をベースにデザインを一新したイノベーション作だとしたら、今回の「BR 03-92 BLACK MATTE」は「BR 01」の基本デザインそのままに各部を改善したリファイン作と呼ぶべき存在だ。
https://www.webchronos.net/features/91673/
BR 01とBR 03の両者を見比べてみると、BR 01はケース径が4mm縮小されながらも、デザイン上の大きな改変は見られない。
4時半位置にデイト表示が加わったのは分かりやすい違いだが、その他は分針がロザンジュ型からカウンターウェイト付きのペンシル型に改められたり、秒針のカウンターウェイトがT字からストレートに変更されたり、プリントによる各インデックスの角が取られ細められたりと、言われなければ気付かない程度の微調整とも言える変化だ。
しかし、ここで注目すべきはさらに細かな部分。ベゼルトップの4隅に留められたビスの向きと、文字盤上のビスの有無である。
もともと「BR 01」のケースは重箱のような設計になっており、裏蓋一体成形のミドルケースに機械と文字盤を格納し、ベゼルトップで蓋をしただけの2ピースケースだった。
そのため、ベゼルトップ上の4本のビスは実際にドライバーで回転させる雄ネジの役割を担っており、ネジ頭を任意の向きにそろえる調整が非常に難しい構造だったのである。
また、裏蓋が存在しないため、機械を機留めネジでケースに固定することも難しく、いったん文字盤裏に固定した状態で、文字盤表面に露出した4本のビスにより、ミドルケースに据え付けられている。
46mmのケース径に対して直径25.6mmの小径ムーブメントだからこそ実現した荒技だが、裏蓋を開けただけで機械の状況が確認可能な3ピースケースと比べると、メンテナンス性に若干の難があり、文字盤の美観と視認性も損ねてしまっていた。
「BR 03」も、発売当初はそれまで同様の2ピースケースを採用しており、「BR 01」との構造上の違いは、別体だったラグをミドルケースと一体成形に変更した点のみであった。
しかし、2014年に登場した本作では、セラミックス製のミドルケースにSS製のスペーサーを介して機械を固定し、それらをセラミックス製の裏蓋とベゼルトップで挟み込んだ3ピースケースへと、大規模な変貌を遂げている。
それに伴い、実際に回転させる雄ネジのビスは裏蓋側へ移動され、ベゼルトップ上のビスは雌ネジに変更された。結果、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」同様、ネジ頭が任意の角度に調整されているのが特徴だ。
この構造であれば、ケースに直接ネジを切り込む必要もなく、雄ネジ雌ネジ共に傷んだら交換が可能なため、長期的な防水性確保の面でも有利な設計と言えるだろう。
また、文字盤上に露出していた4本のビスが廃止されたため、盤面がスッキリとした印象で、目盛りも読みやすくなっている。
〝BLACK MATTE〟の名に恥じない、徹底した梨地仕上げ
映画「トップガン」シリーズを観たことがある人なら分かる通り、戦闘機の飛行する高度1万mオーバーの世界では、雲すら下方に位置し、太陽光を遮ってくれる遮光物が何もないため、キャノピーの外からは常に直射日光が降り注ぐ。
その乱反射を抑えるため、コックピット内は基本的にブラックかグレーのマット塗装が施されている訳だが、おそらく本作の外装も同様の理由だろう。“ BR 03-92 BLACK MATTE”という商品名が示す通り、文字盤と針のプリント、リュウズの刻印を除いた全てが、ブラックカラーの梨地仕上げで統一されている。
特に、本作の最大の特徴であるセラミックス製のケースは、PVDやDLCとは違い、使用による損傷とともに黒色が剥がれる心配もないため、パイロット向けプロツールとしては最適な素材選びだと言える。
仕上げの質も素晴らしく、面は歪みなく整っており、梨地の細かさや深さも均一で全くムラが見られない。これが半永久的に維持されるというだけでも所有欲をくすぐられてしまうのは、おそらく筆者だけだはないだろう。
そして、驚異的なのはネジ頭の質感である。このような負荷のかかるパーツがセラミックスで作られるハズはなく、表面処理を施したメタル素材だと思われる。しかし、見事なまでにケース表面の質感とそろえているため、完全にケースになじんで見える。
非常に細かな部分だが、反射の抑制だけでなく、全体に統一感を与える上でも、重要な仕事をしているパーツのひとつだ。
文字盤に目を向けてみても、盤面はもちろん、デイトディスク、さらには見返しリングまで、同じ質感の梨地仕上げで統一されている。
マットブラックの時計はいくつか見てきたが、ここまで凝った処理の見返しリングはなかなかお目にかかれない。
この仕上げならば、文字盤にどのような角度から直射日光が差し込もうとも、反射光が視界を阻害する事はないだろう。
また、バーインデックス、アラビア数字、3本の針の先端には、マットな質感の蓄光塗料が塗布されており、暗所に入っても数時間は視認性が確保される。
蓄光塗料にはスーパールミノバが使用されており、光り方は昔ながらの蛍光グリーンだ。