オメガ「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」を実機レビュー! 外装フェチのためのセラミックウォッチだ

2023.04.12

今回は、オメガの「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」を、外装フェチの目線からレビューする。近年、オメガは急激に外装品質を高めているが、本作はその中でも傑出した仕上げを実現した1本だった。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

オメガ「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」
自動巻き(cal.OMEGA9300)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ60時間。セラミックケース(直径44.25mm)。50m防水。171万6000円(税込み)。
渡邉直人:文&写真
Text & Photographs by Naoto Watanabe
2023年4月12日掲載記事


スピードマスターの伝統を受け継いだ、ホワイトセラミック製ケース

 2013年に登場したオメガの「スピードマスター ダークサイド オブ ザ ムーン」。

「スピードマスター プロフェッショナル 9300」をベースに、ケースと文字盤をセラミックス製にアレンジした同作は、2カウンターのスタイリッシュな外観と優れた耐傷性を兼ね備えた自動巻きクロノグラフ時計として、発表から10年経った今なお支持される定番コレクションとなっている。今回レビューを行うのは、「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」だ。

 スピードマスターシリーズの起源をたどると、1957年登場の「CK2915」までさかのぼることになる。

 同作は2022年に65周年を迎え、オニキス文字盤とカノープスゴールドケースの特別モデルとして復刻されているが、「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」の直接的なモチーフは、1964年に登場し、アポロ11号の月面着陸にも同行した「Ref.105.012」になるだろう。

 それ以前のスピードマスターは、ケースに装飾的な要素が一切なく、どちらかと言うとロレックスのオイスターケースに近いシンプルな造形を持っていた。

 しかし、第4世代にあたる「Ref.105.012」以降はリュウズガードが備わり、ケース側面のC面取りが捻りこまれながらラグ先端まで伸びた、独特な形状の左右非対称ケースへと変貌を遂げている。

スピードマスター キャリバー321 カノープスゴールド™️

オメガコレクターの知人が所有する「CK2915」の2022年復刻モデル「スピードマスター キャリバー321 カノープスゴールド™️」。オリジナルのCK2915は、マットブラックの金属製文字盤に夜光インデックスを載せた仕様だったが、本作ではオニキス製文字盤&18Kホワイトゴールド製アプライドインデックスにアレンジされている。

 明確な天面の存在しない特徴的なラグは“ツイストラグ”と呼ばれ、50年代のドレスウォッチではよく見られた造形だが、これをケース一体型ラグで採用したのは、おそらく「Ref.105.012」が初ではないだろうか。

 以降このケース形状は、現代まで続くスピードマスターシリーズのデザイン・アイデンティティとなっている。もっとも、現行ラインナップでは「シーマスター アクアテラ」や「シーマスター ダイバー 300M」にも同様のツイストラグが採用されているため、オメガファンにとっては見慣れた造形だろう。

Ref.3570.40

筆者の所有していたスピードマスター「Ref.3570.40」も、「Ref.105.012」からの伝統を受け継いだツイストラグ仕様だ。漫画版「デスノート」に登場した際は、1秒以上の間隔をあけずにリュウズを4回引くことで裏蓋がスライドし、デスノートの切れ端が現れる仕様に改造されていたが、そんな複雑機構を搭載できるほどのスペースが捻出できるのかは謎である。

 筆者自身も数年前までは「Ref.145.022レーシングダイヤル」の2004年復刻モデル「Ref.3570.40」を所有していたし、周りにもオメガ好きの時計愛好家が多いため、60年代のオリジナルから現行のキャリバー3861搭載モデルまで、数多くのスピードマスターを触ってきた。

 おかげで、オメガの外装精度が年々高まっていることは自身の経験から実感しているが、非常に複雑な3次曲面の組み合わせであるツイストラグ部分に関してはよほど加工が難しいのか、どのモデルを見てもエッジや鏡面が緩く、あまり良い印象を持っていなかったと言うのが正直なところだ。

 とある関西のオメガコレクターから「ダークサイド オブ ザ ムーン」コレクションを見せられるまでは。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

『クロノス日本版』105号の「時計愛好家の生活」特集でも「中の人」という呼称が紹介された、関西屈指のオメガコレクター、くじらさんの個人所蔵品。文字盤上のSpeedmasterロゴと同じ赤を差し色にしたNATOストラップが、非常になじんでいる。


セラミックス製でありながら、金属モデル以上に整った驚異の外装仕上げ

「なんじゃこりゃあ」

 某人気ドラマのジーパン殉職シーンの台詞ではない。

 関西屈指のオメガコレクターくじらさんの「スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン」を見せられた筆者が、つい声に出してしまった素直な感想だ。

 語彙力の欠片もないが、それほど衝撃的な外装だったため、もっと時間をかけて言語化したいと思い、今回のレビューでは筆者自身が本作を指名させてもらった。

 そもそも、時計業界がセラミックスと呼ぶ二酸化ジルコニウムは、サファイアに次ぐ高い硬度を持ち、ステンレススティールや18Kゴールドよりもはるかに加工が難しい素材だ。

 そのため、セラミックモデルを金属モデルと比べた場合、多少造形が緩いのは当たり前、鏡面がダレてしまうのも仕方がないと考えていた。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

ツイストラグの鏡面部に3つの角度で平面光を当ててみても、光沢に歪みはなく、端まで真っ直ぐに伸びている。

 しかし、スウォッチグループ傘下のコマデュール社で、アルミナ粒子とダイヤモンドディスクによって磨かれた本作のセラミックスケースは、ツイストラグやベゼルの鏡面部にどのような角度から平面光を当てても、不均一な歪みが一切見られない。

 さらに、天面やベゼルのエッジは金属ケース以上にシャープに立たせながら、肌が直接触れるケース裏面側のエッジは幅狭なC面取りを入れることで角を落としてあり、その加工技術の高さと配慮の細かさは見事としか言いようがない。

 セラミックスケースをここまでのクオリティで仕上げられてしまうと、これまでの常識は一体何だったのかと疑問が湧いてくるほどだ。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

ケースサイド、ラグ天面の内側、バックルの内側にはヘアライン加工が施されているが、金属ケースモデル同様に筋目は短めだ。

 リュウズやクロノグラフプッシャーなどの操作系パーツも、ケース同様にセラミックスで作られている。こちらも歪みの無い鏡面が与えられているが、エッジは適度に丸められているため、操作していても刺々しさを感じることはない。パーツの用途によって、仕上げを絶妙に変化させているのは流石だ。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

リュウズ・プッシャー・ケース裏面のエッジは、肌が直接触れるため、ケース天面やベゼルのエッジよりも角が落とされているのがわかる。


狂気の作り込みを実現したセラミックス製文字盤と、18Kホワイトゴールド製針

 本作の作り込みの異常さは、ケースだけに限った話ではない。なんと、ポリッシュラッカーに見えるホワイト文字盤すらも、歪み無く磨き上げられたセラミックス製なのだ。

 しかも、スモールセコンドと積算計のインダイヤルは1段深く彫り込まれ、外周には夜光の乗った18Kホワイトゴールド製のアプライドインデックスが植え付けられている。

 セラミックスでは、穴をあける数が多いほど歩留まりが悪化するハズだが、このような仕様で量産を実現してしまうオメガは、何か独自のノウハウを持ってるのかもしれない。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

加工の難しいセラミックス製文字盤にもかかわらず、インダイヤルが1段深く彫り込まれている。バーインデックスと針はすべて、鏡面仕上げの18Kホワイトゴールド製だ。

 盤面や日付ディスクの各種印字・目盛りは、厚塗りされた立体的なブラックで描かれているため、下地が透けて見えることも無い。この文字盤の製造だけで一体どれほどの手間がかかるのか正直想像もしたくないが、ユーザーとしては非常に高い満足感が得られるだろう。

 また、非貴金属のスピードマスターでありながら、時針・分針・秒針・クロノグラフ秒針・60分積算針・12時間積算針のすべてが18Kホワイトゴールド製となっている点も、「ダークサイド オブ ザ ムーン」シリーズならではの特徴だ。

スピードマスター ホワイトサイド オブ ザ ムーン

Speedmasterロゴ以外の印字と目盛りは全てブラック塗装だ。いずれも立体的な厚みを持たせながら、くっきりと描かれている。