時計業界の好況を反映してか、48ものメーカーが参加したウォッチズ&ワンダーズ2023。2015年以降進んだ外装の進化は、今年いよいよ完成した感がある。現時点で選んだのは5本。いずれも、よくできた外装を持つモデルだ。もっとも6月発売の『クロノス日本版』では、選ぶ時計が変わるかもしれない。
1位:タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ デイト」
短いラグと、ドーム風防という今のトレンドを巧みに盛り込んだ野心作。個人的には直径36mmの「カレラ キャリバー7」を好むが、インパクトを考えれば本作になるだろう。まさかタグ・ホイヤーほどの量産メーカーが、ベゼルレスケースを採用するとは予想外だった。一見レトロ風だが、きちんと21世紀のデザインになっている。
自動巻き(Cal.7)。パワーリザーブ約56時間。SSケース(直径36.0mm)。50m防水。39万6000円(税込み)。
また、風防のパッキンが目立たないなど、ディテールもよく詰められている。かつてのタグ・ホイヤーは、モデルによってツメにバラツキが見られたが、もはや過去の話と言っていいのではないか。実物は、写真よりもはるかに魅力的である。内容を考えれば、価格も妥当か。
2位:チューダー「ブラックベイ 54」
直径37mm、厚さ約11mmという非常にコンパクトなダイバーズウォッチ。あえて丸みを持たせた風防を採用することで、他のモデルとは異なるレトロ感を盛り込むことに成功した。
また、時計とブレスレット部の重量バランスも秀逸である。細かく微調整の出来るTフィットバックルと併せて、装着感は快適なはずだ。重い時計を好む人にはあわないかもしれないが、軽快な着け心地は本作の大きな美点である。
自動巻き(Cal.MT5400)。27石。パワーリザーブ約70時間。SS(直径37mm)。200m防水。3列ブレスモデル:49万600円(税込み)。ラバーストラップモデル:46万3100円(税込み)。
内容を考えれば、価格はバーゲンか。もっとも、入手は難しいだろう。ディープな時計好きのみならず、普段使える機械式時計を探している人にはうってつけだろう。
3位:グランドセイコー「エボリューション9 コレクション テンタグラフ」
傑作、キャリバー9SA5をフルに生かしたクロノグラフ。既存のクロノグラフをモディファイすることで、グランドセイコーにふさわしい仕上げと、それ以上に耐久性を得ている。3つの積算計すべてにクラッチを入れてあるのも、良心的な設計だ。決して薄い時計ではないが、見返しを薄くし、ドーム風防を採用することでミドルケースの厚みをよく抑えている。
自動巻き(Cal.9SC5)。60石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径43.2mm、厚さ15.3mm)。10気圧防水。181万5000円(税込み)。2023年6月9日発売予定。
また、ラグも短いため、実際の装着感は見た感じよりはるかに軽快である。グランドセイコーのデザインを踏まえつつも、今のトレンドも抑えた本作は、グランドセイコーの成熟を象徴するものだ。個人的には、あえて下地処理を抑えた文字盤も、クロノグラフらしくていい。
4位:カルティエ「タンク ルイ カルティエ」
タンク ノルマルは理想的だが、限定モデルであるため、入手は現実的でない。というわけで選んだのが、ベーシックな「タンク ルイ カルティエ」である。既存のタンクの造形を受け継ぎつつも、近年のカルティエらしく文字盤で遊んでいる。シルバーにローマ数字インデックスばかりを使っていたかつてのカルティエを考えると、まるで別物だ。
(中・右)Vincent Wulveryck © Cartier
手巻き(Cal.1917 MC)。18KPGケース(縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。日常生活防水。予価194万400円(税込み)。
(中)カルティエ「タンク ルイ カルティエ」
手巻き(Cal.1917 MC)。18KYGケース(縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。日常生活防水。予価190万800円(税込み)。
(右)カルティエ「タンク ルイ カルティエ」
手巻き(Cal.1917 MC)。18KYGケース(縦33.7×横25.5mm、厚さ6.6mm)。日常生活防水。予価190万800円(税込み)。
自社製のケースは面の歪みも小さく、角もよく立っている。また、ラッカー仕上げの文字盤も良質だ。最初の1本に選ぶ人はいないだろうが、複数本持っている人には強くお勧めしたい。搭載するキャリバー1917MCは、ジャガー・ルクルトのキャリバー846を改良したもの。キャリバー846ほど好事家向きではないが、実用性は高まっている。
5位:A.ランゲ&ゾーネ「オデュッセウス・クロノグラフ」
世界限定100本、クロノグラフなのに定価2000万超え。あえて選んだのは、外装とムーブメントが予想外に良くできていたため。リュウズの位置によってクロノグラフの操作と、日付・曜日の調整を変えられるプッシュボタンは唯一無二。にもかかわらず、操作感は滑らかだ。
自動巻き(Cal.L156.1 DATOMATIC)。52石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SSケース(直径42.5mm、厚さ14.2mm)。12気圧防水。世界限定100本。価格要問合せ。
また、コンパクトなサイズに収めるべく、垂直クラッチを採用したムーブメントも他にないものだ。コラムホイールの動きを、水平ではなく垂直方向に動かすレバーを採用したクロノグラフは、本作以外にないのではないか。限定版とするのは惜しいほどの完成度を持つモデル。
オデュッセウスの軽快さはないが、時計とブレスレットのバランスもまずまずだ。普段使いにも向くだろう。ただだし、価格は安くない。
総評
ウォッチズ&ワンダーズ2023では、ムーブメントよりも外装に手間をかけた時計が多く見られた。一昔前のムーブメント開発競争はひと段落し、代わりにブレスレットや文字盤に注力するようになった印象を受ける。とりわけ、鮮やかな文字盤は、昨年に続き2023年のトレンドといえるだろう。
ここで取り上げた5本は、いずれも見るべき外装を備えた時計である。また、どのモデルも装着感は良好で、抜けもなかった。慌てて新作をリリースしていた10年前とは隔世の感がある。
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