ブルガリが2019年に発表した「オクト フィニッシモ クロノグラフ GMT オートマティック」は、コレクションのキモである薄さと軽さを両立させたモデル。そもそも、自動巻きクロノグラフを作るのでさえ難しいのに、これは極薄で、しかも設計はガチなのだ。見て楽しく、触って楽しい本作は、ブルガリの本気に満ちた1本だ。
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
2023年4月30日公開記事
自社製の自動巻きクロノグラフを作れる=一流メーカーの証
極薄時計の「オクト フィニッシモ」で世界記録を塗り替えてきたブルガリ。しかし、クロノグラフを作るとはまったく予想もしていなかった。
というのも、クロノグラフは、そもそも設計と製造が極端に難しいのである。設計ができても部品が作れるとは限らないし、仮に部品を組めても、それが動くとは限らない。つまり、一体型のクロノグラフとは、総合力のある一流メーカーにしか作れないモノなのだ。
しかしブルガリは、いきなり自社製のグロのグラフを作るだけでなく、それを極薄で実現してしまった。個人的な意見を言うと、薄いトゥールビヨンを作るよりも、薄いクロノグラフを手がける方がはるかに難しい。
2019年初出。写真の個体は世界限定200本のセラミックケース。厚さ6.5mmという薄さを感じさせない実用性を誇る。3時位置に見えるのは、9時位置のプッシュボタンで操作可能なGMT機能だ。自動巻き(Cal.BVL318)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。セラミック(直径43mm、厚さ6.5mm)。30m防水。290万4000円(税込み)。
定石を重ねた手堅いクロノグラフ
モデルを問わず、ブルガリのオクト フィニッシモは似たような設計を持っている。ムーブメントを広げることで、部品を垂直方向ではなく水平方向に散らしているのだ。これはメーカーを問わず、最新の自社製ムーブメントに共通する設計だが、もっとも積極的なのはブルガリではないか。
しかし、そこにクロノグラフを載せるとなると、設計はいきなり難しくなる。レバーやバネなどを、垂直に重ねなければならないのだ。対してブルガリは、驚くような離れ業で、ムーブメントの薄型化に成功した。ムーブメントの厚さは3.3mm、ケースのそれも6.5mmしかない。
クロノグラフのクラッチに採用したのは、古典的な水平クラッチだ。ブルガリの関係者はこう語る。「垂直クラッチは厚みが増すから、古典的な水平クラッチを採用せざるを得なかった」。普通の水平クラッチは、ムーブメントの屋根にあたるブリッジに、ネジでレバーを固定している。対して本作はクラッチの一部を、ブリッジの下に噛ませて支えるというトリッキーな設計を採用した。
基本的には引っかけるだけ、という驚くほどシンプルな構成だが、操作に全く不安はない。スタート/ストップ、そしてリセットの感触は、薄型クロノグラフとは思えないほどガッシリしたものだ。薄さを感じずに使える点で、このクロノグラフは唯一無二かもしれない。
加えて、時分針を駆動する2番車の位置を中心からずらすことで、ムーブメントの厚みを減らした。普通、2番車が中心にないと、時間合わせの際に針飛びがしやすい。しかし、このモデルは全く針飛びを起こさない。当たり前に思えるが、メーカーとしての成熟があればこそだ。