IWC「パイロット・ウォッチ」が傑作である理由。鍵はケースと自社製ムーブメント!

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2023.09.01

パイロットウォッチと言われるジャンルには、多くの傑作がある。しかし、堅牢さと実用性を重視したIWCの「パイロット・ウォッチ」は、その中にあってひときわ異彩を放つ。ムーブメントも仕上げも大きく進化したが、基本的な構成は80年近くも不変。その魅力を改めてひもときたい。

広田雅将(クロノス日本版):文
Text by Masayuki Hirota(Chronos-Japan)
[2023年9月1日公開記事]


1940年代から構成を守り続けるIWC「パイロット・ウォッチ」

 1930年代に発表されたIWCの「パイロット・ウォッチ」が、今に続く個性を得たのは1943年の「マークX」からだ。防水性能と耐磁性能を向上させただけでなく、高い視認性に加えて、急激な減圧でも風防が外れないよう、ベゼルとミドルケースが一体化した2ピースケースとなった。モデルによって違いはあるが、IWCのパイロット・ウォッチは今なお、基本的にこの構成を守っている。

IWC「マーク11」
1944年の「マークX」に続いて、パイロット・ウォッチのスタイルを完成させたのが1948年の「マーク11」だ。気密性の高い2ピースケースに、軟鉄製の耐磁ケースによる高い耐磁性能を誇った。翌49年には英国空軍(RAF)の航空要員にも配給された。


ただ小さいだけではない、セラミックケースのクロノグラフ 41 トップガン

 IWCのパイロット・ウォッチは、基本的にねじ込み式の裏蓋と軟鉄製のインナーケースを持っている。理由は防水性と耐磁性を高めるため。そのためケースはどうしても大きくなってしまう。とりわけ、セラミックケースのモデルは、軟鉄製のインナーケースに加えて、裏蓋をねじ込むためのスティール製リングも内蔵するため、直径は45mm近くなった。

IWC「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 トップガン」
セラミックケースにもかかわらず、直径41.9mmという小さなサイズを実現したパイロット・ウォッチ。ねじ込み式の裏蓋、耐磁性能を高める軟鉄製のインナーケースという特徴は今までに同じ。また防水性能も10気圧に高まった。「EasX-CHANGE」システムにより、ストラップの交換も容易だ。自動巻き(Cal.69380)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約46時間。セラミックス(直径41.9mm、厚さ15.5mm)。10気圧防水。128万1500円(税込み)。

 わざわざリングを追加するのは、セラミックケースに直接裏蓋をねじ込むと、簡単に欠けてしまうため。しかし、2023年の新しい「パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 トップガン」は、セラミックケースにもかかわらず、直径は41.9mmと小さくなった。

 しかも、軟鉄製のインナーケースを省かずに、である。加えて防水性能も6気圧から10気圧に高められた。軽くて丈夫な上、小さくなって使い勝手が良くなったセラミックケースのパイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 トップガンは、パイロット・ウォッチの完成形と言えるだろう。

メーカーを問わず、セラミックス製のケースにはねじ込み式の裏蓋を採用できない。ねじ込むとねじ山が欠けてしまうためだ。対してIWCは、セラミックケースの内側にスティール製のリングを内蔵することで、ねじ込み式の裏蓋を加えることに成功した。サイズが大きくなるのが弱点だったが、最新作は直径41.9mmと小さくなった。


IWC自社製の自動巻きムーブメントもよくできている

 長年ETAやセリタの改良版(グランジャンという)を使ってきたIWC。しかし、近年は自社製(または関連会社のヴァル フルリエと共同開発した)ムーブメントを使うようになった。パイロット・ウォッチも例外ではなく、パイロット・ウォッチ・クロノグラフ 41 トップガンが採用するのは自社製自動巻きクロノグラフのCal.69000系。Cal.ETA7750を置き換えるこのムーブメントは、部品の製造こそヴァル フルリエだが、基本設計はIWCによるものだ。

Cal.69000
IWCのパイロット・ウォッチが採用する自社製自動巻きクロノグラフ。サイズは今まで使ってきたCal.ETA7750にほぼ同じだが、中身は全く別物だ。クロノグラフ機構を頑強に支えるだけでなく、ショックを受けても針ズレを起こしにくい機構を採用する。また、爪を用いた両方向巻き上げ機構は、デスクワークでも十分に巻き上がる。

 Cal.69000系の特徴は大きくふたつ。ひとつは、自動巻きの巻き上げ効率が良くなったこと。そしてもうひとつは頑強さだ。IWCが長年パイロット・ウォッチに採用してきたのは、汎用ムーブメントとして知られるCal.ETA7750である。巻き上げは片方向巻き上げ。

 対して自社製のCal.69000系では、爪を使ってゼンマイを巻き上げる、両方向巻き上げに変更された。これは腕の動きが小さくても良く巻き上がる上、摩耗にも強い。上級機のCal.89000系ほど凝った自動巻きではないが、ベーシックなクロノグラフとしては十分以上だ。

 また、クロノグラフ機構を一枚の受けで支えることで、頑強さを増している。加えて、耐衝撃性も高い。Cal.ETA7750に同じく、クロノグラフをストップさせると、ブレーキレバーだけでなく、リセットハンマーがハートカムに当たるため、強いショックを受けても、クロノグラフ針はまずずれない。いかにもIWCらしい、丈夫で使い勝手に優れたムーブメントと言えるだろう。


玄人好みの「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」

IWC「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」
小径のCal.82000系の採用により、サイズを小さくした“ビッグ”パイロット。Cal.52000系を用いたモデルに比べて、ケースサイズは3mmも小さくなった。IWCならではの頑強で高精度なムーブメントと、良質な外装の組み合わせは本作も不変だ。ストラップを簡単に変えられる「EasX-CHANGE」システムを採用。自動巻き(Cal.82100)。22石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径43mm、厚さ13.6mm)。10気圧防水。125万4000円(税込み)。

 クロノグラフに限らず、ベーシックな3針モデルにも優れたモデルは多い。定番の「マークXX」はもちろんだが、個人的なお勧めは、「ビッグ・パイロット・ウォッチ 43」だ。これはムーブメントを替えることで、傑作「ビッグ・パイロット・ウォッチ」のサイズを3mm縮めたモデル。見た目は典型的な航空時計だが、外装の質感が高く、ケースが薄いため、シチュエーションを問わず使える。


パイロット・ウォッチの見所は

 IWCのパイロット・ウォッチが人気を集める理由のひとつに、よくできた外装がある。今やケースも自製するメーカーは少なくないが、IWCは1980年代から自社で製造している。もともとはチタンケースを作るための試みだったが、内製化の強みを生かして、IWCはケースの質を高めてきた。好例がパイロット・ウォッチだ。

 ベゼルとミドルケースを一体化させたパイロット・ウォッチは、ケースにポリッシュとサテンを混在させるのが難しい。普通は仕上げのためにベゼルを別部品にするが、決して2ピースケースの構造を変えないのは、いかにもIWCだ。高級時計然とした仕上げを与えるのは難しいが、IWCの熟練工たちは、ドレスウォッチのような仕上げをツールウォッチに加えることに成功した。

ベゼルの外れない2ピースケースに、複数の仕上げを混在させるのは難しい。しかしケースを内製するIWCは、パイロット・ウォッチならではのケース構成を変えることなく、ベゼルにはポリッシュ仕上げを、ケースにはサテンとポリッシュ仕上げを加えることに成功した。IWCのパイロット・ウォッチが、いわゆるツールウォッチを超えた質感を持つ理由である。


Cal.82000系、IWC製自動巻きの完成形

 ビッグ・パイロット・ウォッチ 43が「推し」な理由のひとつは、ムーブメントである。完全自社製のCal.82000系は、爪で巻き上げるペラトン式の自動巻きを、頑強なベースムーブメントに重ねたもの。もともと巻き上げが良く、摩耗に強い自動巻きだが、爪などの重要な部品をセラミックスに替えることで、より長く使えるようになった。

 また、ベースムーブメントにも、強い衝撃を受けても時間の狂いにくいフリースプラングテンプを採用する。つまり、頑強で高精度というIWCらしさが詰まったムーブメントなのである。筆者の個人的な意見を言うと、現行のIWCで最もIWCを感じさせるのは、Cal.89000系とCal.52000系、そしてこのCal.82000系だ。

Cal.82000系
2018年に発表されたIWCの次世代ムーブメント。耐摩耗性を高めたペラトン自動巻きや、フリースプラングテンプ、そしてヒゲゼンマイの変形防止ガードなどを採用する。自動巻き(直径30mm、厚さ6.6mm)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。


パイロット・ウォッチの魅力は見るはしくになし

 そもそも純然たるプロ向けとして生まれたIWCのパイロット・ウォッチ。しかし、IWCの進化は、性能をさらに高めただけでなく、高級時計らしい質感をもたらすようになった。一見ベーシックだが、触ると上質さが分かる現行のパイロット・ウォッチ。ここで上げた2本以外にも、見所のあるモデルは数多い。是非店頭で、その進化を確かめてほしい。

Contact info: IWC Tel.0120-05-1868


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