「時計はさまざまなスペックの集合体です。デザインやクオリティ、精度など、いろいろな側面があります。“完璧な食事”は味だけでなく、盛り付けなど、見た目も素晴らしいものです。時計もそうしたさまざまな要素が揃っているものが“良い時計”と言えます。アルパイン イーグルが多くの時計愛好家の支持を得ているのも、同じ理由ではないでしょうか?」。4年ぶりに来日したショパール共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレは、世界的なアルパイン イーグルの大成功をこう語る。
鈴木幸也(本誌):取材・文 Edited & Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年7月号掲載記事]
エシカルであることとラグジュアリーであることの鞍点
ショパールが他社に先駆けて取り組んでいるエシカルであることとラグジュアリーであることに、妥協点はないのだろうか?
「そこに大きな妥協点はないと思っています。強いて言うならば、環境対策へのより高いコストやロジスティックの複雑化、製造過程や人員配置の転換などを受け入れるのが“妥協”でしょうが、むしろ今は高級時計に見合うパッケージングをどうするのかという問題のほうが重要です。高級時計にはそれに見合った箱が求められます。特別な素材を使うと重くなり、その分輸送コストが上がってしまい、結果、カーボンフットプリントも上がってしまいます」
1958年、ドイツ生まれ。ショパール共同社長。15歳でスイスに移住し、HECローザンヌ校に入学。卒業後、ショパールに入社。1988年に「ミッレ ミリア」コレクションをスタートさせたほか、96年にはスイスのフルリエにマニュファクチュール工房を設立し、自社製ムーブメント「L.U.C」の製造を開始した。2019年に発表した「アルパイン イーグル」の大ヒットを受けて、次は「ミッレ ミリア」コレクションに注力するという。
「今、アルパイン イーグルの箱にはジュネーブ近郊で取れる木材を使用しています。その意味では、フットプリントは低いのですが、重たいので輸送費がかかってしまいます。アルパイン イーグルは日本でよく売れているので、その箱を日本に送るのは、あまり良くないかなと思っています。素材としてはサステナブルですが、輸送費の面ではサステナブルではないという相反する関係にあります」。そもそもパッケージはいらないというユーザーにはシンプルなパッケージでの対応も検討中だという。
「私たちはルーセントスティールの90%リサイクルを目標に掲げていますが、なぜ100%ではないのか? と問われることがあります。100%リサイクル素材にしてしまうと、今度は今と同じクォリティを維持することが難しくなってしまいます。具体的には、輝きの面や硬度の面などです。さらに、リサイクル素材の調達自体も容易ではありません。現状は、自社で出たスクラップをサプライヤーに戻して、リサイクルしているという状況です。それ以外にも、航空業界や自動車業界、医療業界などで出たステンレススティールのスクラップを使用しているのですが、いずれも品質が高く、汚染されていないのは利点ですが、これらだけで100%のリサイクルを達成するのは難しい状況です。強いて言えば、この90%なのか、100%なのか、という数字が“妥協点”ということでしょうか?」
日本の伝統美をモノクローム文字盤で表現したモデル。ケースには、80%のリサイクルスティールから生産されたルーセントスティール™ を使用。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.Chopard 01.15-C)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。ルーセントスティール™ケース(直径41.0mm、厚さ9.7mm)。100m防水。日本限定100本。215万6000円(税込み)。
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