カシオ/G-SHOCK 5000シリーズ Part.1

1983年にリリースされたG-SHOCKは、そもそも純然たる実用時計として生まれたものだった。しかし興味深いストーリーや、さまざまなモデルは、やがてG-SHOCKに人々の耳目を集めさせるようになった。今やアイコンへと成長を遂げたG-SHOCK。今回取り上げるのは、定番中の定番である5000/5600系だ。

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Hiroyuki Suzuki
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


DW-5000C
耐衝撃構造を模索した初代G-SHOCK

DW-5000C

DW-5000C
1983年4月発売。カシオのお家芸であるデジタルクォーツを、頑強な外装で覆ったモデル。写真は赤をあしらった1A。ほかにも黄色を差し色に用いた1B、ホンダF1とのコラボレーションであるホンダモデルが存在する。クォーツ(Cal.240)。樹脂×SSケース。200m防水。販売当時の価格1万1400円。

 初代G-SHOCKである「DW-5000C」。開発のきっかけは、設計部に所属していた伊部菊雄氏が、落としても壊れない丈夫な時計を作りたい、と考えたこと。開発期限が目前に迫った休日、食事のために外出した彼は、会社の隣にある公園で、ゴムボールで遊ぶ子供たちを眺めていた。ボールの中でモジュール(ムーブメント)を浮かべればショックに強くなる、と思った伊部氏は、モジュールを小さな点で支えるだけでなく、その周囲にわずかな空間を設けて耐衝撃性能を高める、類を見ない中空構造を考案した。

DW-5000C

G-SHOCKスクエアモデルの原型となったDW-5000C。驚くことに、液晶の表示や機能などは、最新作と大きく違わない。左下に大きく書かれた「WATER RESIST 200M」という表記に注目。今でこそ200m防水は当たり前になったが、この当時、安価なデジタルウォッチで、200mもの防水性能を標榜したものは存在しなかった。その証拠に、搭載する240モジュールの説明書には「HEAVY DUTY-SPORTS」と記されている。
DW-5000C

G-SHOCKの野心的な構成を示すのが、ねじ込み式の裏蓋である。この価格帯の腕時計としては、かなり贅沢な構成である。そのためか、96年のDW-5600E以降では、ネジ留めの裏蓋に変更された。ねじ込み式の復活は、2009年のGW-5000U-1を待たねばならない。

 もっとも、製品化にはさらなる苦労があった。DW-5000Cのアイデアをデザイナーに話したところ「これだけ要件が固まった時計に、デザインを加える余地はない」と伊部氏は言われたそうだ。また、複雑な形状を持つベゼル(ケースカバー)を、すべて樹脂で仕上げることもまず不可能と見なされていた。彼はケースメーカーで数カ月間寝泊まりを続け、根負けしたメーカーにようやく作ってもらえたという。

DW-5000C

ケースにベゼルを被せるというG-SHOCKの構成は、初代のDW-5000Cですでに完成していた。後のモデルに比べると、5000Cの外装は、明らかに樹脂を被せた感が強い。ベルトを下方に曲げて落とした際のショックを吸収する構造も、このモデルが実現したものだ。

 G-SHOCKのデザインは、徹頭徹尾、耐衝撃性を考慮したものだった。ケースに被せるベゼルは、ショックを受けてもベゼルとプッシュボタンを保護する形状となった。またストラップも、落下したときに時計にダメージを与えにくいよう、下方向に湾曲して取り付けられた。それ以前も確かに耐衝撃性能を強化した時計は存在した。しかし、これほど特化した時計は、かつてなかったのである。

 サイズが大きいこともあって、発表当初は、日本市場での注目はほぼなかったDW-5000C。しかし、アイスホッケーのパックの代わりにG-SHOCKを叩くというCMがアメリカで流されるようになると、まずアメリカ市場で人気を集めるようになった。伝説の始まりである。

DW-5000C

極めて複雑な形状のケース。1980年代当時、この形を金型で抜くのは不可能だと考えられていた。
DW-5000C

今に通じる形状のベルト。ただし、初代モデルには、凹凸を強調した通称「タイヤベルト」が付く。



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