「ビッグ・バンの44㎜は、実のところ大きな時計ではない。というのも『耳』(オレイユリング)を含めると44・5㎜だが、ベゼルの幅は実寸41㎜しかないからだ。でも私たちはこれを44㎜と呼ぼう、と決めた」
――なぜ、41㎜のビッグ・バンを44㎜サイズと大きく公称したのですか?
「当時は大きな時計が流行っていたからさ。パネライやロイヤル オークのジャンボがいい例だろう?」
彼は別のインタビューで、次の半世代(半世紀ではない)まではビッグウォッチのトレンドが続くと明言している。ビッグ・バンはその時流に乗ったわけだ。
――08年にはデザインの手直しをしましたね? インデックスをバーに改め、より立体感を増した「エボリューション」です。なぜ発表から3年でデザインを変えたのでしょう?立体感を増すためですか?
「正直、デザインを変える必要はなかった。変更の理由は立体感ではなく、もっとクラシカルにしたかったためだ。光り方を抑え、マットにしたかった。でもエボリューションをリリースした後も、オリジナルモデルの需要は大きいね。現在、エボリューションをどうするかは検討中だ」
近年、ウブロはよりシンプルな「クラシック・フュージョン」をリリースした。これは明らかに、エボリューションと立ち位置が被っている。彼がどうするか悩むのは分からなくもない。
――ウブロは大きな成功を収めました。しかし限定品を出し過ぎではないでしょうか。実際、あるインタビューでは、限定品を出し過ぎたと仰っている。ウブロの限定品政策は、正直私には分からない。どうお考えですか?
「以前よりは賢明になったよ」
彼はウブロのコレクションをマトリックスに書き始めた。分類はケースサイズだ。48㎜を頂点に、44㎜、41㎜、38㎜と升目のように時計のイラストを並べていく。
「もしウブロを1本持っている人が、2本目、3本目を買うとする。次の選択はないだろう。ならば限定品を加えていくしかない。もしレギュラーモデルを増やしていくなら、製品構成はやがてカオス、渋滞になるだろう。限定品のコンセプト自体は、ウブロにとっては良かったと思っているよ」
――つまり限定品とは、2本目、3本目を買ってもらうためのアイデア?
「その通りだ。40%の顧客は1本以上のウブロを買う。もし普通のコレクションしかないなら、その顧客は2本目、3本目を買わないだろう。ビッグ・バンのような単一プロダクトは、限定品を設けるしかないんだ」
単一プロダクトと聞いて想起するのは、かつてのブランパンだ。彼が事実上創業したこのメーカーは、モデルを問わず、ほぼ同じ形のケースを持っていたのである
――それはブランパンでCEOを務めていた時代の経験から得たものですか?
「いや、ブランパンは6つの『マスターピース』を持っていただろう? 機能が分かれていた。でもウブロのビッグ・バンは大きさの違いがメイン。限定品は不可欠なんだ」
これで合点がいった。限定品をリリースするのも、複雑時計を製造するのも、2本目、3本目のためのアプローチなのか。
別れ際、彼に率直な印象を語った。あなたはマーケティングの天才と言われているが、私があなたを評価する所以は、プロダクトもコントロールできる手腕にある、と。対して彼は、インタビュー以上の明快さをもって、こう述べた。
「その通り。私はマーケティングの人間ではない。プロダクト畑の人間なんだよ」
彼のノウハウを集大成したビッグ・バン。成功を収めたのも、むべなるかなではないか。