実用腕時計の“基準機”たる資質を備えた「オイスター パーペチュアル デイトジャスト」。その誕生と熟成の過程には、ひとつの機構を丁寧に熟成させていくロレックスのプロダクトに対する姿勢が明確に表れてくる。2012年、ビエンヌに完成したムーブメント工房のレポートを絡めつつ、完成形へと至るデイトジャストの進化を辿る。
[連載第13回/クロノス日本版 2013年1月号初出]
OYSTER PERPETUAL DATEJUST [Ref.1601]
スタイリングを決定づけた60年代の傑作機
1960年製のRef.1601。この時代のロレックスに特有のブラックダイアル。リュウズやリバーサーを含めて、ほぼオリジナルの個体。実物を見ると、なぜRef.1601が成功したのかは理解できる。まとまりが良く、万事そつがない。自動巻き(Cal.1565)。26石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約44時間。SS×18KYG(SS×14KYGもあり、直径36mm)。30m防水。個人蔵。
デイトジャストに大きな成功をもたらしたのが、1950年代後半から77年まで製造された、Ref.1601である。搭載されたのはキャリバー1565(65年まで)と、その改良版である1575(1570として知られているが、正しくは1575である)。その高精度と安定ぶりは、ロレックスの名をいっそう高めた。
初代モデルとなった45年のRef.4464以降、ロレックスはデイトジャストのムーブメント径を拡大させてきた。オリジナルモデルのキャリバー740は10.5リーニュ。しかし50年代半ばに発表されたキャリバー1065では、11.5リーニュとなった。拡大の理由は、おそらく両方向自動巻き機構(リバーサーを2枚要する)とデイト表示の瞬間早送り機構を搭載するためだろう。しかし性能に満足できなかったのか、数年後にロレックスは直径を12.5リーニュにまで拡大した。これがキャリバー1530と、それにデイト表示を加えてクロノメーター化したキャリバー1565である。さらにロレックスはこのムーブメントの振動数を1万9800振動/時に高め、キャリバー1575に進化させた(65年)。デイトジャストのムーブメントは、これで完成したといっても過言ではない。
1960年代にロレックスの生産本数は急増した。大きな理由はデイトジャストの好セールスだが、それも搭載したキャリバー1565/1575の優秀さがあればこそである。それを証明するかのように、この時代のデイトジャストの多くが現存し、しかも現行品に遜色ない精度を誇っている。
本誌でも再三述べてきたように、ロレックスは、最新が最良である。しかしこの時代のデイトジャストには、アンティークウォッチとしての心地よさと、現行品にも通じる実用性の高さが共存している。
OYSTER PERPETUAL DATEJUST 36 [Ref.116234]
伝統を継承する現行デイトジャスト
2005年発表。前モデルのRef.16234に比べて、ラグが太くなったケース、遊びを詰めたブレスレット、コンシールドクラスプなどを採用。外装の質感や、操作系の剛性感などは、この価格帯で随一か。搭載するのは、名機Cal.3100系である。自動巻き(Cal.3135)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS×18KWG(直径36mm)。100m防水。76万円。
1990年代から進んだ、ロレックスの経営統合。その結果が、新しいデイトジャストである。搭載するのは、名機中の名機であるキャリバー3135。ムーブメントは前モデルと同じだが、外装の質感は劇的に向上した。
90年代、ロレックスはケースのサプライヤーであるジェネックス社、ブレスレットのサプライヤーであるゲイ・フレール社、リュウズのサプライヤーであるボニンキ社などを買収した。2001年には、ケースとブレスレットの新工場建設に着工。05年には内製化を実現した。
統合の成果は、フラッシュフィット(この名称はロレックスが商標登録を行っている)と、ケースの噛み合わせを見れば理解できよう。近年、他社もこの間隔を詰めようと努力している。しかしロレックスのそれは完全に密だ。加えて5連リンクのジュビリーブレスレットの各コマの遊びも詰められた。一般的にコマの遊びを詰めると、ブレスレットの動きが硬くなる。しかしデイトジャストのブレスレットは、コマ数を増やすことで、全体に遊びを持たせるようにしてある。また加工精度自体が優れていることも自明であろう。新しいジュビリーブレスレットでは、長年の課題であったバックルにも手が入れられた。従来のプレーンなものに替えて、「コンシールドクラスプ」が採用されたのである。適度な重みを伴った開閉感と、左右のガタのなさは、他に類を見ない。
一貫して、実用自動巻きの「基準機」であり続けるデイトジャスト。確かにコンペティターの製品も質感を高めている。しかし新しいデイトジャストで、ロレックスは他社を突き放した感がある。意匠の好みは分かれるだろうが、ロレックスは常に最新が最良であり、デイトジャストもまた然り、なのである。