【リシャール・ミル トゥールビヨン全機集】
ムーブメントビルダーが語るリシャール・ミルの手法

ダイアルという概念を排し、搭載されるムーブメントそのものをビジュアル要素とするリシャール・ミルの手法。この“既成概念の破壊”に根差したキーコンセプトは、ブランドローンチモデルとなった初作「RM 001」で既に実現されていた。現時点で45機種にまでファミリーを増やしたリシャール・ミルのトゥールビヨン。その全機のムーブメント設計を手掛けたジュリオ・パピ氏のコメントから、稀代のコンセプター、リシャール・ミル氏の手法を明らかにしてみたい。

RM 012 [2007]
地板と受けの代わりに、パイプでムーブメントを支えた初の時計。ミル氏が完成度に納得しなかったため、リリースは1年遅れた。ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリの「金の針賞」を受賞。手巻き(Cal.RM012)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。Pt(縦48×横39.3mm)。限定30本。5000万円(生産終了)。

 2001年に発表されたリシャール・ミルの初作「RM 001」のファーストローンチに先立ち、ムーブメント開発を担当していたAPルノー・エ・パピ(以下APRP)を訪れたリシャール・ミル氏は、後にRM 001の開発を請け負うことになるファブリス・デシャネル氏に対し、明確に〝既成概念の破壊〟をリクエストしたという。ミル氏曰く「従来の時計に分裂を引き起こすもの」。既にトゥールビヨンだけで45種が発表されているリシャール・ミルのプロダクトに関するビジョンは、そのほとんどの場合〝希代のコンセプター〟として知られるミル氏本人の言葉で語られてきた。しかし本稿では少し視点を変え、ムーブメント開発そのものに関わった時計師に言を求めることにした。白羽の矢を立てたのはAPRPのジュリオ・パピ氏。トゥールビヨンにテーマを絞るなら、全機の開発を手掛けた人物だ。

(左)RM 006 [2004]
初の超軽量トゥールビヨン。後にRM 009に進化する地板にはカーボンナノファイバーが採用された。またフェリペ・マッサが初めて使ったモデルである。手巻き(Cal.RM006)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(縦45×横37.8mm)。限定30本。2800万円(生産終了)。
(中)RM 003 [2002]
RM 002にデュアルタイム表示を追加したモデルがRM 003。地板がカーボンナノファイバーに変わって、名称がV2に変更された。手巻き(Cal.RM003)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KWG(縦48×横39.3mm)。3000万円(生産終了)。
(右)RM 002 [2001]
RM 001にファンクションセレクターを追加したモデル。2005年以降は、地板がチタンからカーボンナノファイバーに変更された。手巻き(Cal.RM002)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KRG(縦45×横38.3mm)。2300万円(生産終了)。

(左)RM 014 [2006]
イタリアのヨットメーカー、ペリーニ・ナヴィ製のヨットに触発されたモデル。リシャール・ミルでは珍しいPtケースもあった。手巻き(Cal.RM014)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。Pt(縦45×横38.9mm)。4770万円(生産終了)。
(中)RM 009 [2005]
RM 006の進化版。軽いアルシックとアルミニウムリチウム合金をケースとムーブメントの地板に採用する。ケース本体の重量は29g。手巻き(Cal.RM009)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。アルシック(縦45×横37.8mm)。限定25本。3800万円(生産終了)。
(右)RM 008 [2005]
初のスプリットセコンドクロノグラフトゥールビヨン。またトルクインジケーター機構も併載している。後にRM 050、056に進化する。手巻き(Cal.RM008)。31石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KRG(縦48×横39.7mm)。5900万円(生産終了)。

「ミル氏がモーブッサンの時計部門を率いていた時代から、彼とは仕事をしていました。彼がモーブッサンを辞して自らのブランドを起ち上げることが決まり、APRPを訪ねてきたのです。その時点でミル氏の中には確固たるコンセプトがありました。しかし頭の中だけでそれを具現化して伝えることは難しい。我々はまず、ミル氏の頭の中だけにあったコンセプトをデッサンして見せたのです」

 既成概念の破壊を求めたミル氏にしても、ムーブメントの装飾性は重要だと認めていた。APRPがミル氏に提案したのは、コート・ド・ジュネーブやペルラージュといった伝統的な手法ではない装飾、すなわち〝現代的な時計にマッチするデコレーション〟だった。その後ミル氏とAPRPは、このデッサンを下敷きにしてムーブメントのエステティックを煮詰めていくのだが、参考にしたのは(既によく知られているように)メカクロームのF1エンジン。初期のリシャール・ミルが好んで用いた「高級時計のF1」というコミュニケーションも少しずつ確立されていった。

(左)RM 018 [2008]
「オマージュ・ア・ブシュロン」と命名された、ブシュロン創業150周年記念モデル。合成サファイア製の地板や、半貴石を埋め込んだ歯車を持つ。手巻き(Cal.RM018)。24石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦48×横39.3mm)。限定30本。7900万円(生産終了)。
(中)RM 017 [2011]
初の薄型トゥールビヨン。自動巻きモデルRM 016とほぼ同寸のケースに、厚さ4.6mmのムーブメントを収めた。ケース厚はわずか8.7mm。手巻き(Cal.RM017)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KWG(縦49.8×横38mm)。5110万円。
(右)RM 015 [2007]
RM 014にデュアルタイムを加えたモデル。ベリーニ・ナヴィ以降、リシャール・ミルは異形ケースに挑戦するようになった。手巻き(Cal.RM015)。23石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KRG(縦48×横39.3mm)。4760万円(生産終了)。

(左)RM 020 [2008]
リシャール・ミル初の懐中時計。チェーンを含む、外装の構成パーツ数は計189個に及ぶ。スタンドを使うとクロックとしても使える。手巻き(Cal.RM020)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約10日間。Ti(縦62×横52mm)。5650万円(生産終了)。
(中)RM 19-01 [2014]
クモがあしらわれた、ナタリー・ポートマン着用モデル。地板にも数百個のブラックサファイアが埋め込まれた。パワーリザーブ付き。手巻き(Cal.RM19-01)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦46.4×横38.3mm)。限定20本。7210万円(生産終了)。
(右)RM 019 [2009]
ムーブメントにケルトノット模様をあしらった女性用モデル。地板には鏡面に仕上げたブラックオニキスを採用する。手巻き(Cal.RM019)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦45×横38.3mm)。限定30本。5500万円(生産終了)。

「搭載するムーブメントを〝黒いF1エンジン〟に仕立てる。その地板にはカーボンファイバーが相応しい。こうした方向性は早くから決まっていたのですが、問題は高級時計に使えるカーボンが存在するのかという点でした。通常のカーボンは約20%のレジンを含みます。レジンが多いとUVによる劣化が懸念されますし、OH時に用いる洗浄液との相性も確認しなくてはなりません。レジン成分20%のカーボンでも地板は作れますが、それは高級時計のマテリアルではないのです。我々は約5年をかけて、高級時計に使えるカーボン素材を探しました。ようやく巡り会ったのが、アメリカで製造されていたレジン成分2%のカーボンファイバーでした」

 しかしこれも周知の事実だが、このカーボンファイバー製の地板はRM 001のファーストローンチには間に合わなかった。「セカンドオピニオンとして用意していたのは、PVD加工を施したマイショーでした」

 RM 001〜004の初期モデルは、カーボンファイバー製地板に換装した「V2」に対して、便宜的に「V1」と呼ばれるが、そのマテリアルは真鍮かチタンとされてきた。特に17本が製造されたRM 001の地板は、12本が真鍮製、5本がチタン製と資料にあるが、実際にはマイショーが使われたようだ。

RM 19-02 [2015]
リシャール・ミル初のオートマタ・フライングトゥールビヨン。一定の時間が来ると、キャリッジがせり上がり、マグノリアのめしべが開いてトゥールビヨンを見せる。手巻き(Cal.RM019-02)。40石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約36時間。18KWG(縦45.4×横38.3mm)。限定30本。予価1億1860万円。

「RM 001には、〝一刻も早く市場に与えるインパクトを見たい〟というリサーチモデルとしての側面がありました。RM 001の成功を得て、よりクルマに近いコンセプトを盛り込んだ後継機がRM 002です。このモデルから新たに〝ファンクションセレクター〟が追加されています。〝N〟のポジションを設けたことが、新しいコンセプトでした」

 初作のRM 001から、2011年発表のRM 017まで、リシャール・ミルの腕時計はトノースタイルのケースに拘り続けた(懐中時計を含めれば、08年発表のRM 020まで)。ブランドローンチから約10年に渡ってトノースタイルを作り続けたことで、このケースはリシャール・ミルのアイコニックモチーフとして認知されてゆく。

(左)RM 025 [2009]
300m防水を実現したダイバーズウォッチ。ムーブメントも手直しされ、50%もの部品が変更された。防水性を持たせるため、195gもある。手巻き(Cal.RM025)。30石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。18KRG×Ti(直径50.7mm)。7800万円。
(中)RM 022 [2010]
RM 021にデュアルタイム表示を加えたモデル。ケースの造形は同じに見えるが、わずかに横幅が広がり、厚みも増した。手巻き(Cal.RM022)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ti(縦48×横39.7mm)。5380万円。
(右)RM 021 [2009]
RM 021にデュアルタイム表示を加えたモデル。ケースの造形は同じに見えるが、わずかに横幅が広がり、厚みも増した。手巻き(Cal.RM022)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ti(縦48×横39.7mm)。5380万円。

(左)RM 027 [2010]
初代「ラファエル・ナダル」。カーボンコンポジットケースと、チタン製の地板を持つモデル。風防も軽いグリルアミド製。ケース重量はわずか20g。手巻き(Cal.RM027)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。縦48×横39.7mm。限定50本。4700万円(生産終了)。
(中)RM 26-01 [2013]
ダイヤモンドとブラックサファイアでパンダを表現したのが「トゥールビヨン パンダ」。葉と樹皮はYG製。手巻き(Cal.RM26-01)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦48×横39.7mm)。限定30本。1億4900万円(生産終了)。
(右)RM 026 [2011]
ムーブメント上で重なり合う2匹の蛇があしらわれた「サーペント」。それぞれ仕上げの異なるユニークピースだ。これはエナメル仕上げ。手巻き(Cal.RM026)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦45×横39.7mm)。限定15本。5150万円(生産終了)。

「確かにトノーケースは後年にリシャール・ミルのアイコンとなりましたが、開発当初のコンセプトは少し異なりました。あれも〝クルマ〟なんですよ。6時位置からアオリで見た時にクルマに見えるシルエットなんです。もちろん装着感に優れたシェイプなのですが、ミル氏が求めたのはクルマの造形美でした」

 こうしたリシャール・ミル氏のプロダクトに対する美意識の高さを端的に示すエピソードが、有名な「RM 012」の〝リテイク事件〟だ。地板の代わりにトラス構造のパイプフレームを組み上げたこのモデルには、プロトタイプが1年がかりでようやく完成し、APRPで祝杯を上げているその最中に、リテイクの指示が飛び込んできたという逸話がある。

(左)RM 36-01 [2014]
Gセンサー付きモデルの第2弾が、「セバスチャン・ローブ」。ベゼルはブラウンTZPセラミック製。手巻き(Cal.RM36-01)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。セラミック×カーボンコンポジット×Ti(直径47.7mm)。限定30本。7210万円(生産終了)。
(中)RM 036 [2013]
12時位置に加減速時の重力加速度を計測できる「Gセンサー」を備えたモデル。9時位置のプッシュボタンでセンサーはリセットが可能である。手巻き(Cal.RM036)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ti(縦50×横42.7mm)。限定15本。5740万円(生産終了)
(右)RM 27-01 [2013]
「ラファエル・ナダル」の第2弾。耐衝撃性を高めるため、鋼鉄ケーブル4本でムーブメントを支えている。グリルアミド風防。手巻き(Cal.RM27-01)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。カーボンコンポジット(縦45.98×横38.9mm)。限定50本。7500万円(生産終了)。

RM 038 [2011]
軽さと耐衝撃性を追求したのが「バッバ・ワトソン」。インパクトを受ける方向を踏まえて、受けの保持方法が変更された。手巻き(Cal.RM038)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。マグネシウムWE54(縦48×横39.7mm)。限定38本。4510万円(生産終了)。

RM 38-01 [2014]
「バッバ・ワトソン」の第2弾。20Gまで計測できるGセンサーを備えるほか、ケース素材も一新された。手巻き(Cal.RM38-01)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ti×TZP-G グリーンセラミック(縦49.94×横42.7mm)。限定50本。9200万円。

「これもレーシングカーのシャシーにインスピレーションを得たモデルでした。トラス構造は、エステティックよりも軽さを追求したものでしたね。昔のレーシングカーはみんなトラスフレームでしたから。ところでフランク・ウィリアムズをご存じですか? ウィリアムズF1チームの総帥ですが、彼はニューマシンのシェイクダウンでタイムが伸び悩んだ時、軽くするためにフレームの一部をカットしてしまったのです。もちろんミル氏も、このエピソードは知っていたでしょうね」

 一方、2005年にはアルシック製ケースを採用した「RM 009」を投入し、この頃からリシャール・ミルは、先進素材の導入に、より積極性を見せるようになってくる。

(左)RM 50-01 [2014]
F1ドライバー、ロマン・グロージャンとのコラボモデル。RM 050にGセンサーを加え、ケース素材を変更した。手巻き(Cal.RM50-01)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。NTPT®カーボン(縦50×横42.7mm)。限定20本。1億300万円。
(中)RM 050 [2012]
スプリットセコンド・クロノグラフ・トゥールビヨン。軽量化を推し進めた結果、ムーブメントの重量はわずか9.5gとなった。手巻き(Cal.RMCC1)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。カーボンコンポジット(縦50×横42.7mm)。限定10本。8510万円(生産終了)。
(右)RM 039 [2012]
回転計算尺を初搭載したフライバック・クロノグラフ・トゥールビヨン。厚さは19.4mmもある。UTC機能とオーバーサイズデイト表示も備える。手巻き(Cal.RM039)。58石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ti(直径50mm)。限定30本。1億750万円。

(左)RM 51-02 [2015]
ムーブメント上に、ダイヤモンドをセットした弧線を配したモデル。近年のリシャール・ミルは、こういったモデルも手がける。手巻き(Cal.RM51-02)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦47.95×横39.7mm)。限定30本。予価1億610万円。
(中)RM 51-01 [2014]
コラボレーションモデル第2弾は「トゥールビヨン タイガー&ドラゴン ミシェル・ヨー」。文字盤に龍と虎があしらわれている。手巻き(Cal.RM051-01)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(縦48×横39.7mm)。限定20本。1億100万円。
(右)RM 051 [2012]
ミシェル・ヨーとのコラボレーションモデル。18KRGケースにダイヤモンドがあしらわれている。表から見えるのはフェニックス。手巻き(Cal.RM051)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(縦48×横39.7mm)。限定18本。6690万円(生産終了)。

「完全なケース単体という意味であれば、我々が開発に関わることはありません。もちろん素材研究に関しては把握していますが。ただしリュウズなどは別です。この部分はムーブメント側にかかる影響が極めて大きいので、サイズなどを把握しておく必要があります。RM 001の開発当時、精巧なダイナモメーターのメーカーを見つけられたので、サプライヤーに開発と生産を任せられましたが、ダメならAPRPで作っていたでしょう。そうそう、RM 001から003までは、時分針を仕上げるサプライヤーが見つからずに針もAPRPで作りました。おそらく、市場で最もハイコストな針になったでしょう」

(左)RM 053 [2012]
ポロプレイヤー、パブロ・マクドナウとのコラボモデル。フロントのカバーは強靱なチタンカーバイト製である。手巻き(Cal.RM053)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti×チタンカーバイト(縦50×横42.7mm)。限定15本。5430万円(生産終了)。
(中)RM 52-01 [2013]
右モデルの素材違い。しかしベゼルがセラミックとなったため、サイドの肉抜きは廃された。手巻き(Cal.RM52-01)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。セラミック×カーボンコンポジット(縦50×横42.7mm)。限定30本。6760万円(生産終了)。
(右)RM 052 [2012]
ムーブメントの中心にスカルをあしらったモデル。ムーブメントは4つの受けで支えられている。またベゼルとケースバックのサイドは肉抜きされた。手巻き(Cal.RM052)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。Ti(縦50×横42.7mm)。限定15本。4280万円(生産終了)。

RM 056 [2012]
サファイアクリスタル製のケースを持つスプリットセコンド・クロノグラフ・トゥールビヨン。ケースの機械加工だけで1000時間以上を要する。手巻き(Cal.RMCC1)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。サファイアクリスタル(縦50.5×横42.7mm)。限定5本。1億4000万円(生産終了)。

 開発者の側から見たリシャール・ミルのエピソードは尽きないが、そろそろ紙幅も少なくなってきたので最新作で締めくくりたい。オートマタを搭載した「RM 19-02」である。

「APRPでは1992年にユリス・ナルダン向けにオートマタを開発していますが、その動きは滑らかではありませんでした。まるでパントマイムのようなカクカクした動きは、各パーツのアガキによって生まれます。RM 19-02では、滑らかな動きを得るために、アガキなしで動く輪列のプロファイルを徹底的に研究しました。これは我々の財産です」

(左)RM 057 [2012]
ムーブメントにドラゴンをあしらった、ジャッキー・チェンとのコラボレーションモデル。地板はオニキス製。手巻き(Cal. RM057)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(縦50×横42.7mm)。限定36本。5700万円(生産終了)。
(中)RM 56-02 [2014]
香箱とキャリッジの受けがサファイアクリスタルに変更されたほか、ムーブメント自体もケーブルで吊られている。手巻き(Cal.RM56-02)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約38時間。サファイアクリスタル(縦50.5×横42.7mm)。限定10本。2億2750万円(生産終了)。
(右)RM 56-01 [2013]
ケースだけでなく、地板、センターの受け、4番車をサファイアクリスタルに変更したモデル。手巻き(Cal.RM56-01)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。サファイアクリスタル(縦50.5×横42.7mm)。限定5本。1億5700万円(生産終了)。

(左)RM 59-01 [2013]
「トゥールビヨン ヨハン・ブレイク」。ケースは空気力学を反映して、アシンメトリーになっている。手巻き(Cal.RM59-01)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。カラードカーボンコンポジットケース(縦50.24×横42.7mm)。限定50本。6240万円(生産終了)。
(中)RM 58-01 [2013]
ベゼル上に複数の都市名を表示した、ワールドタイマー付きトゥールビヨン。第2時間帯の調整は、ベゼルの操作だけで行う。手巻き(Cal.RM58-01)。41石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約10日間。18KRG×Ti(直径50mm)。限定35本。7510万円。
(右)RM 57-01 [2013]
「ジャッキー・チェン」第2弾。ムーブメント上には、ドラゴンだけでなく、フェニックスも加わった。いずれのモチーフも18KRG製。手巻き(Cal. RM57-01)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRG(縦50×横42.7mm)。限定15本。日本未入荷。

 RM 19-02は、コンセプション(設計)の段階で精度面についてはクリアできていた。あとは確実に組み上げるのみである。しかしそれには、パーツ単位での公差を厳密に管理し、ジオメトリーを損なわない装飾仕上げのスキルと、装飾を傷つけない腕を持った時計師の双方が重要な役割を担うことになる。

「私の目標は最も精度の高い時計を作ることですが、リシャール・ミルの場合には、設計の最適化や組み立て時の調整に、十分な時間と予算を投入することが可能です。つまり長い調整時間にもフィーを支払えるということです。確かにリシャール・ミルの時計は高価になりますが、カスタマーまで含めた〝素晴らしい循環系〟が成立している、希有なブランドと言えるのではないでしょうか」

Giulio PAPI [AP Renaud et Papi]
APルノー・エ・パピ テクニカルディレクター。1965年スイス、ラ・ショー・ド・フォン生まれ。84年にラ・ショー・ド・フォン時計学校を卒業した後、オーデマ ピゲに入社。主に複雑時計の開発に携わった後に独立して、86年にルノー・エ・パピを設立。リシャール・ミルとは、初作「RM 001」の企画時点から設計開発に携わり、トゥールビヨンのみに関して言えば、全機を手掛けている。

トゥールビヨン以外にも試みられたコンプリケーションのフォーマット

複雑機構としては、一貫してトゥールビヨンを好んできたリシャール・ミル。しかし希に、それ以外の複雑機構を載せることもある。しかし「時計とは効率的で妥協がなく、ギミックとグラマーを省いたものであるべき」と語るミル氏の思想を反映して、それぞれの機構は筋が通ったものだ。とりわけ興味深いのは、AP脱進機を載せたRM 031だろう。現時点で、これ以外に超高精度を意図したモデルはないが、今後増えてゆく可能性はある。

RM 031 [2012]
AP脱進機を搭載した超高精度機。オーデマ ピゲと資本関係にあるリシャール・ミルは、この新技術をいち早く採用することが可能となった。手巻き(Cal.RM031)。26石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ti×Pt(直径50mm)。限定10本。1億1400万円(生産終了)。

RM 004 [2002]
初のスプリットセコンドクロノグラフ。基本設計はAP向けのものと同じだが、ディテールなどが一新された。手巻き(Cal.RM004)。37石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。Ti(縦48×横39mm)。限定30本。1800万円(生産終了)。