超難切削材に挑むリシャール・ミル専任の自社ケース工房

リシャール・ミルの共同設立者であるドミニク・ゲナ氏が率いる自社ファクトリー「オロメトリー」に続いて、2013年に設立されたリシャール・ミル専任のケース工房が「プロアート・プロトタイプス」である。極小生産を得意としてきた小工房を母体とするここで、ゴールド素材以外のほとんどが“超難切削材”となるリシャール・ミルのケースが生み出されている。

チタンの無垢材から切削加工されるリュウズプロテクター。プロアート製のパーツは、ブレスレットやケースの他、地板、受け、ローター、針、ダイアルベース、キドメなど。ペイントやデカルクはオロメトリーの子会社であるVMDHの担当。

チタン製のベゼルは約1年前から、スタンピングで生じる残留応力の影響を嫌って、全切削に製造工程を改めた。円柱状の母材から2枚を同時に削り出してスライスする。大量に発生するチタンダストは回収して、リサイクル材として再利用される。

 独創的なムーブメントの開発と同様、リシャール・ミルの革新性の中心となっている特殊なケースマテリアル。その製造を担う、最も新しい拠点が「プロアート・プロトタイプス」である。もともとかなり小規模だった独立系のケースサプライヤーを、リシャール・ミルの共同設立者であり、同社製造部門のひとつである「オロメトリー」の代表も務めるドミニク・ゲナ氏が拡大。2013年からリシャール・ミル専任の自社ケース工房となっている。

 約30名のスタッフを抱えるここは、年産数約3000個(当然ながらRMの年産数と同数)とキャパシティは決して大きくないが、切削加工に特化したCNCは最新の機材が投入されている。例えば5軸フライスのスピンドル回転数は、一般的な4万rpmに対して5万rpm。取り扱う材料が超難切削材ばかりのため、そのノウハウも独特だ。例えばカーボンやチタンの切削時には、まるで滝のように切削油を吹き付ける。切削時に発生したバリを洗い流しつつ、ツールや母材の温度を少しでも下げることが目的だ。さぞや歩留まりも悪かろうと思ったが、切削パス生成などの製造前シミュレーションを厳密に行うため、それほど歩留まりは悪くないという。ただしゴールドなどに比べて、チタンやカーボンは切削ノウハウが確立されていないため、事前調整にかかる時間は膨大だ。

同じく「RM 27-02」のベゼル、バックケースに用いられる切削母材。NTPT®カーボンとクォーツTPT®を積層させたニューマテリアルである。1枚の母材からベゼルとバックケースを削り出すため、そのペアリングは厳密に管理されているようだ。

最新作「RM 27-02」のミドルケース。地板部分が一体化された構造で、素材にはNTPT®カーボンを用いる。140ものツールコンテナを備えた5軸CNCを駆使するだけでなく、5万rpmもの超高速スピンドルと大量のオイル冷却を併用する。

 また、約1年前に新規導入されたという接点センサーを用いるQCも厳格。ケースの仕上がりチェックならば100分の1ミリ単位が普通だが、プロアートではムーブメントパーツと同様に、1000分の1ミリ単位でチェックする。そのチェック箇所は、ベゼル1枚で100箇所にのぼる。最終的には、工房にひとりしかいないというフィニッシャーの手仕上げを経て、特殊素材のケースは完成へと至るのだ。

プロアートで製作されたケースは、すべてオロメトリーに運ばれてケーシングされる。写真はケーシングに入っていた「RM 56-02」のサファイアクリスタル製ケース。これはプロアート製ではないが、リシャール・ミルを象徴するモデルのひとつだ。

切削が終了した「RM 27-02」のベゼル。約1年前に導入された接点センサーを用いて、寸法と穴位置、穴径をX、Y、Zの3点座標でチェックする(光学チェックも併用)。チェック箇所はベゼル1枚で100箇所、検査精度は1/1000mm単位だ。