ウブロ/ビッグ・バン[ウニコ&コンプリケーション編]

ビッグ・バン10周年でさらに加速する
自社製コンプリケーションの搭載

個性的なデザインと打ち出しで人気を得てきたビッグ・バン。しかしその商品構成に偏りがあったことは否めない。トゥールビヨンなどのハイエンドと、ウニコの間を埋めるモデルがほとんど存在しなかったのである。しかし開発体制の充実は、ビッグ・バンに待望のプチコンプリケーションを加えることになった。その物堅い設計は、メーカーとしての成熟を感じさせるものだ。

R&D部門の責任者を務めるマティアス・ビュッテ。旧BNBコンセプトの創業者である彼は、ウブロに吸収されたことに伴い、同社の開発チームを率いることになった。

 ウブロが複雑機構の開発を得意とする旧BNBコンセプトを吸収して、R&D部門を充実させたのは2010年のこと。天才マティアス・ビュッテの招聘により、製品開発のスピードは急激に上がった。

 しかし、である。BNBの吸収以前に、ウブロはすでにムーブメント開発のノウハウを持っていたことは強調しておきたい。開発の責任者を務めてきたのは現CEOのリカルド・グアダルーペ。ビバーの陰に隠れて目立たないが、彼はキングゴールドや自社製ムーブメント「ウニコ」の開発を牽引した、辣腕のプロダクトマネージャーでもあった(正式な肩書はゼネラルマネージャー)。

 2004年、ウブロの立て直しに招聘されたビバーとグアダルーペは、自社での開発力を高める一方で、外部メーカーとの協力も深めるという方針を定めた。事実ビバーは、外部メーカーとの協力関係を隠そうとしない。「HUB44と薄い手巻きムーブメントはラ・ジュー・ペレの協力を得て開発したもの。汎用ムーブメントはセリタから購入したものだ」。そう考えると、ウブロがセリタを採用し、やがてラ・ジュー・ペレやBNBコンセプトとの関係を強めたことも理解できる。

 そこに旧BNBコンセプトが加わったことで、現在のウブロは、他社もうらやむような開発体制を持つに至った。結果、何が変わろうとしているのか? 具体的にいうと、ウブロはハイエンドモデルに集中させていた開発リソースを、プチコンプリケーションにも振り分られるようになったのである。

 2015年の新作を見れば、変化は明らかだ。発表された3つのプチコンプリケーションは明らかにハイエンドとウニコの間を埋めるプライスゾーンにある。デザインで市場を牽引してきたビッグ・バンは、今後、内実をさらに充実させることになるだろう。

ビッグ・バン クロノ パーペチュアルカレンダー キングゴールド セラミック
ウニコに永久カレンダーモジュールを加えた新作。「定番」を使ったのは、信頼性を重視したためか。自動巻き(Cal.HUB1270)。46石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミック×18Kキングゴールド(直径45mm)。10気圧防水。891万円。

ビッグ・バン ウニコ クロノグラフ レトログラード チタニウム セラミック
ウニコにモジュールを被せて、秒と分の積算計をレトログラード化した2015年発表モデル。ムーブメント自体の初出は2014年の“FIFAモデル”。自動巻き(Cal.HUB1261)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。セラミック×Ti(直径45mm)。10気圧防水。276万4800円。

 今や充実した開発体制を持つウブロ。メーカーとしての成熟を示すかのように、プチコンプリケーション3作の開発にあたって手堅い手法のみを採用した。「クロノグラフ レトログラード」と「クロノ パーペチュアルカレンダー」は、自社製ムーブメントのウニコにモジュールを重ねたものだ。

 一般的に、クロノグラフのレトログラード化は難しいとされる。しかし文字盤側にクロノグラフ機構を持つウニコは、積算輪列の配置に大きな余白を持っている。レトログラード化は、簡単ではないにせよ、比較的無理なく行えただろう。そしてパーペチュアルカレンダーには、高い信頼性で知られるオーソドックスなモジュールを採用した。設計はコンベンショナルだが、信頼性に関していうと、現行のパーペチュアルでは随一だろう。

 一方「アラーム リピーター」の設計はまったくの新規である。それに相応しく、ガバナーで打音速度を規制するという野心的な設計が盛り込まれた。このアラームウォッチが一定した間隔で音を鳴らせる理由であり、同社がアラーム〝リピーター〟と名付けた所以だ。しかしこのムーブメントでさえも、駆動輪列はウニコから転用したものである。つまりウブロは、純然たる新ムーブメントの開発に際しても信頼性を重視したわけだ。ウブロがいかにメーカーとして成熟したかは、3つのムーブメントを見れば理解できる。

 新工房の落成と開発体制の充実により、今後ウブロは、ますますラインナップを増やしていくだろう。そしてウブロは、ハイエンドモデル以上に、プチコンプリケーションを充実させていくはずだ。誕生からの10年をデザイン性で牽引してきたウブロとビッグ・バン。しかし次の10年は、間違いなく新しいムーブメント、より正確を期すならプチコンプリケーションが牽引することになるはずだ。

Cal.HUB5003
ウニコの基本輪列を転用し、空きスペースにアラーム機構を収めたムーブメント。右の写真が示すように、駆動輪列はムーブメントの12時側に、アラーム用の輪列は6時側に分散して収められている。純然たる新規設計だが、信頼性を重視したことが分かる。手巻き。49石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。
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