新生シーマスター 300が生み出した新しい価値観
クラシカルな意匠を持つ新型シーマスター 300。しかしこの時計は、卓越したムーブメントに加えて良質な外装も備えている。2007年以降、ケースや文字盤の改良に努めてきたオメガ。そのひとつの帰結が、シーマスター 300と言えるだろう。
軽量なチタンに、褪色しにくいセドナゴールドを組み合わせたモデル。ベゼルはセラゴールドを象嵌したセラミックス製である。自動巻き(Cal.8400)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti×セドナゴールド(直径41mm)。300m防水。145万円。
1940年代から60年代の最盛期に、オメガは卓越した傑作を相次いでリリースした。「コンステレーション」や「シーマスター」。これらは搭載するムーブメントはもちろんのこと、外装にも見るべきものがあった。大量生産という枠組みの中で、同社は価格と高品質を両立させてきたのである。
70〜80年代の一時期、一層の大量生産が原因で内外装の質は下がったが、99年にコーアクシャル脱進機を発表して以降、オメガは再び品質向上に取り組むようになった。とりわけ2007年の「デ・ヴィル アワービジョン」以降、オメガは外装の面でも、かつての栄光を取り戻そうと試みるようになった。事実、オメガ社長のステファン・ウルクハートも「質が変わったのはデ・ヴィル以降」と明言している。新規開発のキャリバー8500を見せるべく、このモデルはミドルケースに削り出しのサファイアクリスタルを採用。オメガなどの中間価格帯で、ミドルケースにサファイアクリスタルを使った例は皆無だろう。
こちらはセドナゴールドではなく、18KYGとのコンビ。ブレスレットの中ゴマは、近年流行の金張りではなく、正真の無垢材である。動巻き(Cal.8400)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×18KYG(直径41mm)。300m防水。122万円。
セドナゴールド製の針とベゼルを備えたモデル。個人的な好みでは、最も好ましいシーマスター300のバリエーションだ。自動巻き(Cal.8400)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径41mm)。300m防水。83万円。
やがてオメガは、品質改善への取り組みを、よりベーシックなシーマスターやスピードマスターにも広げるようになった。新しいシーマスター300もやはり例外ではない。
1957年発表のシーマスター300は、そもそもプロフェッショナル向けの実用時計であった。そのため内外装の質感は〝並〟であり、コンステレーションと同等のクォリティーは不要だった。しかしシーマスター300の復刻にあたって、オメガはエクステリアのレベルを一新。いわゆる〝ラグジュアリーウォッチ〟の質感を与えたのである。
標準的なSSモデル。文字盤は強めのサンドブラスト仕上げの上に、ブラックラッカーを施したものである。その質感はかなり高い。自動巻き(Cal.8400)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径41mm)。300m防水。63万円。
実用的なチタンモデル。研磨仕上げを施すため、素材にはいわゆるグレード5 Tiが用いられる。軽いうえ、重心も低くて使いやすい。自動巻き(Cal.8400)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti(直径41mm)。300m防水。87万円。
文字盤は、オメガの好むブラックラッカー仕上げ。塗料の食いつきを良くするために下地を荒らす手法も、ファーストモデルに同じである。しかし下地の処理が細かくなり、80年代や90年代のラッカー仕上げ文字盤とは別物の仕上がりを見せる。褪色したような色合いの蓄光塗料を含め、その完成度は非凡だ。
ベゼルに採用されたセラミックスも、かなり手の込んだもの。これはセラミックスを成形し、印字の部分をレーザーで浅く彫り、その後リキッドメタルを流し込んだうえで、つらいちになるよう研磨している。
ケースやブレスレットの作りはさらに素晴らしい。サテン仕上げの目は細かく、ブレスレットのコマはすべてネジで連結されている。また微調整可能なバックルも、無駄なガタはまったくない。弓管とラグのクリアランスはもう少し詰めて欲しいが、ダイバーズウォッチとしては、法外に良くできた外装だ。
外装のすべてをセドナゴールドで仕立てたモデル。ローターとテンプ受けを18KRGに改めたCal.8401を搭載する。自動巻き(Cal.8401)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。18Kセドナゴールド(直径41mm)。300m防水。331万円。
酸にさらされても褪色しにくいセドナゴールドは、ダイバーズウォッチに向く素材。このモデルはSSとのコンビ。自動巻き(Cal.8400)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS×18Kセドナゴールド(直径41mm)。300m防水。122万円。
とはいえオメガは、これが実用時計であることを忘れてはいない。セラミックベゼルの欠けを防ぐべく、セラミックス製のプレートは金属製の部品の上にはめ込まれた。これならば、ベゼルをぶつけてもセラミックスにクラックが入る心配はないだろう。またオリジナルでは大きく飛び出していた回転ベゼル上の表示も、シンプルなドットに改められたうえ、ベゼル内に埋め込まれた。これはシャツの袖に引っかけないための配慮である。強いて言うと、かなりフラットな風防も、防水性を高めるための手法だ。現在のオメガをもってすれば、この時計にドーム状のサファイア風防を与えることは容易だっただろう。しかしそうすると防水性が落ちてしまう。オメガは、クラシカルな意匠に高い質感を盛り込みながら、実用性への配慮を怠らなかったのだ。
正直なところ、デイト表示を持たないこのモデルを、1本目や2本目の時計として選ぶユーザーは少ないだろう。しかし複数のコレクションを所有する愛好家で、かつ使えるダイバーズウォッチに興味があるならば、シーマスター300は常に検討に値する。個人的な意見を言うと、これは現行品の中で、最も望ましいダイバーズウォッチのひとつだ。
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