充実のバリエーション展開で獲得した
〝アイコニックウォッチ〟の地位

BRシリーズの成功に弾みをつけたのは、その拡張性の高さだった。大きな文字盤と汎用ムーブメントを搭載したBRシリーズは、生まれながらにしてバリエーションの拡張を約束されたようなものだった。加えてベラミッシュの持つ多方面への興味が、BRシリーズに多様なエッセンスを盛り込むようになる。

BR 03-92 ブラック マット セラミック

BR 03-92 ブラック マット セラミック
個人的には最も好ましいモデル。サイズが小さくなったほか、日付表示も加わった。自動巻き(BR-CAL.302/ETA2892A2またはSW300)。21または25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。セラミックス(ケース径42mm)。100m防水。49万円。

 前述したように、BRシリーズが支持された理由は時計としての高い完成度にあった。加えてこのコレクションは、ミドルレンジウォッチらしからぬ、高い拡張性も持っていた。

 理由のひとつは、文字盤の面積が大きかったことだ。結果ベル&ロスは、文字盤の色やデザインを変えるだけで、モデルの印象を一新することができた。これはロレックスが好む手法だが、ミドルレンジで大々的に取り組んだのは、ベル&ロスが端緒ではなかったか。もうひとつは、搭載するムーブメントを汎用エボーシュ、しかも薄いETA2892A2系統(現在はセリタSW300も併用している)に限ったこと。その証拠に、BRシリーズのモデル名は、末番にすべてETAのムーブメントナンバーを冠している。2892を載せた3針は92、2894を載せたクロノグラフは94などだ。結果、新興メーカーらしからぬ信頼性を得ただけでなく、ETA2892A2向けに設計された多様なモジュールが搭載できた。最後がサイズにおける拡張性である。2005年に発表されたBR01は、ケース径46㎜もあったが、搭載するムーブメントは直径25.6㎜しかなかった。つまりケースサイズの縮小は極めて容易だったのである。こうした要素を持つBRシリーズが、毎年バリエーションを増していったのは当然だった。

BR 03-94 デザート タイプ

BR 03-94 デザート タイプ
2016年初出。セラミックケースを採用し、サンドウィッチタイプの文字盤を採用したモデル。近年のBRらしく、インデックスが小型化された。自動巻き(BR-CAL.301/ETA2894A2)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。ケース径42mm。100m防水。72万5000円。
BR 03-92 スティール

BR 03-92 スティール
BR 01-92との大きな違いはケースサイズとネジ込み式リュウズ、日付表示の有無。しかし最新作では、インデックスが細くなって角も丸められたほか、BR 123とデザインコードを共通化するためか、ベゼルがわずかに太くなっている。基本スペックはBR 03-92と同じ。42万円。

 中でもBRシリーズの人気を決定づけたのは、06年に発表されたBR 03である。ケースサイズが42㎜に縮小され、加えて日付表示を備えたこのモデルは、BR 01のサイズ感にためらっていた愛好家たち、とりわけ日本の時計好きの食指を動かすには十分だった。

 またブルーノ・ベラミッシュが持つ嗜好の多様性も、BRコレクションを豊かにした。フランスの時計雑誌である「マグモントレ」誌が、今後も時計のデザイナーとして働き続けたいかと彼に問うた。対する彼の回答が振るっている。「イエスでもあり、ノーでもありますね。私は今も、自動車業界とスポーツアクセサリーに興味を持っています。偉大な自動車メーカーや、ナイキのような会社で働けたらと思いますよ」。

BR 03-92 ファントム セラミック

BR 03-92 ファントム セラミック
2014年初出。ケース素材にセラミックスを採用したモデル。構造は既存の「BR 01セラミック」と異なり、セラミックス製のミドルケースに、SS製のムーブメントホルダーとバックケースを貼り付けたようになっている。ムーブメントスペックはBR 03-92と同じ。52万円。
BR 03-97 パワーリザーブ

BR 03-97 パワーリザーブ
2014年初出。パワーリザーブ表示付きのETA2897A2を搭載したモデル。高級感を増すためか、インデックスはアプライドに変更された。自動巻き(BR-CAL.307)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。SS(ケース径42mm)。100m防水。50万5000円。

 その一方で、ベラミッシュは一貫して、シンプリシティとミニマリズムの信奉者であり続ける。「好きなデザイナーはジャスパー・モリソンとアルネ・ヤコブセンですね。とりわけ彼らの仕事における機能性とミニマリズム精神の普遍的な部分に共感します。ジャスパー・モリソンに関して言えば、彼の家電はとても面白いと思います。例えばロウェンタ向けに作った製品。彼の作った製品からは創造的で普遍的なビジョンを発見できます。アルネ・ヤコブセンに関しては、まず近代デザインの父であること、先見性を持ち探求する才能を持っている点が魅力でしょう。グランプリチェアなどが好例ですね」。

BR S ゴールデン ヘリテージ

BR S ゴールデン ヘリテージ
女性向けに開発されたケース径39mmのBR S。自動巻きが加わったのは2013年のことである。その中で、男性でも使えそうなのがゴールデン ヘリテージ。ラグを短く切ってあるため、装着感は一層快適だ。ムーブメントスペックはBR 03-92と同じ。SS。38万5000円。
BR 01-92 ヘリテージ

BR 01-92 ヘリテージ
2009年初出。BR 01にサンドカラーの夜光塗料と、ヌメ革のストラップを与えたバリエーション違い。なおスイスの時計業界で、ヴィンテージ風の夜光塗料をいち早く使ったのは、ベル&ロスである。ムーブメントスペックはBR 03-92と同じ。SS×PVD(ケース径46mm)。57万円。

 多様な要素を内包して、バリエーションを広げるBRシリーズ。プラットフォームとしての可能性に加えて、ベラミッシュの持つ多面性は、このコレクションを、航空時計に範を取った実用時計から、ベル&ロスを代表するアイコニックウォッチへと成長させることになった。しかし、である。ヘルムート・ジンの薫陶を受け、プロフェッショナル向けのハードな時計を作ろうとしたブルーノ・ベラミッシュとカルロス・A・ロシロの姿勢は、実のところ、創業時から何も変わっていないのだ。BRシリーズの10周年に際して、カルロス・A・ロシロは招かれたジャーナリストにこう語ったという。

「今なお、私たちはバーゼルワールドで毎年、ヘルムート・ジンと会っています。彼はもう99歳になりましたが、常に私たちのミーティングの最初のゲストなのです」



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