ジャガー・ルクルト/マスター・コントロール Part.3

1992年以降、ジャガー・ルクルトの屋台骨であり続けるマスター・コントロールコレクション。レベルソほどの分かりやすさは持っていないが、それ故にこのコレクションは面白さに満ちている。同社のブレッド&バターであるマスター・コントロール。その長くて興味深い歩みをひもといていこう。

マスター・コントロール

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)


MASTER CONTROL MEMOVOX [2020]
〝マスター・イヤー〟にデビューを飾った最新アラームウォッチ

マスター・コントロール・メモボックス

マスター・コントロール・メモボックス
改良版のCal.956を搭載したメモボックスの完成形。裏蓋がシースルーになったが、優れた音色は同じ。薄くなったため装着感も良い。自動巻き(Cal.956AA)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SS(直径40.00mm、厚さ12.39mm)。5気圧防水。124万8000円(税別)。

 2020年に全面刷新されたマスター・コントロール。その中のベストを挙げるならば、同年秋に追加された「マスター・コントロール・メモボックス」になるだろう。そもそもジャガー・ルクルトのメモボックスは、使い勝手に優れたアラームウォッチであり、同社はこのモデルを、当初からマスター・コントロールのラインナップに加えていた。誤作動が起きず、音量が大きく、そして澄んだ音色で鳴るメモボックスは、量産型の機械式アラームに限って言えば、最良のひとつだ。

 2020年、ジャガー・ルクルトはそのキャリバー956を改良して、新しいメモボックスに搭載した。従来モデルとの明らかな違いは、シースルーバックになったこと。従来はケースバックの裏に付いていたゴングを、ムーブメントの側面に回したためである。結果、ムーブメントが見られるようになったほか、ケース厚も12.39㎜と薄くなった。パワーリザーブが約45時間しかないのは残念だが、ケースが薄くなって装着感が改善されただけでなく、音量・音質共に一切犠牲になっていない。メモボックスは好きだが、厚みが気になっていた人にとって、これは最も優れた選択肢になるのではないか。

 ほぼすべてのモデルに1000時間テストを行うようになった2004年以降、いささか影の薄い存在となっていたマスター・コントロール。しかし、ファーストモデルが目指した、古典的な意匠と優れたパフォーマンスの両立というコンセプトは、今なおまったく色あせない。そのコンセプトを究極まで突き詰めることで、ジャガー・ルクルトはこのモデルを再び表舞台に引っ張り出すことに成功した。今や、マスター・コントロールのようなコンセプトを持つ、優れたベーシックウォッチは少なくない。しかしその先駆けとなった本作は、やはり傑作と呼ぶに相応しい。

マスター・コントロール・メモボックス

(右)ダイヤモンドカットされた大きなインデックスが、メモボックスの大きな特徴である。そのデザインは、1960年代のモデルを彷彿とさせる。ロゴだけでなく、MEMOVOXの表記も小さくされた。(左)アラームの時刻を知らせるポインター。従来はペイントの枠だったが、本作では夜光塗料を流し込んだ別部品に改められた。改善されたディテールは、新しいマスター・コントロールの大きな魅力である。

マスター・コントロール・メモボックス

ケースサイド。2010年に復活したメモボックスに比べて、ケースは2mmも薄くなった。そのため、自動巻きのメモボックスでは最も装着感に優れる。

マスター・コントロール・メモボックス

(右)先端までカーブの付けられたラグ。今のトレンドに従って、ベルトとケースの間隔は、詰めすぎない程度に詰められている。(左)ケースバックからのぞくのが、新しいCal.956AAである。2010年に発表されたCal.956は、フリースプラングテンプと、テンプ受けの周囲に設けられたヒゲゼンマイの変形防止ガードのおかげで、アラームを鳴らしてもヒゲゼンマイへの影響が少ない。そのアラームを鳴らすゴングを、裏蓋からムーブメントの外周に移したのが、956AAである。ケースが薄くなったほか、シースルーバックからムーブメントを見ることができる。2020年モデルはメモボックスの完成形である。



Contact info: ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


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