ジャガー・ルクルト/メモボックス Part.3

今や、アラームウォッチの代名詞的存在となったメモボックス。1950年に発表されたこのコレクションは、アラーム時計への採用が難しいとされた自動巻きや防水ケースをいち早く採用することで、唯一無二のアラームウォッチに変貌したのである。また、メモボックスの進化は、やがて不可能と思われたアラーム付きのスポーツウォッチを完成させたのである。

メモボックス

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年3月号掲載記事]


POLARIS MARINER MEMOVOX
ディープシーの衣鉢を継ぐ本格ダイバー

ポラリス・マリナー・ メモボックス

ポラリス・マリナー・ メモボックス
2020年初出のダイバーズウォッチ。刷新されたCal.956の採用により、シースルーバックが採用できた。極めて実用的なモデルだ。自動巻き(Cal.956AA)。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約44時間。SS(直径42mm、厚さ15.63mm)。30気圧防水。211万2000円(税込み)。

 2020年に大きくムーブメントを進化させたメモボックス。先述した通り、ケースの裏側にあったゴングを、ムーブメントの外周に回すようになったのである。その結果、ケースを薄くできるようになったほか、シースルーバックが持てるようになった。

 また、外周のゴングは強い衝撃を受けても、変形しにくい断面を持っている。ジャガー・ルクルトがこの優れたムーブメントを使って、ダイバーズアラームウォッチを進化させられないか、と考えたのは当然だろう。

 新しい年に発表された「ポラリス・マリナー・メモボックス」は、往年のポラリスを思わせるデザイン(より正確に言うと、18年の復刻版に近い)と、300mという高い防水性能、そして今のジャガー・ルクルトらしい良質な外装に特徴がある。文字盤の外周を荒らし、回転ディスクを持つのは18年のポラリスに同じ。しかし、発色や仕上げは明らかに改善された。ケースの厚さは15.63mm。正直薄い時計ではないが、ISO対応のダイバーズウォッチと考えれば妥当だろう。アラームの基本的な機構は熟成されている上、フリースプラングテンプのおかげで、ラフに使っても時計が壊れにくいのも魅力だ。

 肝心の音は、相変わらず極めて良い。ジャガー・ルクルトが言う「スクールベル」の音質は、現行アラームの中で最も優れたもののひとつであり、肉厚な防水のケースにもかかわらず、音量も普通のメモボックスに遜色ない。また、調速が優れているため、アラーム音は一定のテンポで鳴り続ける。

 正直、スマートフォンのアラーム機能があれば、アラームウォッチは必要ない。しかし、熟成されたメモボックスは、単なる機械に留まらない魅力に満ちている。澄んだ音色を聞くためだけに、メモボックスを手にする人がいるのも納得ではないか。

ポラリス・マリナー・ メモボックス

(右)新しいポラリス・マリナー・メモボックスは、ダイバーズウォッチとしてのコードをふんだんに盛り込んでいる。回転式のベゼルは、15分までにオレンジのドットが付けられたほか、アラームのセット時間を示すマーカーにもオレンジ色があしらわれる。文字盤はラッカー仕上げのディープブルー。しかし、外周は下地を荒らし、回転ディスクは研ぎ上げたラッカーと、仕上げを変えている。大きなインデックスと相まって、視認性は良好だ。(左)細かな配慮のひとつが、リュウズのチューブにあしらわれたオレンジ。ねじ込んでいない状態では、警告色として見えるようになっている。

ポラリス・マリナー・ メモボックス

ケースサイド。2018年のポラリスと比較しても、ケースの仕上げは良くなった。外装の改善に取り組む同社らしいポイントだ。ケースは薄くないが、装着感は意外に悪くない。

ポラリス・マリナー・ メモボックス

(右)視認性に優れる文字盤と針。18年のポラリスは文字盤の色が派手すぎる印象を受けたが、同作では一転して色味を抑えた。質感と視認性を両立させる手腕は見事だ。(左)新しいCal.956は、ゴングをミニッツリピーターよろしくムーブメントの外周に置いている。そのためムーブメントが見えるようになったほか、ケースの厚みも抑えられた。18年のポラリス・メモボックスは200m防水。本作は300m防水となったが、ケース厚はほぼ変わらない。



Contact info: ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


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