今でこそ当たり前になった永久カレンダーというメカニズム。その復興は1970年代に始まるが、85年のIWC「ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダー」がなければ、今のような形では広まっていなかったかもしれない。工芸品であった永久カレンダーを、使えるものに進化させる。クルト・クラウスが目指したユニークな設計思想は、初出から30年以上たった今なお、際立った価値を持ち続けている。
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年5月号掲載記事]
PORTUGIESER PERPETUAL CALENDAR 42
82000系ムーブメントを搭載するブティックエディション
小型化により使い勝手を向上させた新しいパーペチュアル。これは鮮やかな文字盤を持つブティック限定版だ。編み込んだカーフのストラップもブティック限定。自動巻き(Cal.82650)。46石。2万8800
振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG( 直径42.4mm、厚さ13.8mm)。3気圧防水。394万9000円(税込み)。
7日巻きの自動巻きを載せたポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーは、ダ・ヴィンチ・パーペチュアル・カレンダーの弱点を克服した傑作だった。もっとも、長いパワーリザーブを実現するためムーブメントは大きくなり、それは結果として、大きなケースをもたらすこととなった。筆者はポルトギーゼらしい大ぶりなケースを好むが、使う人を選ぶのは否めない。
対してIWCは、新しい自社製ムーブメントの82系を搭載した、小径のモデルを完成させた。それが「ポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー42」だ。基本設計は従来に同じだが、6時位置にムーンフェイズが移動。また年の代わりに閏年表示が加わった。年表示を省いたのは、収めるスペースを確保できなかったため。IWCならではの分かりやすい特徴はなくなったが、普段使いには十分だろう。
搭載する82000系は、本誌でも称賛した次世代のベースムーブメントだ。セラミックス製の部品を使ったペラトン自動巻きはデスクワークでもよく巻き上がるうえ、フリースプラングテンプの採用で耐衝撃性も高い。約60時間のパワーリザーブはやや短いが、高い巻き上げ効率を考えれば、普段使いで困ることはなさそうだ。また、ムーブメントが小さくなった結果、ケースは「常識的」なサイズに収まった。サイズの関係でポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーを避けていた人も、このサイズなら使えるのではないか。
1985年以降、時間をかけて熟成を重ねてきたIWCのパーペチュアル・カレンダー。世間には、工芸的な価値を強調した複雑時計は数多く見つかるが、実用性を追求したものはさほど多くない。その数少ない例外にして先駆者が、IWCの永久カレンダーなのである。複雑時計を使えるものにする、というクルト・クラウスの設計思想は、時を超えて、燦然と輝き続ける。
https://www.webchronos.net/features/72585/
https://www.webchronos.net/features/74626/
https://www.webchronos.net/features/51591/