ワールドタイム・クロノグラフ Ref.5930

パテック フィリップ「ワールドタイム・クロノグラフ Ref.5930」
世界を24のタイムゾーンに分割し、そこに属す代表的な都市の時刻を24時間で1回転するリングの移動によって示すのが「ワールドタイム」の仕組み。世界各地の時刻が一覧できる点ではGMTウォッチより便利。写真は2016年発表のパテック フィリップ「ワールドタイム・クロノグラフRef.5930」。ワールドタイムとクロノグラフ機構を統合した自社製自動巻きムーブメント「Cal.CH 28-520 HU」を搭載。

 さて、グローバルな時間の扱いに関して、国際的な取り決めが成立したのは、130年以上も前に遡る。1884年にアメリカ合衆国のワシントンで開かれた国際子午線会議でのことだ。そこでは、人為的に定められた経度0度の基点、すなわち本初子午線が通過するイギリスのグリニッジ天文台の時刻が標準時の原点として採択され、これに基づいて世界各国が自国の標準時を定めることになった。「GMT」とは、この Greewich Mean Time=グリニッジ標準時の意味であり、この「GMT」がすべての出発点である。

 さて次は「時差」だ。グリニッジ標準時は世界の標準時の原点であるからして、「時差」もこの「GMT」が基準。そこから東に経度15度移動するごとに1時間ずつプラス、逆に西に経度15度移動するごとに1時間ずつマイナスだ。なぜ東がプラスで西がマイナスなのか? 地球と太陽、世界地図を思い浮かべるとわかりやすい。地球は自転しているので、日の出は地理上の東から西に向かって順に出現する。つまり、西より日の出が早い東のほうが時間が進んでいることになり、だから東方向がプラスという理屈。一例をあげると、時差が1時間ある東京と香港では、香港が朝6時に日の出を迎えているときに、香港より東の東京ではすでに7時になっている。

 このようなGMTや時差が定められる前は、人々はそれぞれの国や地域で古くから慣習的に用いられてきたローカルタイムに基づいて生活していたが、通信や鉄道が飛躍的に発達した19世紀当時、ばらばらに使われてきたローカルタイムによって混乱や事故などが生じるようになった。そうした不都合を解消するために、世界共通のルールを定め、同一のシステムで世界時間を運用する必要が生じたのだという。