そして、時差と関係するのが「タイムゾーン(時間帯)」だ。ここでも同様の計算が登場する。まず1日を24時間と定め、この24時間で地球の1周=360度を割る。すると経度15度が1時間に相当し、この1時間が時差の基本単位になる。こうして24分割された世界の時間が「タイムゾーン(時間帯)」と呼ばれ、タイムゾーンに属する地域ごとに標準時が定められている。

 なかなか単純明快で合理的に思えるシステムだが、これはあくまでも原理原則にすぎず、実際のタイムゾーンの区分けと標準時は、国の政府や地理的条件に応じて恣意的に定められており、けっこう複雑である。現在の例で言いえば、国が東西に長く横たわるアメリカ合衆国やカナダでは、タイムゾーンを4つ分けてそれぞれの標準時を設定。ロシアのタイムゾーンの数は実に11もあり、東と西の端では11時間の時差がある。東西に広い国土であっても、標準時を一つにして、統一を図るのはいかにも中国。さらに、中央ヨーロッパ標準時(CET)のように、フランスやドイツ、スペイン、イタリア、北欧諸国などの東西南北に広がる多数の国々は、一つのタイムゾーンに属し、同じ標準時を使っている。

 こうした複雑な時間を時計で表示するには創意工夫を要する。1884年の国際子午線会議に端を発する世界時間は、時計産業にも刺激を与え、複数のタイムゾーンを表示するGMT機構の開発を促進したとはいえ、実用的で使える決定打はなかなか登場しなかった。20世紀の腕時計においてようやく実現したという感じである。時計史に残る成功例として双璧を成すのは、1930年代から1960年年代にパテック フィリップが製作した「ワールドタイム」とジェット旅客時代が幕開けを告げる1950年代にロレックスが発表した「GMTマスター」だ。