チャペックから、1930年に開発された腕時計では非常に珍しいダブル・エスケープメントをユニークに再解釈した「プラス・ヴァンドーム コンプリシテ」が発表された。2つの独立した脱進機がそれぞれのペースで鼓動し、歩度の変動は12時位置の差動装置によってバランスが保たれる。すべての機構はダイアル側にレイアウトされている。
二人の友人、二つの心が生み出した一つの時計
手巻き(Cal.SXH8)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWGケース(直径41.8mm、厚さ13.3mm)。5気圧防水。50本の世界限定。1980万円(税込み)。
本作はチャペックの有名なファーストモデル「ケ・デ・ベルク」と「プラス・ヴァンドーム」の進化系として2018年に生まれた。これらのムーブメントの構造は、ダイアルの7時30分と4時30分の位置にサブダイアルを備えた独特のチャペック・フェイスを生み出す。
最大の特徴であるダブル・エスケープメントのコンセプトの技術的側面は、チャペックのCEOであるザビエル・デ・ロックモーレルと、メゾンを取り囲むコレクター、投資家、愛好家で構成される人々にとって魅力的な要素だ。しかし、チャペックの指針として重要な原則は、メカニズムの完成度が外装部、ダイアル、針、ケースと同レベルであるということだ。そのため、すべてのチャペックのムーブメントは技術的要素と美的要素を結び付けるように設計されており、両方を均等に機能させ、強化させている。
コンプリシテの出発点は、オリジナルのプラス・ヴァンドームのダイアルレイアウトを尊重することだった。2つの特徴的なサブダイアルがピラミッドの底部を形成し、その頂点には第3のサブダイアルが配置されている。
「このアイディアの真の美しさは、12時位置のディファレンシャル・ギアを中心要素として、ダブル・エスケープメントを表現する方法にあります。」とザビエル・デ・ロックモーレルは説明する。「そして、メカニズムをダイアル側にもってきてすべてをオープンワークにすることで、美しい動きのある彫刻のような作品になるのです。」
しかし、このようなムーブメントを構築することは、非常に難航したという。美的要素と技術的要素を調和させることができる製造パートナーを探し求めるも、結果的にアイディアは一時保留された。
ある日、家族と友情がきっかけでこのアイディアは現実へと動き始めた。ザビエル・デ・ロックモーレルの子供の一人であるポールは、独立時計職人ベルンハルト・レデラーの娘とヌーシャテルの学校で同じクラスに属しており、共通の友人が2人の父親を紹介したのだ。彼らの出会いは友情、アイディアの相互交換、アドバイスや支援に繋がり、最終的には問題が解決し、新しいダブル・エスケープメントの構造が可能となり、新しい時計が誕生するに至った。本作「プラス・ヴァンドーム コンプリシテ」はこのコラボレーションを示すものであり、また協力して動作する2つの独立したエスケープメントの一体感を意味する。
手巻き(Cal.SXH8)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRGケース(直径41.8mm、厚さ13.3mm)。5気圧防水。50本の世界限定。1980万円(税込み)。
独自の美学と洗練されたメカニックが織りなす不断の絆
ダブル・エスケープメント レギュレーターの原則は、2つの独立したバランスホイールが個別に振動し、ディファレンシャル・ギアを介してひとつの香箱からのパワーが供給される動力によって、重力や日常生活における様々な要因によって引き起こされる可能性のある歩度の変動が打ち消され、より高い時間の正確性が確保されるというものだ。
ダブル・エスケープメントがその核となるチャペックの新たな自社製ムーブメントSXH8は8つのサファイア・ブリッジによりダイアル側の輪列全体を明らかにし、それらはボックススタイルのサファイア・クリスタルガラスで保護されている。特徴的なトライアングル・ブリッジによって支えられたテン輪により、現代性と伝統を融合させ、様々なパーツの異なる金属の色彩と共にムーブメントの内部構造に深く視線を引き込む効果がある。
伝統的な手作業による仕上げに加え、より現代的な装飾手法も採用されており、ダイアル側だけでなく、ムーブメント側にも18か所のインワード・アングルが施されている。クラウン・ホイール・メカニズムは、ベルンハルト・レデラーの隠れたシグネチャーであり、コンプリシテの開発に対する彼の貢献への敬意としてムーブメントのデザインに組み込まれていることも味わい深い。
すべての針とインデックスはケース素材に合わせたゴールドプレイトが施され、暗い環境でも視認性を高める蓄光コーティングがなされている。真のチャペック・スタイルという観点から言うと、ほとんど隠されたディテールにも美的効果のための仕上げがなされている。例えば、ムーブメントの奥深くを見ると、針が取り付けられているポストがオープンワークになっており、小さな「アルカード・デ・ウール」(時間のアーケード)が作られていることが分かる。
ケースのデザインは「ケ・デ・ベルク」と「プラス・ヴァンドーム」からインスピレーションを得ており、比較的コンパクトで着用しやすいサイズである。ケースサイドの流れるような曲線とラグ側面のくぼみの鮮明な角度が生み出すダイナミックな緊張感が目を惹く。ブラッシュとポリッシュの仕上げの組み合わせによって、光と影のコントラストが多く生まれている。それぞれのダイアルのカラーと一致するアリゲーター・ストラップがエレガントな佇まいだ。
「チャペックのヴィジョンは、モダンな高級時計製造の進化の最前線に立ち、時計製造の伝統を未来に投影することです。」とザビエル・デ・ロックモーレルはいう。「過去との繋がりは基本的な要素ですが、それを新しい方法で表現します。プラス・ヴァンドーム コンプリシテは、精度、創造性、美学、オープンさ、コラボレーションという哲学を示した最新の例です。」
この哲学は、チャペックが1845年にパリのヴァンドーム広場に最初期の時計ブティックを開いた時から受け継がれるものである。2015年にメゾンの歴史とクラフトマンシップを再興しようとする時計愛好家のグループによって復活し、翌年のGPHG(ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ)ではパブリック・プライズを受賞している。現在も、チャペックの時計は独特なデザイン、高品質の職人技、限定生産で知られている。
また、Only Watch 2023のために、チャペックはスティール製ケースのプラス・ヴァンドーム コンプリシテのユニークピースを製作している。ダイアルはレマン湖の漣のパターンをチャリティのオフィシャルカラーで表現したシャンルベ技巧によるエナメルのリングで囲んでいる。このユニークピースは11月5日にジュネーブで開催されるOnly Watchオークションに寄付される予定である。
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