「リシャール・ミル カップ 2024」が、2週間にわたる壮大なレースの末に幕を閉じた。リシャール・ミル カップを手中に収めたのは、1911年にウィリアム・ファイフが設計、建造したガフカッター船「マリキータ号」であった。
激しくも優雅なクラシックヨットレースの祭典
去る2024年6月15日、2週間にわたる壮大なレースの末、「リシャール・ミル カップ 2024」が幕を閉じた。最もエレガントなヨットレースのひとつとして知られるリシャール・ミル カップ。今年はどんなドラマが生まれたのか、その様子をお伝えしよう。
リシャール・ミル カップは、23年に始まった招待制のクラシックヨットレースであり、その目的は本来ヨットが持つ高性能なレーサーとしての働きをたたえることにある。参加にあたっては、1939年以前に建造されたヨット、またはそれらを忠実に再現したレプリカヨット、かつ喫水線での長さが10メートル以上であるという条件をクリアする必要がある。名だたるヨットが時代を越えて会し、激しいレースを繰り広げる様子は、クラシックカーの祭典であるルマン・クラシック・モーターレースのコンセプトにも通ずる。
20世紀前半のヨットは、スピードを追求するための巧みな設計が与えられ、素材やディテールに至るまで一貫したコンセプトに従って建造されている。リシャール・ミルがこのレースを開催するに至ったのは、その哲学に同社の時計作りの姿勢との親和性を見出したからに他ならない。そう考えれば、リシャール・ミル カップが本格的なクラシックヨットレースの主要な大会としての地位を早々に築き上げたことにも納得である。
今年の大会では、10艘のクラシックヨットとレプリカヨットが参加し、およそ100年前と同じ本格的なレースが繰り広げられた。ヨットレースの歴史に縁ある地を舞台としたコースも、リシャール・ミル カップの特徴だ。スタートは、イギリスのファルマスにあるロイヤル・コーンウォール・ヨットクラブ。そこからダートマスのロイヤル・ダート・ヨットクラブ、カウズのロイヤル・ヨット・スクアドロンを経由し、各ヨットはフランスのルアーヴルにあるソシエテ・デ・レガッツ・デュ・アーヴルを目指した。
ヨットレースには、海流や風などの大自然を味方につけることのできる優れた操舵技術が求められる。それは本大会においても例外ではなく、ポートランド・ビル付近の強風やロイヤル・ヨット・スクアドロン沖での微風、激しい潮流が多くのヨットを苦しめた。そのような中で生まれたいくつかのハイライトをお伝えする。
インショアレースでは、スクーナー船「ヴィヴェカ号」とウィリアム・ファイフ製ガフカッター船「ムーンビームⅣ号」と「マリキータ号」の3艘が、カウズ沖で壮大な戦いを展開。4時間以上も先頭を競い合い、息をのむような接戦を繰り広げた。
大型ヨットのレガッタクラスで見事勝利を勝ち取ったのは、1911年に建造されたマリキータ号だ。同号のオーナーであるブノワ・クチュリエとスキッパーのジャック・カラエスには優勝トロフィーが手渡され、ふたりは大きな歓声とともに祝福された。
総合2位に入賞したのは、ステイスルスクーナー船の「ヴィヴェカ号」だ。29年にJPモーガン社のために建造された同号は、近年になって施されたカリフォルニアでの修復作業が評価され、賞が授与された。
小型ヨットのクラスで優勝を勝ち取ったのは、チャールズ・E・ニコルソンが設計、建造された「パトナ号」だ。同号は総合ランキングでも3位入賞を果たし、そのスピードと修復技術の高さを改めて世に知らしめた。
特別なトロフィーを受賞したのが、「エレナ号」だ。3つのパッセージレースにおいて、大型スクーナー船の「アトランティック号」との一騎打ちを制し、勝利を勝ち取った。
見どころはレースだけにとどまらない。オープニングの夜会やスクーナー船アトランティック号でのレセプション、各ヨットクラブが主催した各賞の授与式では、レースの開催を祝い、レーサーたちが互いの健闘を称え合う姿が見られた。クラシックヨットの魅力を後世に伝える場として、リシャール・ミル カップは今後も数々の伝説を紡いでいくことだろう。
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